Japanese
BLUE ENCOUNT
Skream! マガジン 2018年09月号掲載
2018.07.19 @Zepp Tokyo
Writer 石角 友香
この日、田邊駿一(Vo/Gt)は、いったい何回"最高!"と遠目でも歯が見えるぐらいの笑顔で言ったことだろう。そのテンションは、ツアー・セミ・ファイナルでZepp Tokyo 2デイズの2日目とは思えない、むしろツアー初日で久々にファンと顔を合わせたぐらいの高さだった。それも無理もない。異常なまでの猛暑のなか、空調がマックスで稼働しているとはいえ、フロアの熱気は2階から見ていても尋常じゃないほどに上がっていたのだから。そのパワーは、ただ暴れたいとか、悲しみや悔しさをぶつけるとか、そういうモードをほとんど感じさせないもので、ファン自身の喜びや爆発するエネルギーがすべてポジティヴなニュアンスでステージに向かって放出されていた。そのせいで、登場時から田邊が楽しさでちょっと自身のコントロールを失うぐらい、いい意味でフロアに翻弄されていたのも致し方ないだろう。
感動的で人の痛みに寄り添い、わかりやすい構造を持った、いわゆるブルエン(BLUE ENCOUNT)らしい曲というパブリック・イメージから解放され、今のバンド・サウンドで、とにかく気持ち良くて楽しく、かっこいい曲を本能的に作り、全14曲というフル・ボリュームながら、小気味よい尺で一気に聴かせるアルバムになった『VECTOR』。それらの自由度がこれまでのライヴでの鉄板ナンバーとうまく肩を並べている。
色合いの違うファスト・チューンが連投された序盤から、フロント3人がこれまで以上に強烈なキャラ立ちを見せているのは、江口雄也(Gt)と辻村勇太(Ba)の音がクリアに聴こえるせいでもあるだろう。ダンサブルなミクスチャー「...FEEL ?」での高村佳秀(Dr)の引き締まった16ビートも気持ちいい。派手で圧の強いビートというだけでなく、機能性が高い彼のドラミングが生きる新曲群が、音楽的な快感のツボを射抜いてくる感じだ。ファンキーなノリはリズム隊の得意とするところで、「coffee, sugar, instant love」のスムーズさと辻村の本領発揮のスラップのレベルの高さを実感。曲に必要なプレイであって、わざわざソロ回しする必要もないぐらい、ブルエンのスキルは高い。終始、笑顔で進行してきたライヴで唯一シリアスな演出が加えられたのが、アルバムの中でも新しい風を吹かせている「虹」。バックドロップが下がり、ステージの背景いっぱいに広がるヴィジョンには、刻まれるコードの速さとシンクロして針のような雨の映像が縦に走り、世の中の様々な悲しみや喜びを象徴するモノクロの写真が投影される。曲の後半では光が上の方向に飛翔し、明るい情景を映し出していく。インディー・ロック感やマス・ロック的なパートもあり、"音楽が人間にとってどれだけ自由の象徴なのか?"を思わせる歌詞と相まって、MCでの言葉の表現とは違う感銘を受けた。
今でもブルエンにとってZepp Tokyoは、尊敬するバンドを観てきた憧れのライヴハウスである。でも、今はそこに必要以上の感傷的なムードはないように見えた。神聖でこそあれ、最高の遊び場と言えるタフさをバンドもファンも身につけたのだと思う。「虹」に聴き入っていたフロアが、後半の8曲も衰え知らずのエネルギーでステージに食らいついていく様は痛快だった。特に現在のブルエンとファンにとってのアンセムと言える「灯せ」での、希望に向かって観客が笑顔で精一杯手を伸ばす、信頼に満ちた空気感には胸が熱くなった。大きなグルーヴに満たされる「こたえ」を本編ラストに持ってくる自信も頼もしい。迷いながら人生を並走してくれるバンド。その長い道筋は続いていくのだと確信したセミ・ファイナルだった。
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