Japanese
ASIAN KUNG-FU GENERATION
Skream! マガジン 2017年02月号掲載
2017.01.11 @日本武道館
Writer 石角 友香
"アジカンには敵わねぇなぁって。俺のソロや潔のPHONO TONESの方が音楽的には難しいかもしれないけど、この4人が集まって生まれるデタラメなエネルギーはなんなの? と思う。やってみるもんだなぁと。生涯これ以上のバンドは組めないとここ何年かでわかりました"。後藤正文(Vo/Gt)のこの言葉に、今のアジカンの心情とムードの良さがすべて表れていると思った。デビュー10周年記念ライヴの横浜スタジアムで、"自分の意思だけでは動かせない巨大なもの"として、責任を背負うような発言があったころとはすでに違う。それはゴッチ(後藤正文)がソロ作品の制作を重ね、アジカンは『Wonder Future』のリリースに伴うワールド・ツアーで初めて南米のファンの熱狂に驚き、結成20周年の2016年に『ソルファ』の再録を行った――常にアーティストは最新のものを追い求めると同時に、世の中に出た作品をリスナーはいつどのタイミングで好きになろうが自由だということ。そして、そう自信を持ってリスナーの判断に任すことができるのは、何より後悔のない作品を出してきたからこそなのだ。
武道館で見るアジカンはホール・ライヴのように感じるジャストなキャパシティで、アニバーサリーの興奮というより、じっくり練り込まれたライヴの期待で心拍数が上昇する感じの方が近い。開演前から四方を囲む光の柱と背景のスクリーンに映し出される映像がそれをさらに上げていく。そして照明が落ちると同時に山田貴洋(Ba/Vo)にピン・スポットが当たり、ベースのフレーズが武道館を震わせる。1曲目は「遥か彼方」だ。メンバーはすでにステージにいて、初期の楽曲と新しい演出の融合そのものがアニバーサリー・ツアーの意義を明示する。引き締まったアンサンブルでテンポ良く曲を繰り出してくる、その虚飾のなさは不変のアジカンらしさなのだが、メンバーひとりひとりが何をどう演奏しているのか、このアレンジの必然はなんなのか? が、少なくとも自分がこれまで経験したどのアジカンのライヴよりクリアだ。アルバム『ファンクラブ』からの「暗号のワルツ」でのベースとドラムの複雑な抜き差しの醍醐味は演奏面で前半の白眉。まだ4曲目にもかかわらず! 早いと言えば、6曲目に早くも「君という花」を配置し、さすがに会場もそれまで以上に沸いた印象だったが、ノリは一辺倒じゃなくどこまでも自由。元祖・四つ打ちとも言えるこの曲、こんなにBPMが遅かったっけ? と思いつつ、同時にドライヴ感が凄まじい。ジャンプではなく肉体にうねりが生じる演奏なのだ。あっぱれだなぁと感服していた矢先に冒頭のMC。これ以上ないほど、ステージ上とファンが確信を持って繋がっているのを実感した。
ゴッチが"じゃあ懐かしい曲を"と、インディーズ盤にも『崩壊アンプリファー』にも収録されている初期曲「粉雪」を披露したのだが、なんのひねりもない表現で申し訳ないぐらい"これぞ日本語ギター・ロックの王道"という文字列が頭に浮かんでしまった。超えるとか超えないとか、新しいとか古いじゃない地平の楽曲とはこういうことなんじゃないか。そこから比較的最近の楽曲である「マーチングバンド」、「踵で愛を打ち鳴らせ」、「今を生きて」と続いたのだが、特に「マーチングバンド」でのある種の神聖さを感じるメロディや曲構造に、今流行りのデジタル・クワイアには到底出せない、生身の合奏のかけがえのなさを感じて胸に迫るものがあった。
この日、ゴッチのMCは今のアジカンの状態の良さと、さらに今日、演奏していることの楽しさに紐づく内容が多く、OASISの映画"オアシス:スーパーソニック"を観たことが告げられたのち、"ロックンロール・バンドってデタラメだけど最高に夢がある"という言葉から、OASISにもゆかりの深いフレーズが登場する初期曲「E」が演奏されたのも、懐かしさよりリアリティに軍配が上がったのだ(筆者の中で)。まだ映画を観ていない人はゴッチが、そしておそらく喜多建介(Gt/Vo)も人生を変えられたOASISの「Live Forever」がどういう存在の曲なのか知りたければ、くだんの映画を観ることをお勧めする。そんな「E」から違和感なく最近の「スタンダード」や「ブラッドサーキュレーター」に繋がる、というかパワー・コード祭りじゃないか! と。いや、でも図太いコードは何よりも気持ちを前進させてくれる。どこまでも走れる気がしてくる、あの感じだ。また、「スタンダード」では『Wonder Future』リリース・ツアー時の白い立方体のセットをグラフィックで投影するなど、過去のツアーと符合させ演出のヒストリーも表現していることに圧倒された。そしてシューマンの同名曲のピアノのイントロから「月光」が、武道館にいる各々の"ひとり"に染み込んでいく。そう、いつでもアジカンの音楽はひとりでいるとき、心から共感したり、自分なりの決意を促してくれたりしたなと思う。そんなことを思い出す「月光」のエンディングからサウンドは繋がりながら、メンバーはいったんはけ、第1部が終了。
第1部だけですでに新旧の楽曲が同じまな板の上に乗り、今のバンドの力量で表現されたことに軽くめまいがするほどだったが、第2部までの間、過去から最新までのアーティスト写真が左右のヴィジョンに映し出され、少々驚いた。こういうベタなことをやるんだな、と。というか、感慨にふけるよりは笑いも起こることも想定内だったのかもしれない。
ジャケットのイラストがプリントされた白いシャツで再登場したメンバーは、黙って「振動覚」を鳴らす。ここからはがっつり、"ソルファ(2016年)"というか、"ソルファ(2017年1月11日)"が展開していく。「リライト」はほぼ全ツアーで外れたことのないレパートリーだが、アルバム全曲再現というテーマの中で聴くと、『ソルファ』の再録盤で感じたボトムの太さやゴッチのヴォーカルのタフさ、ある種、冷静に感じられるサビ、しかしリフの入り前の何かが始まるような伊地知潔(Dr)のドラミングに胸が熱くなる感じは不変だった。喜多の輝度の高いフレーズとコードの刻み、シンプルなビートのすべてがもう一度磨かれたように輝く「君の街まで」。ファンにとってもイノセントでかけがえのない曲だと思うが、みんなが年齢を重ねてきたこともあって、切なさに満たされる「君の街まで」はとても大きくてあたたかな曲に育ったんじゃないか。それはファン各々の曲の楽しみ方の自由さからも感じた部分だ。
"12年ぶりに録音した『ソルファ』の曲をやってるんですけど、当時の日記にはメンバーの悪口ばかり(笑)。それぐらい曲って難しい、今やってみても。でも歳取ってくるとスムーズに演奏する方法も見えたりする"と、率直な気持ちを述べたゴッチ。アルバムの曲順どおりに進行して、その世界観を立体化していくライヴは、アルバム自体に強度がなければ当然成立しないわけで、強度はもちろん、メンバーがさらに曲を輝かせる方法を発見した証もライヴでは聴こえてくる。「夜の向こう」での喜多の繊細なディレイと単音、ゴッチのリフ、支えるだけでなく音色として機能するリズム隊、すべてが情景を喚起させる。見事だ。
また、「サイレン」のエモーショナルなギター・ロックのコード・ワークと弧を描くような大きなグルーヴから、一歩踏み出して歩き出すような「Re:Re:」の力強さ。人気曲が多いアルバムであると同時に、なぜ人気曲が多いのか? を考えると、やはりのちのフォロワーにとって、ギター・ロック・バンドのお手本のような曲作りやアレンジのアイディアが満載されていることに気づく。"バンドやってみたい!"と思わせると同時に簡単ではないのも魅力だ。しかし歌の主人公の独白は後藤正文の作家性が色濃い。"色褪せない楽曲の構造"と簡単に言うことはできないけれど、彼らが意志を曲げなかったことで色褪せない楽曲が生き続けていることは間違いない。演奏面では抜群にリズムのしなやかさに余裕を感じた「真夜中と真昼の夢」のように、時間を重ねたからこその消化を強く感じる演奏もあった。そして本編のラストにはストリングス隊が加わっての「海岸通り」が。以前にも武道館公演でストリングス隊を迎えて披露されたことがあるが、この日のストリングスとの共演ではいい意味で素朴さやフォークロアとしてのストリングスというか、ゴージャスさとは反対のベクトルの弦の響きに、バンドなのかゴッチなのか、この曲で表現したいことの変化を見た気がした。エンディングのフレーズのせいか、大げさに言えばTHE BEATLES~OASIS、そしてアジカン(もちろん、他のバンドもその流れの中に立っていると思うけれど)と続くロック・バンドのバトンが日本の今ここにもあるなと思えて、それこそ"敵わねえなぁ"という気持ちになった。本編が終了したばかりなのに、いちからアジカンを聴きたくなったのだ。
アンコールはゴッチの弾き語りがあったり、喜多のヴォーカル・ナンバーが2曲もあったり。再びストリングス隊と共に次に繋ぐメッセージに感じられた2曲は、決然とした意志を歌詞の投影と共に表現した「さよならロストジェネレイション」、そして「新世紀のラブソング」。『マジックディスク』から7年目を迎える今も、いや、今になってより彼らと同世代ではなくても変えていきたい現実や理想が共有されているんじゃないか? と思えるテーマで結成20周年記念のライヴは幕を閉じた。もう、隅から隅まで受け止める他ない、受け止めて自身にフィードバックさせたい最重要なライヴをアジカンはやり遂げたのだ。
[Setlist]
1. 遥か彼方
2. センスレス
3. アンダースタンド
4. 暗号のワルツ
5. ブラックアウト
6. 君という花
7. 粉雪
8. マーチングバンド
9. 踵で愛を打ち鳴らせ
10. 今を生きて
11. E
12. スタンダード
13. ブラッドサーキュレーター
14. 月光
15. 振動覚
16. リライト
17. ループ&ループ
18. 君の街まで
19. マイワールド
20. 夜の向こう
21. ラストシーン
22. サイレン
23. Re:Re:
24. 24時
25. 真夜中と真昼の夢
26. 海岸通り
en1. ソラニン
en2. Wonder Future
en3. タイムトラベラー
en4. 八景
en5. さよならロストジェネレイション
en6. 新世紀のラブソング
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