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LIVE REPORT

Japanese

androp

Skream! マガジン 2016年06月号掲載

2016.05.15 @Zepp Tokyo

Writer 山口 智男

危ない、危ない。早合点は禁物だなんてほっとしている場合じゃない。完全に浅はかだった。5月22日の仙台PIT公演でファイナルを迎える今回のツアーは何かのリリース・ツアーではないから、前回のツアーとそんなに内容は変わらないんじゃないかと思って、一瞬、足を運ぶことをためらってしまったんだから、本当に浅はかだったとしか言いようがない。
 
これだけバンド・シーンが盛り上がっている今、代わり映えしないライヴをやっていたら、どれだけ人気があったとしても、次から次へと現れる新しいバンドにファンを持っていかれてしまう。いつまでも変わらず、大好きな曲だけやっていてほしいと願っているファンと、それに応えることを停滞と思わないバンドならいざ知らず、andropのファンなら、彼らの楽曲やライヴ・パフォーマンスに普遍の魅力を見出しながらも常に新たな刺激を求めているに違いないし、andropの4人だって毎回、新たな感動を届けたいと思っているはず。そんな当然のことが考えからすぽっと抜けていたんだからどうかしている。そもそも、"Image World"という今回のツアー・タイトルに、どんな意味が込められているか考えていたら、そんなことはなかったはずだ。うっかり見落としていた。この日、ライヴのオープニングとラストでステージ後方のスクリーンにロゴ・マークが映し出されていた"image world"は、今年3月にバンドが新たに立ち上げた、内澤崇仁(Vo/Gt)曰く"自分たちがかっこいいと思っていることをバッと(時間をかけずに、という意味だと思う。たぶん)突きつける場"。その第一歩となるツアーなんだから、もちろん前回と同じような内容になるわけがない。
 
まず、この日のライヴの印象を書いてしまうと、何度も書いているように今回は何かのリリース・ツアーという、ある意味、縛りがなかったこともあって、配信のみのリリースだった最新シングル「Astra Nova」や、"できたてほやほやの新曲やります"と内澤が紹介した、まだタイトルも決まっていない未発表曲も披露しながら、懐かしい曲を多めに選曲。それらを新たなアレンジで聴かせ、バンドの現在のモードをアピールした2時間だった。
"ドッ・ドン・ターン"と伊藤彬彦(Dr)の打ち鳴らすドラムが深い余韻を残す中、スポットライトに照らし出された内澤が美しいハイトーン・ヴォイスで歌い始めると、そのスポットライトは横に広がり、佐藤拓也(Gt/Key)、前田恭介(Ba)を映し出す......と思った刹那、ステージ後方からの強烈なライトがステージの4人の姿を消すというドラマチックな演出にいきなり気持ちを持っていかれた1曲目の「Strobo」から、この日、バンドはほとんど曲間を空けずに次々と曲を繋げていった。
 
"もっとひとつになろう!"と内澤が声をかけた「One」では、まばゆい照明が客席を照らす中、まだ序盤にもかかわらず大きなシンガロングが起こり、"しょっぱなからすごいですね"と思わず言葉を漏らした内澤を始め、メンバーを感嘆させた。"今日しかできない特別なライヴにしようと意気込んでいる"と内澤が言ったとおり、大半の曲で曲ごとに趣向を凝らした映像を流しながらの演奏は、実は約2年ぶりだったそうで、前述した新たなアレンジのみならず、そんな意味でもこの日のライヴは懐かしい曲が多くありながらも新鮮に感じられたのだった。
 
グランジーなリフがすこぶるかっこよかった「Meme」を始め、バンドの演奏が以前よりも尖っているように感じられたのは、終演後、メンバーに確認したところ、シーケンスを減らして、できるだけ4人が奏でる生音だけで聴かせるようになったからだそうだ。しかし、佐藤がアコースティック・ギターを弾き、前田がベースに加え、シンセも演奏した「Human Factor」のダンス・ミュージックの要素が強調されたアレンジを聴く限り、単純に生音だけで勝負しようと考えているわけではなさそうだ。
 
アンコールの1曲目、音源化していない"大切な曲"だという「Hana」を披露したあと発表された、10月1日(土)から全国5ヶ所を回る秋のワンマン・ツアーの前には何かしら新しい作品を届けてくれるんじゃないかと期待している。きっとそこではこの日、内澤が"楽しみにしていてください"と言った"楽しいこと"、"新しいこと"が明らかになるに違いない。
andropはさらに変化、そして進化し始めている。そんなことが実感できるライヴだった。今回のツアーを見逃した方は特に、秋のワンマン・ツアーは、ぜひ。これまでとはひと味違う感動を味わえるはずだ。

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