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INTERVIEW

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ビッケブランカ

ビッケブランカ

Interviewer:吉羽 さおり

ビッケブランカが、ドラマ"竜の道 二つの顔の復讐者"のオープニング曲として書き下ろした新曲をタイトルに据えた、ニュー・シングル『ミラージュ』をリリースする。毎話ドラマの導入を担うこの曲は、エレクトロとバンド・サウンド、重厚でゴージャスなアンサンブルとが、ミラージュ=蜃気楼のように幻想的に織り成され、歌の表情に陰影をもたらす曲となった。常に新たな道を切り拓いていく、ビッケブランカらしい1曲だ。また、今回のシングルには、3rdアルバム『Devil』のリード・トラックであり、ドラマ"ピーナッツバターサンドウィッチ"のオープニング主題歌「Shekebon!」も収録。ダブル・タイアップのシングルであり、ビッケブランカへの注目度の高さを示す内容にもなっている。

-3月にアルバム『Devil』をリリースして、本当ならアルバムのツアーを行っている時期に、新型コロナウイルスの影響でライヴ活動はもちろん、世の中も止まってしまうような状況になりましたが、この期間、どんなふうに過ごしていましたか?

やることはあまり変わらなかったですね。曲を書いて、ゲームをして......なんか変化があったとしたら、自炊とかを始めたくらいですかね。そんなに大幅な変化はないんです。

-世の中が急激に変わっていくなかで、考え方に影響したことはありますか?

ライヴができないから、直接自分の音楽を披露する場所がないという。ぶっちゃけそれくらいなんですよね。だから、疲弊してしまってとかはなく、代わりに何か新しい発表の場所を作らなきゃというほうにも、あまり目が向かなくて。できないならしょうがないし。だったら曲を作って、それを発表する場所──リリースだったり、Spotifyとかで聴けたり、そういうものを作ろうというのはありました。

-そういうなかで新曲「ミラージュ」はいつ頃から制作がスタートしていたんですか?

これはもうずいぶん前にできていた曲だったんです。本当は4月クールのドラマのオープニング曲として6月にリリース予定だったものなんですよね。だから、この夏は、本当は夏の曲を出している予定だったんですけど、それがずれ込んで、「ミラージュ」と配信の「Little Summer」(2020年7月リリース)が被るという感じになったんです。

-「ミラージュ」は、ドラマ"竜の道 二つの顔の復讐者"のオープニング曲として書き下ろされた曲です。これまでもドラマやアニメなどの曲は手掛けていますが、今回はシリアスでハードボイルドな物語の導入となるオープニング曲ということで、音楽の役割としてどういうものを考えましたか?

ドラマの制作者の方たちも、ありがたいことにもともと僕の曲を聴いてくれていたので、"なんでも作れるんでしょ?"っていう感覚での話し合いだったんですよ。それで、どんな曲を求めているのかって聞いたら、"異常なパンチが欲しい"っていうことだったんです。

-また抽象的な(笑)。

"わかりました、異常なパンチですね"っていう感じで(笑)。意外とポンポンと作りましたね。2日後くらいにはデモを出して、"はい、最高!"みたいな。もともとデモでは英語詞だったんですけど、これを日本語に変えますということで1週間後には日本語のものを出してという。そんな感じで時間もかからずに仕上がったんです。自分で思うだけかもしれないですけど、タイアップというものが得意なんじゃないかなと感じますね。

-ビッケブランカとして、作品のどんなところを汲み取って形にしていったんでしょう?

"竜の道 二つの顔の復讐者"は復讐劇なんです。ただ、台本を読ませてもらったんですけど、単なる復讐劇ではなくて、復讐する側である主人公とかのキャラクターもちょっとイカれてるんですよね。復讐劇の中でもちょっと変わった作品だと思ったので、その変な感じというのを出そうというか。主人公のひとりである竜一が復讐をするために顔を整形するとか、そういう歯止めが効かない、普通じゃないよねっていうものを音楽でやろうという大枠でのテーマはありました。

-「ミラージュ」はシリアスさばかりでなくて、言葉で遊んでいるギャップがあったり、サウンドも、先ほど出た"異常なパンチ"じゃないですが、展開的に様々なタッチがあったりして、面白いものになっているなと思いました。

そこはドラマ制作の方たちにも聞いたんです。"シリアスな中にも、何かニッチなユーモアやウィットに富んだ描写っていうのはあるんですか?"って。そのあるなしで、違ってくるじゃないですか。あるということだったので、じゃあちょっとくらい言葉で遊んでもいいなという。ドラマのテンション感、温度感に合わせるというのは心掛けたところでした。でも、そんなに大変じゃなかったかな。曲もアレンジも、言葉やリズムもトントンとできた感じでしたね。オープニング曲ということで、15秒や20秒、長くても45秒とかでセンセーショナルに耳を打つ曲ってなるわけで、フル尺にするにはまた違う脳みそを使うんですけど、45秒くらいの尺なら曲がすべて視野に入るんですよ。

-自分で曲を見渡して作れる感覚があると。

そう。あとはちょうど新しい音楽の感じを聴き始めたり、新しい楽器を手にしたタイミングだったりしたので、本当に楽しく作れましたね。アナログ・シンセを手に入れたので、その音も入れているんですけど、その音が「ミラージュ」の蜃気楼感といい感じにマッチしていて。そういういろいろな偶然も重なりつつ、まっすぐに歩いてできた曲だったんです。

-新しいタイプの音楽っていうと、どういうものですか?

エレクトロなんですけど、EDMやダンス系ではなくて、本当に音ばかりに向き合ってるやつの音楽というか。ORBITALや、最近でいうとMADEONというフランス人の若いDJ/プロデューサーがいるんですけど、そういう音ととことん向き合った、音色とか音質だけで主役を担おうという心意気で作った音楽と、歌を主役にしたいという俺が交ざったらどんなふうになるんだろうと。歌が終わった瞬間に突然別の主役が入ってくるような、今回はそういう差し引きもできたと思いますね。

-そういうインプットからアウトプットへの流れが本当に早いですよね。

そこのスピードが早いんだろうなというのは自分でも思います。それを理解するスピード、会得するスピードが早いんだろうなって。

-新しいものを咀嚼していく、自分なりの回路がちゃんとできあがってるような感じなんですかね。

昔からそうだったんです。音を聴いて、自分でそれを再現できるようになってというのを繰り返してきているんですよ。ボールを受け取ったらすぐにすぐにシュート・モーションに入るみたいな、そういう癖がついているのかもしれない。

-ビッケブランカさんから見て例えば、ORBITALのような音響的な面、サウンドを追求しているアーティストの面白さっていうのはどんなところだったんですか?

センスですよね。質の高い音ばかりでなく、別に質が悪くても、"いい音"にはなるという感じで、だいたいパソコン上で作ってると全部いい音にはなるんですよ。ただ、それを聴くと薄っぺらい印象になるから、それだけの音楽というのは僕も好きではなくて。そんななかで1個アナログの音が入ったり、わざとビットレートを落としてやったり、でもそこばっかりに逃げていなくて、クリアな音はクリアな音であるという音の采配、センスですよね。"ここでこうする?"とか、"え、ここでこうする!?"とか、"ここで......あー、こうするのか!"っていう発見があるような(笑)。自分がやっている音楽とは主役の配置が違う人たちなので、そういう人間たちがどうやっているのかなっていうのは聴きましたね。

-そこでこの音は何でできているのか、楽器や機材にも興味がいくと。

それでYouTubeとかで、ORBITALのスタジオを見てみたり、なんだこれはっていうのを調べてみるんです。ひとつのことを突き詰めた人っていうのは、明らかに他の人が到達できないところにいってるだろうし、俺には到達できなくて、この人たちが到達してるところってどこだろうと考えるんですよね。それで、こういう発想なのかとか、こういうところにお金をかける感覚なんだなとか、自分はそれになるべきか、ならないべきかっていう判断もして、なるべきとなったらそこをまた追求して。そういう繰り返しなんです。

-アナログ・シンセを入手したのもそういうタイミングだったんですね。

そうですね。ダンス・ミュージックでよく使うライザーという上昇音があるんですけど、トップ40に入るほとんどの曲は、機械で作ってるから、一定のテンポで上がっていくんですよ。それはそれでかっこいいし自分もやるんですけど、ORBITALのライザーは音が揺れてるんですよ(笑)。なんで? っていったら、手動でやってるからなんですよね。その音に見える人間感、一定のリズムじゃなく、人がいじってすごい暴発した音が出てるっていうのに自分がアガったのであれば、それはできるようにならなきゃと。で、試してみるっていう。あと、ORBITALは暗い曲が結構多いんですけど、むちゃくちゃふざけた曲書いてるの知ってます? 「Hoo Hoo Ha Ha」っていう曲なんですけど、音が音痴なんですよね。これも機械でなくて、手でつまみをいじって上げたりしてるから面白いものになっているし、ちょっとズレたような音もわざと入れているんですよ。

-それにときめいていたんですね。

なんだこれ? となって。そういうのにアガる経験をしたんですよね。たまたまこの時期にこういう音楽から新しい衝撃を受けましたけど、そういうものの連続なんです。もとを辿れば、裏声で歌うMIKAに衝撃を受けて、そのあとにピアノを弾いてるBen Foldsとかに衝撃を受けて、歴代のいろんな人たちに衝撃を受けながら自分の能力を高めていってるという感じですね。