Japanese
androp
Skream! マガジン 2014年04月号掲載
2014.03.23 @国立代々木競技場・第一体育館
Writer 山口 智男
終盤、佐藤拓也(Gt/Key)がMCで言っていたように、andropというバンドにとって、この日のライヴは通過点の1つに過ぎないのだろう。しかし、国立代々木競技場・第一体育館を1万人以上の観客が埋め尽くした、その通過点は"点"と言ってしまうにはあまりにも大きすぎるものだった。
ちょうどデビュー5周年にあたる今年2014年に迎えることができた、この1つの到達点を特別なものにしたいという想いは、当然、バンドにもあったにちがいない。序盤、内澤崇仁(Vo/Gt)が"今日初めてやる曲に加え、初めて見せる演出もある"と予告したとおり、この日、andropは大会場にふさわしいスペクタクルなステージを展開し、ライヴハウス・ツアーとは明らかに違うスケールでデビューから5年、バンドが遂げてきた成長を印象づけたのだった。
もっとも、そんな大舞台で演奏する4人のメンバーたちはいつもと変わらず......いや、これまで以上にストイックに音楽に向かおうとしているように見えたところが面白いというか、andropらしいというか。ともあれ、大勢の人と歌を共有したいという最新アルバム『period』を作るモチベーションの1つになった想いを込めた「Singer」から始まった3時間近くに及ぶ熱演は振り返ってみれば、"行くぞ!代々木!"という内澤の掛け声とともにミラー・ボールを使い、競技場の広い天井に流星群を降らせた「RDM」をはじめ、『period』からの新曲をたっぷりと披露しながらも、新旧の楽曲を網羅したキャリアの集大成を思わせるものだったのだ。
そんなセットリストは彼らが結成した頃から、エッジーな感性とポップなソングライティングの狭間で、実にいろいろな曲作りに取り組んできたことに改めて気づかせてくれたのだが、そういう曲の数々を、今回はテーマごとに構成したようなところが興味深かった。
見どころを挙げていったらキリがない。スペクタクルなステージという意味では、バンドの背後に映し出した映像と照明を駆使した「Tonbi」から「Light along」までのパートが圧巻だった。いやいや、圧巻と言うなら、ダンダンダンダンという重低音のビートとともに会場をダンス・フロアに変えた「World.Words.Lights.」「MirrorDance」の2曲が生み出した光の渦も見事だった。
そして、"1つになろう。思いっきり声を出していこうぜ。一緒に歌ってくれ!"という内澤の呼びかけに導かれ、1万人が1つになった「Voice」では、1万人による歓喜のコーラスとともに無数の紙吹雪がレーザー光線によってキラキラと眩い光を放ちながら輝いた。筆者はその美しい光景を一生、忘れないだろう。
アンコールを求める観客が2ndフル・アルバム『one and zero』収録の「Encore」を合唱する光景は、彼らのライヴではもうすっかりお馴染みだ。曲の背景をじっくりと語ったアンコールの「Missing」を演奏しおえ、記念撮影も行い、これで終演と誰もが思っていると、"もう1曲やってもいいですか?! まだ終わらしたくないんだよ"と内澤が言い出し、予定外のダブル・アンコールも実現した。メンバー全員がいつもよりも喋ったMCでは意外なエピソードも明かされ、ファンを驚かせ、笑わせた。
通過点にすぎないとクールに言ってしまうには、見どころ満載の特別なライヴだったことは言うまでもない。
そういうライヴにできた感謝の気持ちを"言いたいことはいっぱいあるのに、ありがとうという言葉でしか表現できないのが悔しい"というふうに語った内澤は"(その気持ちは)曲で返す。すげえいい曲が書けそうな気がする"と最後に語った。また、会場の大小にかかわらず、変わらぬ想いでライヴをやっていきたいと語った佐藤は国立競技場のような大きな会場でライヴをやる理由を"挑戦"と語って、"まだまだ挑戦を続けて、みんなともっとすごい景色を見たい"と言った。
その言葉を、そこにいる誰もが同じ想いで受け止めたに違いない。1つの通過点はバンドにとって新たなステップ、あるいはモチベーション(それも極めて強烈な)になったようだ。『period』を作り上げ、バンドとしてやっと機能し始めたと語るandropがこの日のライヴをステップにどんな跳躍を見せてくれるのか大いに期待している。この夜、内澤が言った一言が印象に残っている。"どこにでも行ける気がしている"彼はそう言ったのだった。
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