Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

MENU

LIVE REPORT

Japanese

0.8秒と衝撃。/ 四星球

Skream! マガジン 2015年07月号掲載

2015.06.15 @下北沢LIVEHOLIC

Writer 天野 史彬

激ロックエンタテインメントが運営する新ライヴハウス、下北沢LIVEHOLICのこけら落とし公演"LIVEHOLIC presents GRAND OPENING SERIES"。約2週間にわたって行われた本シリーズの第7弾に登場したのは、四星球と0.8秒と衝撃。片や"コミックバンド"を自称する、笑いの含有量では他の追随を許さない激走する衝動&笑動系パンク・バンド。片や、マッドな音楽殉教者、塔山忠臣率いる生粋のアート・パンク集団。かなりの異種格闘技戦だが(※ちなみに、この2組は2013年にも、四星球のツアーで2マンを行っているようだ)、お互いがお互い、それぞれの見据える"ロックの本道"を突き詰めてきたバンドだからこそ産まれる、過剰かつ純潔なエモーションが爆発した一夜だった。

先手として登場したのは、四星球。まずは、まさやん(Gt)、U太(Ba)、モリス(Dr)の3人が揃いの法被を着てステージ上に登場。背中には"祭"の文字が。その文字を見るだけで、否が応でも期待が高まる。そして登場した北島康雄(Vo)は......キ、キリンっすか? 黄色の全身タイツに、首には何故か巨大な(そして手作り感溢れる)キリンの被りものを被って登場。はい、場内爆笑。登場しただけで、ひと目見ただけで"あ、この人たちには敵わない。身を委ねよう"と思わせる存在感。しかもすごいのは、まだ1曲目が始まる前だというのに、場内のオーディエンスはすでに、バンドの出す音に合わせて手拍子を始めていること。出てくるだけで場の空気を完全に掌握してしまう、生粋のエンターテイナーぷりに脱帽である。「絶対音感彼氏」でライヴは幕開け。決して音楽的な情報量の多いバンドではないが(だが、1曲の中でコロコロと変わるリズムの多彩さはすごい)、笑いの情報量は異様に多い。その耳馴染みのいいメロディとリズムでオーディエンスの心を掴めば、その先は合唱も振りつけもお手のものだ。グイグイと四星球ワールドに会場を染め上げていく。正直、笑いのポイントは多すぎて書ききれないのだけど、やはりこの日特筆すべきは、新たなライヴハウスのこけら落としにあやかって、「チャーミング」、「MOONSTAR daSH」、「遥かカルタ」という3曲もの音源化されていない新曲を披露したことだろう。特に、オーディエンスひとりひとりがその場でぐるぐると回り始める、という異様な光景を見せた、8月にシングル・リリースされる「MOONSTAR daSH」、そして"ウォール・オブ・デス"ならぬ"カルタ・オブ・デス"(各々がカルタを取りに行く瞬間をイメージしてモッシュします)が発動された「遥かカルタ」では、直情的なのにシュールな、四星球にしか産み出すことのできない空間が産まれていた。ライヴのハイライトとなったのは、"伝説作りに来ました!"という北島の叫びと共に始まった「クラーク博士と僕」だろう。曲が始まった瞬間に一斉にフロア前方に詰めかけるオーディエンス。曲の中盤では北島とまさやんがフロアに降り立って大暴れ。フラフープを回したり、まさやんがエクソシストばりのブリッジ歩行を披露して女子たちの悲鳴をかっさらったりと、やりたい放題。最後に演奏された「フューちゃん」の後には皆で万歳三唱も。"コミックバンド"の肩書に恥じぬ、愛と笑いに満ちたステージングを披露した。


続いて登場した、0.8秒と衝撃。この日の彼らのステージに関しては、塔山がMCで叫んだ"四星球があんだけ笑いをくれたんだから、僕らは汗で返したいと思いませんか!!"という言葉が象徴的だったと思う。オーディエンスを巻き込み、一体となりながら場を盛り上げた四星球とは、ある意味、真逆。狂気と殺気をノイズとビートに刻み込みながらぶつけていくことで、オーディエンスの心と身体を浸食し揺さぶっていくような、超攻撃的かつソリッドなパフォーマンス。四星球のような一体感ではなく、そこにはバンドとオーディエンスがお互いの精神をぶつけ合うことで発生する摩擦熱によって、互いの体温を高めていくような、緊張感と熱狂が相乗効果を起こしていくカタルシスがあった。セットリストに関しても、「ビートニクキラーズ」で始まり「ARISHIMA MACHIN GUN///」で締める、その間も、とにかくアグレッシヴなナンバーを立て続けに盛り込んだ破壊力満点のセット。近年のハチゲキのライヴは、セットリストの中で緩急をつけて物語性を演出することも可能になっていたし、特に直近のシングル・トラック「ジャスミンの恋人」(この日はやらなかった)で顕著だったような、音の輪郭をはっきりとさせることで生まれる有機的なグルーヴ感がひとつの肝になっていたと思うのだが、この日はあえて、約1時間のステージを獰猛な野性で駆け抜けること、爆弾のような音塊をぶつけ続けること、そこに重きを置いていたように感じられた。これは、こけら落とし公演ゆえに選ばれたセットだったのかもしれないし、本人たちの中には何かしらの実験的な意識があったのかもしれない。で、結果として、かなりヤバかった。序盤はかなり暴発気味かと思ったが、塔山が狂い叩く電子パッドのビートに、キャッチーさとファンクネスを与えているところが良かったし(A CERTAIN RATIOのようだ)、J.M.の咆哮はヒリヒリとした切迫感すら宿していた。特に後半の流れ――立て続けに演奏された「POSTMAN JOHN」、「Brian Eno」、「KAGEROU」、「ARISHIMA MACHIN GUN///」に関しては、楽曲そのものの持つポップネスの中でバンドの自我が弾けて覚醒したかのような、そんなすごみがあった。その激しい音の波の中には、冷徹なまでの美意識が宿っている、そんなふうに感じさせられた。


予定調和なんてぶち壊す、極端なまでの"喜劇性"と、極端なまでの"美意識"――この日、四星球とハチゲキがそれぞれ観せた景色は、"己が信念を行く"という点において、それぞれが正しくロックだった。僕らはライヴハウスにスポーツをやりに来ているわけじゃないんだ、ということを伝えてくれる2組の過剰にエモーショナルでエネルギッシュなライヴ。この過剰さは、とてつもなく偉大だ。

  • 1