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LIVE REPORT

Japanese

新里英之(HY) / 稲村太佑(アルカラ)

Skream! マガジン 2017年11月号掲載

2017.09.29 @下北沢LIVEHOLIC

Writer 沖 さやこ

HYのリーダー、新里英之(Vo/Gt)とアルカラの稲村太佑(Vo/Gt)というレアなラインナップで下北沢LIVEHOLICにて開催された、限定150名の弾き語りイベント"Skream! presents ACOUSTIC STORY"。年末に開催された"GT2016"にBIGMAMAのゲストとして出演した新里が、アルカラのライヴを観ていたく感動したことも今回の共演に繋がったとのことだ。

先攻、稲村が普段どおり首にタンバリンをかけてステージに現れると、早速そのタンバリンを首からはずし、アコースティック・ギターを構えてループ・マシンを使い、音を重ねていく。彼はさらに音の中へMC(というよりは漫談)、コール&レスポンス、華のある抜群の歌声を織り交ぜた。そのギャップにアルカラファンの笑いは止まらず、HYファンは驚きを隠せないといった様子。最後にHYの「ホワイトビーチ」をワンフレーズだけカバーするというニクい展開を繰り出し、一気に観客全員を引き込んだ。
初期曲「おしゃれ強盗」を披露したあとは、再びループ・マシンを使い"おとついひとりでスタジオに入ってたらできた曲です。いまからファンキー稲村 in the house!"と言い、スポークン・ワードを絶唱。哲学的なリリックでサウンドもシリアスなのに、途中で"今夜の催し、俺のせいでやや押し"と韻を踏んだかと思えば、転調したチャルメラのメロディに繋げ、さらに哲学性を増したリリックになったかと思えば待ち受けるのはあっさりしたオチという、常人では考えられない名曲ならぬ迷曲。そのあとは彼が最近観たばかりというTVアニメ"ママレード・ボーイ"のオープニング・テーマ「笑顔に会いたい」を若干の声真似混じりでカバー。稲村ワールドはさらに中毒性を帯びていく。
面白さだけでなくシリアスさや感傷性も兼ね備えていることもアルカラ、そして稲村の魅力。稲村は闘病中の父親の見舞いでの別れ際、父親が寂しそうに自分を見ていたときに"これが最後やったら嫌やな"と思ったが、結果的にそれが最後の会話になったという過去を明かす。"最近どうなん? と言われても照れくさくて誤魔化したりしてたけど、もっといろいろ話しておけばよかった。親父に作ったわけではないんですけど、そういう想いを込めて作った曲を"と話し、最新作『KAGEKI』に収録されている「ひそひそ話」を演奏した。切なく優しいギターの音色とヴォーカル。観客はその想いを胸に刻みつけるように聴き入る。続いて披露されたひりついた演奏とメッセージ性の強いフォーク・ソング「1月」は、目を瞑り歌の中に入り込む彼の気迫に目を見張った。
稲村が"みんなテンション迷子になってるでしょ"と言いチューニングするギターの音に合わせて歌うと、会場の空気も少しずつ和らぐ。"戦前と言われているいま、こういう(ライヴをする)時間をいただけていることに感謝するし、こうしてステージに立って、いまこの地球に生きていてやれることがたくさんあると思った。もっといろんなことをしたいなと思ったんですよ。そう思って作った曲を最後に演奏して帰ります"と言い「銀河と斜塔」を静かに強く歌い上げた。最後はタンバリンを首に戻し、尾崎紀世彦の「また逢う日まで」をカラオケで歌いながら"お前たちの弾き語りの概念、アコースティックの概念を壊してやったぞー!!"と絶叫。会場中のシンガロングに見送られながらフロアを横切ってステージをあとにした。

後攻、新里は波の音をSEにステージへと上がり、フロアに向かって"ハイサーイ!"と沖縄の挨拶でコミュニケーションを取る。彼は今回このライヴのために地元の沖縄からやってきたそうだ。"稲村さんすごかったね。このあとやりにくいわ(笑)!"と言い場内を笑わせると、優しい口調で"ここからはひーでのワールドをみんなに届けていきたいと思います"と語り掛けた。この日のライヴのテーマは彼の"人生"。
1曲目の「NIJIKAN TRIP」からフロアにはクラップ、シンガロングが起こり、"love"の歌詞に合わせて手でハートを作る人が多数。まっすぐ曇りなき愛を歌う彼の力で、場内はハッピー・ムードに包まれる。
キュートであたたかい歌声を届けたあと、「弱虫」では明るく力強い歌声を響かせる。曲のストーリーを声色でも表現していくようだ。"18年音楽をやってきていまが一番楽しいのは、つらいことを乗り越えられたから"と話した新里は、ギターの宮里悠平が体調不良で休養していた時期に宮里自身が作詞作曲をした「君の声」を披露。宮里の想いを代弁するように、そして自分の想いと重ねるような歌声は、すみずみまであたたかい。
新里は観客に優しく語り掛け1曲1曲の背景を詳しく明かしていく。他界した祖母との暮らしや当時の生活を綴った「二階の奥の部屋」では祖母の物真似や祖母とのエピソードや愛を織り交ぜて披露した。自分の見てきた景色、感じた想いを歌とMCで描き出す。まさしく彼の人生を目の当たりにする感覚に陥った。そのときそのときに感じた気持ちを素直に落とし込んだHYの音楽は、メンバーそれぞれのとっておきの思い出の写真が詰まったアルバムを見ているようだ。それを歌う新里は過去の気持ちを思い出し、懐かしむだけでなく、その当時の気持ちをパワーにしていまもなお前進し続けているのだろう。
"みんなの近くで、生声でみんなと歌いたい"と話した新里はフロアの真ん中に降りて「AM11:00」を歌い出す。フロアに降りたのは突発的なアイディアだったらしく、実際降りてみて"近いね! 自分が選んだんだけど(笑)"と言う彼の姿も新鮮だった。観客は大合唱。新里は弾き語りをしながらフロアの後ろまで歩き出し、後方でハイボールを飲みながらライヴを観ていた稲村を急遽前へ引っ張り出す。ふたりによる即興コラボレーションにフロアも大いに沸いた。最後は「エール」で明朗に締めくくる。観客のシンガロングは最初から最後まで止まず、大きな愛に溢れた空間だった。

アンコールは新里が再び稲村をステージに呼び込み、HYの「BLUE」をコラボレーション。"僕は本気で歌うんですけど、稲村さんのおかげで歌詞がまったく入ってこないと思います(笑)"という新里の言葉どおり、彼の弾き語りの横で稲村は首にかけたタンバリンをリズムに合わせて叩いたり、エアドラムをしたり、"ウォウウォウ"などと合いの手を入れてみたり、"片想い"という歌詞に合わせて"肩重い"のポーズをしたりとフリースタイルもフリースタイル。稲村の様子や観客の満面の笑みを前にした新里も、とびきりの笑顔を浮かべていた。ふたりは最後に肩を組み、熱い抱擁を交わす。アコースティックという概念どころか、活動するフィールドも、どことなくテンプレ化してきたライヴという概念もぶち壊す自由度の高さ。表現者の人間性が出てこそ表現物は独自の色を持つのだろうと再確認する一夜だった。

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