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0.8秒と衝撃。 塔山忠臣 の 「アホボケカスは俺か？」【第31回】

2015年10月号掲載

0.8秒と衝撃。 塔山忠臣 の 「アホボケカスは俺か？」【第31回】

0.8 秒と衝撃。 塔山忠臣 の「アホボケカスは俺か？」

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櫻の下にはきっと、
希望が埋まっている。

電車に乗っているとたまにどうでもイイ話を、クソでかい声で喋ってる奴らがいる。

今夜も。声を聞けば男二人に女のグループ。

その時はずっとネット上でのTwitterの話や、アニメのなんとかが神だの、アイツがうぜぇだの、
ナンダカンダ。

残飯みたいな会話をひたすら大声で続け、周りに聞かせまくっている。

女の笑い方が病的でキライだ。

茨城の実家からの帰りでもあり、割かし電車が長丁場なのと、基本僕は自分のカラダに触れられない限りは虫でも殺さないようにしてるので、
その時は大好きなトータルライフフォーエバーをイヤホンで静かにかけ、
櫻の木の下には瓦礫が埋まっている。を読み、なんとか難を逃れた。

そんな週末のトーキョーへ戻る車内。

茨城であった出来事を色々と思い返してみる。

僕の父はすでに他界している。
父には年の近い兄がいた。その兄も既に何年も前に病気で亡くなっている。

彼は生涯ひとりっきりで、
生きた人だった。

女性に関しても、モテるモテないなどといった概念すら存在しないようなほど、

そんな場所に彼の人生は居なかったようなぐらいに、ずっとずっと、
ひとりで生きてきたヒトだった。

結果だけを見てしかモノを話せない死人のようなヤツが多い中で、
ナカナカ理解に苦しむコトかも知れないが、

子供の僕はある種、
この彼を美しいとさえ
思ってしまった。

ただ黙々と朝からレンコン畑へと向かい、命を育て、自然と会話し、

霞ヶ浦が綺麗な夕闇に染まるまでの間、
せっせと汗を流して、泥んこになって帰ってくる。

ウチに着くと大好きな、古い銘柄の煙草をふかし、ひと息をつく。

寡黙な彼は僕の父親のいる本家の茶の間に少しだけいて、僕らや家族の雰囲気を優しく感じながら、
ニコニコと笑い、

庭から続く竹やぶを通り、すぐ裏にある自分の自宅へと、
帰路に着いた。

毎日決まった時間に起き、

畑へ行き、決まった時間に戻ってきては、派手な食事も取らず、飾らず、出しゃばらず、

そっと自宅に帰り、
眠りにつく。

幼い僕には、まるで、
『老人と海。』の世界にいるようで不思議で、

いつしかそんな彼が興味の対象になっていた。

もちろん幾度か話しかけたコトもある。

茨城の訛りが強く、
声も大きなヒトではないから、

いつも心が通じあえたのか、通じあえなかったのか分からないような、

彼との会話には、
そんな美しい切なさがあった。

......叔父との忘れられない思い出がひとつある。


それは、僕も成人し、ひとり立ちして、東京に移り住んできたある年、

叔父が体調を壊してしまい、入院せざる得なくなった。

久しぶりに叔父に会いに茨城へ
行った。

古びた病院のすみにある、
広くはナイその部屋で、
彼はベッドに横たわっていた。

『オジさん、大丈夫？』

話しかける僕に叔父は優しく微笑んでくれた。

その目は明らかに以前より精気にかけていた。

しばらく沈黙が続いたあと、
窓の外を見た叔父が僕に言った。


『季節の匂いが、変わったね。』


毎日自然と向き合ってきた叔父だからこその、言葉だった。

周りからすれば大したコトではないコトでも、彼にすれば、

あの毎日が止まってしまった現実が、とても。

とても、寂しかったのだろう。

僕にはそれが痛いほど分かった。


......物を作る。......何かを残す。

これにはヒトの評価や、
お金がついてまわる。必ずだ。

僕も毎日、毎日、そんなコトも
考える。

ただ、僕にはまだそれ＋αに、
何かやらなければイケないこと、出来るコトがあるような気がしてならない。

そんな強い想いを、ぶつけるため、

最近、毎日、毎日。

また新しいモノを作っている。

それは、極端な話、
音楽だけではない、
色々なものを。


自分の生活ひとつ取っても
そうなんだよ。

作れるんだ。本気になれば。

あの時の病院での叔父の言葉を思い出し、
僕はまた茨城から東京へ。


何かを探しに。帰ってくる。

今日を、生きるため。

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