Japanese
ASIAN KUNG-FU GENERATION
2015.03.25 @Zepp Tokyo
Writer 山元 翔一
"変わり続けるからこそ、変わらずに生きてきた"――これはNeil Youngの発言である。なぜこの言葉をここで引用したのかというと、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのこれまでとこれからの活動のスタンスを言い表すものであると改めて思うからだ。それは、アジカン流のロックにおける、ひとつの金字塔的作品『ワールド ワールド ワールド』(と『まだ見ぬ明日に』)以降の『マジックディスク』や『ランドマーク』に見られる貪欲な音楽的欲求や表現の追求、後藤 正文のGotch名義でのソロ・ワークにおける試行錯誤を見ても明らかではないかと思う。
ASIAN KUNG-FU GENERATION は3月18日に約2年ぶりとなるニュー・シングル『Easter』をリリースした。そこには、焼き増しの繰り返しで"スタンダード"を見失ってしまったロスト・エイジともいうべき時代に生きる我々に、アジカンとしてのステイトメントや覚悟を突きつけ、"ロック"というものを再定義/更新するかのようなエネルギーと明確さがあった。そしてそれは、衝動やメッセージをサウンドに落としこむ意味での"原点回帰"や、もっというと"王道ロック"といったような曖昧な言葉では片付けられない、多くの意味や提示を孕んでいたと言える。そのことは、同作のアートワークが黒一色の極めてシンプルなものであったことからも明確であろう。
そんな彼らの新章の幕開けを告げるニュー・シングルのリリースからちょうど1週間後の3月25日、"ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2015 ~酔杯フォーエバー~"東京公演は行われた。
19時05分、メンバーがステージ上に現れる。その姿は、ロサンゼルスにあるFOO FIGHTERSのプライベート・スタジオ"Studio 606"でのレコーディングを経て、何かを掴んできた様子のうかがえるものであった。後藤 正文(Vo/Gt)がギターを手にとり、丁寧にコードを鳴らす。その瞬間、多くの人は今日のライヴが最高のものとなることを悟ったことであろう。胸の奥から零れ落ちるような美しい和音。もう戻れない日々を思うかのような、懐かしいような、切ないような、愛おしいような、ちょっと恥ずかしいような......あらゆる想いが駆け巡り、ひたすら胸をかき乱される。この日の幕開けは「ソラニン」であった。伊地知 潔(Dr)の刻む性急なビート、山田 貴洋(Ba/Vo)の芯を貫くような安定感のあるベース、喜多 建介(Gt/Vo)の軽やかさとは裏腹に太く漲るようなギター、そのすべてが完璧であった。
この高揚感をぶった切るように伊地知の複雑精緻なドラミングで始まる「アフターダーク」、山田の印象的なベース・ラインの「それでは、また明日」が畳み掛けるかのように繰り出される。この時点で会場の盛り上がりは完全に振り切ったものに。そんな予測不能な展開の中、伊地知のドラムを皮切りに後藤と喜多の掛け合いで徐々に高まっていくお馴染みのセッション的イントロダクションから「ブルートレイン」へとなだれ込む。この曲のいわゆるステレオタイプなアジカンのイメージとは異なったベクトルで"アジカンらしい"、90'sギター・ポップの延長線上にあるフィーリングがとても好きだし、こういった曲も彼らにとって重要な位置づけにあるのではないかと思う。
今日の後藤の姿に"今、ASIAN KUNG-FU GENERATIONで音を鳴らすことができる喜び"を感じとり、個人的にも感情高まる中、この日最もグッときた「ブラックアウト」が続く。この曲のサビのダンス・ビートの必然性というべきか、泣きながら縦にも横にも踊れるポップ・ミュージックとしての万能感に胸がいっぱいになった。
ここで今回のツアーである"酔杯"の一連のサブ・タイトルが"あぶない刑事"シリーズになぞられているという小噺を聞かせる。冗談交じりに繰り広げられるMCの後、「イエス」、「マジックディスク」が続けて披露された。「マジックディスク」には"いまひとつ抑揚の無い日々に魔法を仕掛けて"という一節があるのだが、観客の期待に応えるかのような充実したセットリストからも伺えるように、彼らは聴き手を意識して"半径5メートルの世界"から1歩踏み出し、繋がりあうことを意図したのではないかと、そしてそんな親密な繋がりから生まれる"音楽の魔法"を信じたのではないかと思わずにはいられなかった。そんなことを考えているなか「リライト」と「Easter / 復活祭」が続けざまに放たれる。あとからセットリストを眺めた際に感じたことだが、この「リライト」までの流れが"これまでのアジカン"を、そして「Easter / 復活祭」から続く一連の曲たちが"これからのアジカン"を象徴しているように思えた。「リライト」から「Easter / 復活祭」へとバトンを繋ぐこと、新たなフェーズへと歩みを進めることを意識したセットリストであったのではないだろうか。
ライヴも中盤に差し掛かり、5月27日にリリースされるニュー・アルバム『Wonder Future』から「Little Lennon / 小さなレノン」と「Planet of the Apes / 猿の惑星」がお披露目となった。前者は、"イメージ"という言葉を繰り返す歌詞、そしてそのタイトルからは否応なしにJohn Lennonを思い起こさせられる。しかしここで歌われるのは、かつてJohn Lennonが世界に投げかけた問題提起よりももっと明確な注意喚起なのではないかと思う。「Easter / 復活祭」の中で示唆的に綴られた無自覚や無関心に対する警鐘。それはロスト・ジェネレーションとしての我々の世代から、5年後、10年後の未来の世代を思えばこそのひとつのメッセージでありアクションであると言えるのではないかと思う。続く「Planet of the Apes / 猿の惑星」は歪ませたヴォーカルが印象的で、FOO FIGHTERSのプライベート・スタジオでレコーディングされたことが色濃く反映されたといえる重厚なロック・ナンバーであった。
「スローダウン」で一気に終盤戦へと突入。サポート・メンバーの下村 亮介(Key/Per)が率いるthe chef cooks meの「適当な闇」のカバーを披露する。途中挟まれた"スキャットの方が言葉より強いときがある。それが音楽の魔法なのです"という後藤の言葉が印象的であった。そしてその大らかでラフなグルーヴを残したまま「さよならロストジェネレイション」へと移行する。綴られるアイロニックな言葉とは裏腹に、まっすぐに人生を讃えるかのような喜びと解放感に満ちた演奏にソウル・ミュージックのようなフィーリングを感じ、グッときた。その余韻を引き継ぎ、「今を生きて」が続く。WILCOのような熟練のライヴ・バンド然とした演奏に胸が躍らされる。そして、ここで歌われる "弱い愛の魔法"こそが"今を生きる"我々にとっては必要不可欠なものであり、日々を積み上げることで生まれる"生きる喜び"へと結びつくものではないのだろうか。"いいアルバムができたので、楽しみに待っていてください"という後藤のMCをはさみ、「ローリングストーン」と「スタンダード」というこれからのアジカンの屋台骨を支えていくであろう2曲が連投され、本編の最後には「タイトロープ」が演奏された。ゆったりしたグルーヴと優しくも力強い後藤の歌声が響き、どこか救われたような思いさえ覚えるエンドロールのような幕引きは感動的であった。曲に入る前、"『ファンクラブ』という我々の暗黒期から"と後藤は言った。しかしそこには一切皮肉は含まれておらず、静かにその事実を受け入れるかのような強さと確かな自信があった。
あっという間に本編を駆け抜け、アンコールを迎える。メンバー同士の無邪気なやりとりに和まされたあと、先日リリースされたシングルより喜多がメイン・ヴォーカルを務める「シーサイドスリーピング」が披露される。喜多の抜けるようなヴォーカルと何事もない日常を綴る後藤の歌詞が絶妙に噛み合う楽曲、そしてそれを気負いなくラフに演奏する姿に彼らのロック・バンドとしての余裕を感じる。そして"もう1曲、春の歌を"と後藤が発し、「海岸通り」のアルペジオが零れる。ゆったりと、しかし確実に進む演奏を目の当たりにし、ライヴの終わりを意識していたところに伊地知の四つ打ちのキックが響く。この場に集った誰もが待ち望んでいた「君という花」で会場のテンションは一気に爆発する。ザクザク刻む後藤のギターと喜多のオクターヴのフレーズ、伊地知の前のめりに展開するビート、そしてすべての手綱を握るかのような山田の安定感のあるベースが、確かな"魔法"を構築していく様をまざまざと見せつけられ、改めてASIAN KUNG-FU GENERATIONの偉大さを思い知らされた。
全20曲、2時間弱のステージはあっという間であった。セットリストは申し分なく、そこには音楽の未来を引き受けたかのような静かな覚悟が滲んでいた。そして彼らの新章幕開けを飾るニュー・アルバム『Wonder Future』の白一色のアートワークが、これからの彼らを象徴しているように思えた。それは、シングル『Easter』の黒一色のアートワークとの対比であることは間違いないだろう。先のシングルを経て再びゼロ地点に戻ったともいえる彼らは、再び、黒と白の間にある無限の色彩を音楽で紡いでいくのだろう。そう思うと、どうしても期待が高まるのを抑えることはできないのだ。
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