Japanese
androp
Skream! マガジン 2016年11月号掲載
2016.10.16 @Zepp DiverCity TOKYO
Writer 山口 智男
振り返ってみれば、この夜のandropは1曲目の「Voice」から自信に満ち溢れていた。
10月12日にリリースした最新作『blue』のタイトルどおり青いライトが照らすなか、ステージに出てきたメンバーたちがセッティングを終え、このツアーから加わったサポートのキーボード奏者がお馴染みのフレーズを奏でるやいなや、メンバーたちを迎えた観客の手拍子は"ウォー!"という大歓声に変わった。
そして、佐藤拓也(Gt/Key)が今まで聴いたことがないくらいデカい音で鳴らしたコード・ストロークがガツンと脳天に直撃する。伊藤彬彦(Dr)のキックもいつにも増して力強い。早速、大きなうねりが生まれたスタンディングの客席を見渡しながら、内澤崇仁(Vo/Gt)の"いくよ!"という掛け声を合図に全員がジャンプ! ジャンプ! ジャンプ! なんだ、観客の煽り方もずいぶん堂に入ってきたぞと思っていると、バンドはそのまま間髪入れずに「One」、「Roots」、「Glider」と畳み掛け、序盤にして早くもクライマックス!? と思わせるほどの盛り上がりを作り出してしまったが、キメの多い熱度満点の演奏とエモーショナルな歌で圧倒した「Glider」の間奏では、気迫に満ちたジャム・セッション風の演奏も披露した。
"初っ端から、すでに楽しいです!"と内澤は満面の笑みを浮かべたが、見ているこちらは初っ端から、こんなandrop見たことない! とびっくりさせられっぱなしだった。
この日、内澤は音楽やファンと真摯に向き合い、どんどん新しいことに挑戦していくため、自分たちで立ち上げた"image world"から再出発したその決意を改めて観客に語ったが、彼の言葉以上に雄弁に彼らの決意を表現していたのが、この日のバンドの演奏だった。サポートにキーボード奏者を迎え、これまで使っていた同期に頼らず生音で勝負した今回の挑戦は、前述のとおり、これまで見たことがないandropの姿をダイナミックに印象づけたが、筆者が聴き始めたときにはエレクトロニックなサウンドにアプローチし始めていた彼らが、まさか正反対とも言えるこんな変化を遂げるとは――。
ベースをスラップする前田恭介(Ba)と内澤が"鹿児島が生んだモーツァルト"と紹介したキーボード奏者によるソロの応酬から演奏になだれ込んだ「Colorful」からの5曲は、ひょっとしたら、"一緒に歌いましょう!"、"もっと声を出して!"という内澤の呼び掛けに観客が大きなシンガロングで応えた「Run」、「Yeah! Yeah! Yeah!」、力強いビートに合わせて観客が飛び跳ねた「MirrorDance」といったライヴ・アンセムに比べると、ちょっと地味に感じられたかもしれない。しかし、内澤がギターでファンキーなカッティングを聴かせた「Colorful」や手数の多いドラムを始め、ゆったりとした歌とは裏腹に音を詰め込んだ「Bell」や「Sayonara」の演奏から、現在の彼らが追求している抜き身のバンド・サウンドがしっかりと感じられたことを考えると、今回の大きな見どころだったと言ってもいい。
だが、圧巻だったのはなんと言っても、闇や人間のダーク・サイドに真正面から向かい合った『blue』を収録曲順どおりに演奏した終盤の6曲だ。闇の中から聞こえてきたフィードバック・ノイズが、内澤がストラトキャスターから持ち替えたリッケンバッカーを弓弾きしながら鳴らしていたことがわかると同時にバックドロップに無数の目が現れ、観客の度肝を抜いた「Kaonashi」は、激しい演奏と内澤が歌に込めた情念が客席を圧倒。観客たちは金縛りにあったように声も出せず、ただただステージを凝視するしかなかったと言えば、バンドの演奏がいかに壮絶だったかがわかってもらえるだろう。ハードな印象の中にファンキーなグルーヴが感じられた「Sunny day」では再び熱度満点のインプロを見せつけ、そこからなだれ込んだ「Kienai」では改めてバンドの一体感を表現すると同時に内澤は身体を震わせながら力強い歌声を聴かせ、改めてヴォーカリストとしての存在感をアピールした。
ラストの「Lost」は前田が作った曲に伊藤が歌詞を乗せたバラード・ナンバー。内澤は再びリッケンバッカーを弓弾きしながら、オートチューンも使い、これまでの激しい感情や情念を洗い流すような清々しさを持った切ないメロディを祈るように歌い上げた。その「Lost」と佐藤が作曲した「Kienai」の2曲で、内澤以外のメンバーが曲作りに参加するという新作の挑戦が生んだ大きな成果を改めて物語る演奏もこの夜の聴きどころだった。
andropのライヴではお馴染みの凝った映像も派手な演出もアンコールもなし。そんなところにも曲と演奏で勝負するロック・バンドの矜持が表れていた。
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