キュウソネコカミの「ウィーアーXXXX!!」 【第12回】
2015年09月号掲載
小さい頃からなにかにつけて「将来の夢はなんですか?」と訊かれてきたように思う。
苦手だった。夢を訊かれるのは。
例えば小学校の卒業文集で。
例えば中学時代に流行りがちな友達同士のプロフィール交換で。
例えば高校の文理選択で。
例えば意中の人との甘酸っぱい会話の中で。
多分、2パターン居る。そのときの自分と地続きの自分をきちんと捉えられていて、あり得べき目標として将来の夢を書くタイプと、ただその項目を埋めるために無理矢理ひりだすタイプ。
僕は完全に無理矢理ひりだすタイプだった。ただスポーツ少年団で野球をしているからといってスター選手でもないのにプロ野球選手が夢だと書いたり、学級委員になりがちなタイプだったから教師と書いたり、本や文字が好きだしテストで点をとるのが苦ではなかったから弁護士と書いたり。その程度の「夢」だった。
教師ならたしかに地続きの将来の姿としては良かったかもしれないが、どの「夢」だって具体的なプランを持っていたわけじゃなかった。多分弁護士のなり方なんて知らなかったし。子供の頃の夢なんてそんなもんじゃなかろうか。
対して、そんな中でも、一見地に足をつけた具体的な「夢」を書くやつが居た。「トリマー」だとか「SE」だとか。大人になってみて、実際にその職に就いてるやつもいなくはないが、大抵は、実家が美容室だから家業を継ぐ意味も兼ねて美容師になったりとそんな地続きのバックグランドがあったやつばかりだ。
そらそうだ、と思う。
小さい頃から意識できる職業なんてほんのわずかしかない。自分の見える世界の中で触れられるものや、せいぜいテレビなんかでたまたま視聴したものが精一杯だ。その量なんてたかが知れている。10歳の子が「オレは将来日本一のラブホテルを経営する!」なんて言うことはまずないし、周りの大人は全力で阻止するだろう。海賊王でも目指しておいてくれよ、と思うだろうが、それは海賊王なんかよりも立派で尊敬すべきお仕事である。
音楽業界だって、想像だにしなかった仕事がこんなに多いのかと毎度毎度驚かされるばかりだ。よもや、レコーディングの時にドラムの音を決める(叩くのはまた別)という仕事が、それもある程度仕事としての専門性の幅を持って成立しているとは思ってもみなかった。
加えて、職業というのは日々生まれている。プロゲーマーやユーチューバー(個人的にはこの呼称は好きではないが)は、現代に生まれた金の稼ぎ方として、至極まっとうで、十分に異質ではない。
だからこそ、こう言いたい。
夢はどんどん捨てていい。
例えばあなたの夢が「農作物の遺伝子組み換えをより深く研究して世界中から飢餓を無くしたい」であったとしたらやる気がある限りは捨てなくていいだろう。
例えば「弁護士になって正義の味方を体現するんだ」であったのならそれは現実とのギャップを見たところで諦めるか方向転換をした方がいいのかもしれない。
例えば「世界を股にかけるトレジャーハンターになって一攫千金大金持ちになる」というのなら考古学者か詐欺師かどちらかを選んだ方が幸せかもしれない。
夢っていうのは、叶えようとすればするほど頑固になってしまうもんだ。頑固になってしまえば当然、他のことを犠牲にしたり周りを見渡す努力をしなくなる。でも、本当はその夢の仕事に対する適性が自分になかったら? 潰えたときは? 時代がそれを必要としなくなっていたら?
思うに、もちろん、「棋士」だとか「世界的なバイオリニスト」とかいうのは別にして、子供の頃から無理をして夢を叶えようと頑固になる必要はないと思う。なぜならその「夢」は数少ない選択肢の中から早々に選ばされてしまっただけの、無意識に刷り込まれてしまっただけの「夢」だったりするからだ。
きっと、僕が夢を訊かれるのが嫌いだったのはこれだ。なんとなく感じていた。「夢」っていう耳心地のいい言葉で、勝手に可能性を限定してくれるなよ!と。大人っていうのはよかれと思って無意識に「夢」以外の他の可能性を潰しがちだ。
僕は、ミュージシャンやバンドマンが「夢」だったことは、いままで、一度もない。
カワクボ タクロウ(Ba)
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