Japanese
0.8秒と衝撃。
Skream! マガジン 2013年06月号掲載
2013.04.27 @赤坂BLITZ
Writer 天野 史彬
楽しむことは字と違って楽じゃないし、自由には常に責任がつきまとう。だから、楽しみも自由も諦めて生きていくことができれば、どれだけ気が楽だろうかと、ときどき考える。しかし、どうしても諦めきれないものが世の中にはあって、それを追い求めるが故に、困難や受難に立ち向かっていく人たちもいる。たとえば、0.8秒と衝撃。がそうだ。2月にリリースされたアルバム『電子音楽の守護神』のリリース・ツアー・ファイナル、赤坂BLITZワンマン。この日、ステージ上で暴れまわる彼らは、楽しみと自由を掴み取るために、自分たちの喜びと尊厳を貫き通すために、そして、それをリスナーとわかち合うために、この世界に体当たりでぶつかっていた。
ライヴは「シエロ・ドライブ10050」からスタートした。初っ端から、とんでもなくヘヴィで、ヒリヒリとした音塊が会場を覆う。塔山とJ.M.の歌も、いきなり"絶唱"モードである。一瞬、ちょっと危ういんじゃないかと思った。その過剰なまでのバンドのテンションの高さが、どこか暴走しているようにも見えたのだ。だが、それが余計な心配であることは、オーディエンスの反応からわかった。私は2階席から観ていたのだが、ハチゲキの演奏に対して、まるでとぐろを巻くように蠢き、踊るオーディエンスの景色は、まさに圧巻のひと言。この日、入り口で入場者に配られた仮面を被っている人も中にはいて、なんとも猥雑で痛快な光景がそこには広がっていた。ハチゲキが鳴らす、歪で、暴力的で、しかしどこか感傷的なグルーヴは、ちゃんと聴く者に伝わっている。この日、赤坂BLITZにいた誰もが、自分たちを押しつぶそうとする現実に対し、踊ることで、笑顔を振りまくことで、"NO"を突きつけようとしていたのだ。
序盤からハイテンションで飛ばしていたが、中盤には「The END」、「この世で一番美しい病気」、「28日目の月」、「タナトス号に乗って」といった1stアルバム『Zoo & LENNON』に収録されたメランコリックな楽曲が多く演奏されたのも印象的だった。これらの楽曲は、『電子音楽の守護神』を経た今、とても真っ直ぐ耳に響く。そこには、とても素直なハチゲキの姿があった。まるでTHE SMITHSの歌詞に出てきそうなほどに繊細で傷つきやすい少年のような表情を持つこれらの楽曲もまた、ハチゲキの本質のひとつであり、ここで歌われていることは、彼らの本音そのものなのだ。そして、そんな繊細さを見せながらも、この日も塔山のMCはグダグダだ。ウケてはいるのだが、勝率は......6割、いや、7割と書いておこう。だが、私はステージ上での塔山のMCパフォーマンスが凄く好きだ。"今日は他のメンバーに話させる"と言いながらほとんど自分の言葉で遮ってしまう様も、ちょっと腰砕けなコール&レスポンスも、バイトの話も。塔山忠臣という男は、私たちに圧し掛かる重い現実を乗り越えるために、ユーモアがどれほど重要な武器となるか、よく知っている。どれだけ怒り苛立っても、いじけて腐ってはいけない。笑い合うことは、この現実に対して私たちが持ちうる最高の知性なのだ。
「ビートニクキラーズ」、「町蔵・町子・破壊」、「Brian Eno」、「NO WAVE≒斜陽"」――これらの代表曲達の破壊力は、本当に凄まじかった。とびきりキャッチーなサビがあるわけでも、わかりやすいリズムを持っているわけでもない。それでも、これらの楽曲がド直球に伝わるのはきっと、曲がオーディエンスを束縛しないからだろう。ハチゲキのビートやメロディは、ノり方、踊り方、暴れ方を決めつけない。"やっぱ自分の踊り方でおどればいいんだよ"という江戸アケミの言葉を思い出させるほどに、オーディエンスを自由に解放する。これが、ハチゲキが根源的なダンス・ミュージックとして機能する理由だ。しかし、それと同時に、序盤で演奏された「ストロベリーシンセサイザー」や後半の「ラザニア」など、バンドがオーディエンスとの一体感を求めていく姿もあった。あれだけ自由に踊り狂っていた若者たちが、一斉に、隣の人々と一緒に拳を突き上げる。そこにあるのは"信頼"だろうと、その光景を見て思った。そもそも安易な予定調和が存在しないバンドだからこそ、この日、赤坂BLITZに生まれた一体感は、バンドとオーディエンスとの確固とした信頼関係の賜物だった。
本編は、塔山とJ.M.のふたりで演奏された「FOLK GUERILLA」から名曲「黒猫のコーラ」で終了。そして2度目のアンコールの演奏前、塔山とJ.M.のふたりは、オーディエンスに対する感謝を語った。そこでは、バンドが去年、メジャー・デビューを目前にして話が頓挫してしまったことも語られた。ハチゲキというバンドが抱えてきた、守ってきたものの重さを感じさせるMCだ。この日、J.M.がいつになく感情的だったことも、とても印象深かったことのひとつだ。バンドのアイコンとして佇んでいた彼女も、今はとにかく何かを伝えたくて歌い、喋っている。今の0.8秒と衝撃。には、伝えたいことがたくさんあるのだ。そして、大ラスは「Freedom FOREVER.」。『電子音楽の守護神』のラストに収められた、ハチゲキ史上最も即効性の高いポップさとメッセージ性を持ったこの曲は、間違いなくこの日最大のハイライトだった。その真っ直ぐな演奏と、舞い落ちる風船と踊り狂うオーディエンスの景色に震えるほど感動し、ケツ丸出しでダイヴする塔山の姿には大いに笑った。この光景こそ、絶対に誰にも汚させてはいけない私たちの誇りだ。演奏終了後、"この音楽が時代に埋もれないように、上に行きます"とJ.M.が語る。"時代に埋もれないように"――この言葉が、胸に突き刺さる。『電子音楽の守護神』というアルバムは、ハチゲキがはじめて"あなた"に向けて作った作品だ。あなたの人生が時代に埋もれないように、一緒に輝きますように――そういう思いを込めて作られたアルバムだ。だから私たちも、0.8秒と衝撃。を時代に埋もれさせるわけにはいかない。ハチゲキはそれだけ、私たちの大事なものを賭けるに足るバンドである。この日のライヴはそれを改めて確認させてくれた。
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