Japanese
ASIAN KUNG-FU GENERATION
2019.03.18 @LIQUIDROOM ebisu
Writer 石角 友香
"別にロックじゃなくても、自分の魂が揺さぶられればなんでもいい。いつか一緒にできなくなる日は来るわけで、だから一瞬一瞬が尊くて"――アンコールの最後に演奏した新曲の前に後藤正文(Vo/Gt)が発した言葉だ。重みも前向きさもあるけれど、この日のライヴを観る限り、アジカンはまるで新しい音楽シーンを作り出したように感じた。それは音像然り、フラットに音楽を楽しむスタンス然り、20代のバンドをフロント・アクトに迎えたこと然り。中でもバンドが鳴らす新しい空気感には、バンドとしての新たなフェーズに加え、人間は何度でも新しい興奮や楽しさを実現できるのだという、豊かな聴感を追求したアルバム『ホームタウン』が示唆した彼らの意図が具現化されていた。
アジカンのライヴハウス公演というプレミアムな空間だが、その空気は"丸ごとこの日を楽しもう"という気概に満ちていた。フロント・アクトのHomecomingsが奏でる、ギター×2、ベース、ドラムという、シンプルながらどこかアジカンのバックグラウンドとも通じるような、エバー・グリーンなギター・アンサンブルが瑞々しい。彼女たちが、畳野彩加(Vo/Gt)の穏やかで意志の強い声が印象的な「Blue Hour」など、"言いたいことはいっぱいあるんですが、それより曲を聴いてほしくて"と、5曲を披露してくれた時間はあっという間だった。
まだホール・ツアーも含めツアーの最中なので、セットリストや曲順の詳述は避けるが、LIQUIDROOMでアジカンのライヴを観るという、ちょっと非現実的なことがフロアを不思議な緊張感に包んでいたようで、わりと早い段階でゴッチ(後藤正文)から"みんなのほうが緊張してるんじゃないの?"と、気持ちをほぐすMCが。そのあとはフロアが"そうだよな、楽しめばいいんだ"と気づいたようなテンションで、ジャンプしたりクラップしたり、各々自由に楽しむ空間にシフトしていった。この日最大の発見は、自前でPA卓を入れていたことにも顕著だが、近年のホールでのライヴでは、楽器の分離の良さは素晴らしいものがあり、今回も楽器ひとつひとつの音、つまりメンバーの意志や今のプレイ・スタイルがヴィヴィッドに伝わってきたことがまずひとつ。特に伊地知 潔(Dr)のスネアのデッドな感じや、シンバルを極力控えたドラム・サウンドが、新作の表題曲「ホームタウン」や「モータープール」といった今のアジカンを象徴する楽曲はもちろん、「ループ&ループ」のような長年の"4番バッター"的な楽曲でも聴くことができたところだ。ひとりひとりの演奏が明確に聴こえ、引き締まっているうえに豊かなアンサンブルで圧はない。約2時間にわたるライヴは終始一貫して耳にも身体にも優しい音だったのだ。加えて新作以外からの選曲もかなり嬉しい意味で意表を突くもので、「迷子犬と雨のビート」や「夕暮れの紅」のイントロにも歓声が上がったが、それ以上に意外で嬉しい曲の披露もあった。昔のアルバムからの曲もチョイスされたセットリストは、生粋のアジカンファンの心情をあらゆる時空へ飛ばしながら、この場でひとつの大きなグルーヴを作り上げる。でも個人的にはそこに懐かしさは感じなかった。それ以上に今鳴らす音に懸けるバンドの姿がフレッシュで、聴き逃せない瞬間が連続していたのだ。いつからだって心の底から始めたいことは本気ならできる。その思いの頂点であり包容力に溢れる「ボーイズ&ガールズ」、さらには"解放区"と題された新曲も早くも披露。スポークン・ワード的な部分がラップへの接近を感じさせつつ、正真正銘の8ビートというフレッシュさだ。従来のアジカンとも他のバンド・シーンとも違うまさに新たなシーン。この豊かさは体感しないとわからない。

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