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INTERVIEW

Japanese

ASIAN KUNG-FU GENERATION

2018年10月号掲載

ASIAN KUNG-FU GENERATION

Member:後藤 正文(Vo/Gt)

Interviewer:石角 友香

-(笑)もうリリースされるシングルについて、ここまで執着しているアーティストの今の心情を聞くというのも珍しい体験ですが。今回の「ボーイズ&ガールズ」には、ひとりひとりの消えかけた魂に火をつけるぐらいの感じもあるし、同時に、"どうでもいい"みたいな感じもするし。両方あるように思うんです。

なるほど、それは面白い意見ですね。

-後藤さんとしては初期衝動的なものではなくて、ものすごく狙って作ってると思うんですけど。

でも、わりとシンプルなことを歌ってますけどね。僕らがここに至って、これから新しいものをちゃんと作れなかったら、過去がどうこうっていうのは別に意味がないことだと思うし。今いいもの作れなきゃダメでしょ、みたいな。そう思うと、厳しいことだけど楽にもなれるな、っていう。過去に対する思いみたいなのは、多くの人がそこで立ち止まってウンウン言うわけです。でも、もう"生きる"ということはそういうことじゃないな、というか。"あのとき何ができなかった"よりも、"今は何がやりたくて何ができるか"の方が大事だろ、みたいな。

-毎日生まれ直してる、ぐらいの気持ちにならないと。

そうですね。


"We've got nothing"っていうのは"今やろうと思ったところから始められるからね"っていう、わりとお気楽なメッセージなんです


-若いときはそういうこと言われると"何言ってんだよ"って気になりますが(笑)。

そうなんですよ。でもこのぐらいの歳になってくるとね(笑)、これまでの人生よりもこれからの方が短いかもしれないんだっていう、そういう気持ちになってくる。あと20年何ができるかとか。どう考えたってMick JaggerやPaul McCartneyみたいにはいかないぜ、と思ってるし。あれだけお金を持ってコントロールしてたら超人でいられるかもしれないけどね、みんな老いていくわけで。そう考えると、ここ10年でできることって、ここ10年でしかできないし。やっぱり、ギリギリ身体が動く40代と、絶対質が違うことだから。自分の人生の先を考えてみると、ほんとに大事に味わわないともったいないなって気持ちはすごくありますね。

-たしかに。そして、いつの時代も今を作っているのはボーイズとガールズなんだということも伝わってきます。

そういうタイトルを付けたけど、別にボーイズ&ガールズのためだけに書いた歌詞じゃないよっていうのは自分の中にもあって。すべての人に向けられてるというか、"We've got nothing"っていうのは、"今やろうと思ったところから始められるからね"みたいな、そういうお気楽なメッセージでもあるし。

-お気楽なメッセージをちゃんと追い込んで作った感じがしますけど。

ほんとそうですね。深刻さと深刻じゃない感じが同居してる感じはありますね。

-例えば、ここに100人いて全員信用できないわけじゃないし、でも信用できる人の言うこともすべてが信用できるわけじゃないし。SNSでのやりとりを日々体感していると、人の言動や思考に否応なしに振り回されている感覚もありますけど。

でも自分の大事なものは自分で決めろ、と思いますけどね(笑)。最近それは特に思う。誰がどうとかじゃなくて。どうしてそれを美しいとか素晴らしいとかって思うかはお前のものだろ? みたいな。みんながいいって言ってるものがいいって思ったことを気恥ずかしく思う必要もないし、それがミーハーとかじゃなくて、その人自身がいいと思うんならいいじゃないかと。逆に誰もわかってくれないものをいいと思ったときも同じで。

-自分が大事だと思うものに自信を持てというか、この曲では"持て"とすら言ってないかもしれないですが。

それが間違ってることはあるかもしれないけど、とにかく決める、始めるのは君だし、僕だし、すべての人が"We've got nothing"なんだよ、みたいなことです。"今"って考えたら、何かをやんなきゃいけないと思うんですよ。だから、ものは考えようなんですけどね。"はじまったばかり"って考えれば。さっき"毎日生まれ直す"っておっしゃいましたけど、ほんとそうだよね。毎日生まれたみたいな気持ちで生きたらいい。そんなことできたら最高だなと思いますよ。

-そして「祝日」の音像も新鮮でした。歌詞は"誰かが襤褸を出すまで"とか、まさに今の日本の状況が重なりますけど。

こっちは人の曲(※作曲は山田貴洋)なので、いっぱい皮肉を書きまくるという(笑)。"新しい祝日"なんて怖さしかないですよね(笑)、このご時世だと。ほんとに恐ろしい。それが人の曲だとできるなと思って。でも、こっちの方がアジカンらしい曲だなと思われそうかなと。あんまり自分で"これに似てる"とか"あれに似てる"とか言いたくないけど、ちょっと「ライカ」(2008年リリースの4thフル・アルバム『ワールド ワールド ワールド』収録曲)的な進行とかもあったりして。山ちゃんはメジャー、マイナーを行ったり来たりする、いろいろと転調していくことがやりたかったらしくて。

-シンプルに言うとTHE CLASHみたいでもあり(笑)。

(笑)ギターの"ンチャ、ンチャ"は入れた方がいいかな、ぐらいの。ちょっとそういう要素を入れないとJにひた走っていく曲調でもあるので、わりと今のJ-ROCKのフォーマットの曲だなと僕は思いますけどね。でも「ボーイズ&ガールズ」はそれをぶっ壊しにいってる。"もう終わるんか?"ってところで"はじまったばかり"って歌ってるけど、曲は終わらざるを得ないみたいな空気になっていくという(笑)。

-それと、今回のシングルを聴いて思い出すことがあって。最近の20歳前後のバンドは90年代のオルタナに影響された人たちがすごく多いですけども、そういう音像とも違うんですが、その時代を思い出すところもあるんですよ。

"Back to 90s"っていうのは結構前からテーマにしてて、ただそのままやってもダメだろうね、みたいな。何しろ、最近の音楽のレンジが広がってるから。だからあれをあのままやっても絶対もの足りない、ミドルだけの音楽になっちゃう。

-まさにそうしたサウンド面の戦いの渦中にお邪魔したわけですね。

まだ現在進行形で試行錯誤してるので、アルバムで結果が出たらいいなと思います。