Japanese
indigo la End
2019年10月号掲載
Writer 沖 さやこ
今年の春から夏にかけて開催されたindigo la Endのワンマン・ツアー"indigo la End ONEMAN TOUR 2019「街路樹にて」"のツアー・ファイナルの昭和女子大学 人見記念講堂公演以来、フロントマンの川谷絵音をメディアやポスターなどで見掛けるたび、彼があの日に語っていた言葉を思い出す。
彼はインタビューでも自分の深い気持ちや、歌詞の背景、音楽に込めた想いなどを話すことはほとんどなかった。その理由は、リスナーに余計な前情報を与えることによって聴く前に補正がかかるのが嫌だ、もっと自由に音楽を楽しんでほしい、などであったと記憶している。だからこそindigo la Endやゲスの極み乙女。にインタビューすることとは、彼のミュージシャンとしてのプライドを一身に浴びる時間でもあった。
これまでを思い返してみても、アーティスト 川谷絵音が最も素直に気持ちを表していたのは、インタビューでもなくラジオでもなく、ステージ上だった。長い文言ではないが、目の前に自分たちの楽曲を心待ちにし、愛する人々が目の前にいるという環境だからこそ、等身大の感情がふとこぼれる瞬間が多々あったのだろう。
それゆえにこそ、indigo la Endのステージで"きついときにきついとあんまり言えない人間なんだけど、自分のことは正直に話していこうかなと思って。ステージでたまに言わせて"と話していたのを聞いていて、ここまで彼が心情を言葉にすることに驚いたと同時に、それを成す場としてステージを選択したことは、とても自然なことだとも思った。そして、川谷絵音という音楽家とindigo la Endというバンドが、新しい動きを見せることも窺わせた。indigo la Endの根幹にあるのは、彼の心情や感性、人間性の核の部分であるからだ。
今も彼はあのとき抱えていた気持ちを抱えているのだろうか。それともあの気持ちから次のフェーズにいっているのだろうか。そんなことを考えながら聴いた最新フル・アルバム『濡れゆく私小説』は、そのタイトルからもわかる通り、主人公が川谷本人と密接な関係にあるラヴ・ソングが揃っていた。"歌詞"、"歌う"、"ソングライター"、"メロディー"、"スイートマイナーコード"、"リリック"、"セブンスディミニッシュ分数コード"、"ビブラート"、"ビート"、"ラッパー"、"白鍵"、"歌"――これらはすべて『濡れゆく私小説』収録曲の歌詞にある言葉たちだ。これだけ"バンド"ではなく、"音楽"に関する言葉が散らばっていると、曲の描く世界の中に彼個人の姿が見えてくることは必然である。"自分のことは正直に話していこうかなと思って"と語った彼の姿が頭の中に浮かんだ。
メジャー5thフル・アルバムでバンドが見せた純と成熟
日本語表記のアルバムも『藍色ミュージック』以来。失恋や切ない恋心を綴った曲が多いところに、indigo la Endらしさを感じる人も多いだろう。サウンド面も、『Crying End Roll』や『PULSATE』で見せた、メンバー個々のテクニカルなプレイを生かしつつも、洒落た歌謡曲的なポップ・ソングに着地させている。ゆえに艶と憂いを帯びたメロディと川谷の声も伸びやかになり、そういう意味でも、indigo la Endが元来持っていた成分を現在の成熟でもって描いていく作品とも言っていい。
要所要所でロック・バンド的な凄みや剛腕感を垣間見せるところも楽曲の旨味に。「ほころびごっこ」の迫力あるアウトロや、「砂に紛れて」の各楽器のしなやかなタフネスを感じさせるダイナミズム、「秋雨の降り方がいじらしい」の淡々としたリフと不穏なラインを辿るギターの交錯、「Midnight indigo love story」の演奏とメロディが同化してスケールを生み出していくサウンドスケープなど、落ち着いたトーン――それこそテーマ・カラーでもある藍色の質感を保ちつつも、様々な手法で楽曲を切り出していくという手腕の妙にも唸る。
ここでまた話題を人見記念講堂での川谷の発言に戻そう。彼は心の拠りどころである音楽を仕事にしてしまったせいで、つらくなることがあるという旨を話していた。ただでさえ彼はTVで即興楽曲制作を披露したこともあり、ハイスピード、ハイクオリティの天才ソングライターと語られることが多い。そのプレッシャーは、凡人の私ではまったくもって想像もつかないことだ。そんな状況でも精力的にバンド、プロデュース業、楽曲提供、数々のプロジェクトを並行させていく彼の心の中は、本人が語るように"ぎりぎり"なのだろう。
過酷とも言える状況で、生き急ぐように、自分自身の居場所を作るように音楽を作り続ける。そんな彼の抱えるシビアな感情を吹き飛ばしてくれるのが、リスナーやファンという存在だった。MCでもいつもひねくれた態度を取りがちの彼ではあるが、感謝の気持ちを伝えるときだけは、どこかあどけなさも見えるほどにピュアだ。だが彼は、"リスナーに向けて曲を作ることができない"と語っていた。身の回りの出来事をきっかけに曲を作ってきたから、リスナーという不特定の人々に向けてその想いを音楽に昇華する方法を持っていないという。彼はそのあと"どうすればいいのか悩みながら新曲を書いている"と話していた。
完全に推測でしかないが、その想いを綴った曲が「通り恋」のような気がしてならない。もしそうではなかったとしても、そう思いたいと思うほどの楽曲なのだ。感情の深い部分までが剥き出しになったindigo la Endと言えば、「幸せな街路樹」が代表格だが、この「通り恋」はまっすぐと素直に大きな愛情を歌う、他者=あなたに向けられた曲である。美しい起伏を描くメロディに乗る"もう泣いてもいい/乱れてもいい/壊れてもいい/だけどあなたを愛してることだけ/歌うよ/もう僕らの中に刻み込まれた/一部とはいえ大きな愛を/閉じ込めたままじゃいられない"や"何でもない/何でもないと/言い聞かしては/辿るあなたの記憶に包まれてしまうよ/そう歌う声が枯れるだけなら/一部とはいえない大きな愛を/叫び続けるよ"という言葉は、感情の昂りそのままだ。
恋人同士の話に集約された楽曲ではあるが、この曲を聴くたびに、あのライヴで話していたことと、観客の前でまっすぐと感謝の念を告げる彼の姿が重なってしまう。真相はどうであれ、indigo la Endが臆することなく、"大きな愛を叫び続ける"という歌を、繊細でエモーショナルな演奏とコーラスに乗せて届けることは、非常に意味深いことだ。こういった青く純な感情を描くことでより輝きを増すバンドであることも改めて思い知る。このアルバムの根幹でもあり、今後のindigo la Endにも大きな影響を及ぼす楽曲になるのではないだろうか。
だが、この作品のラストは「結び様」。TVドラマ"僕はまだ君を愛さないことができる"の書き下ろしエンディング・テーマということで、"恋人以上な親友関係"を描いたラヴ・ストーリーというタイアップ作品の世界観を継承している。"好きにならなきゃよかった"という切なさと悲しみに暮れたこの楽曲で、アルバムを締めくくる――それは、まだ想いは解決していないという意味が込められているようにも思えた。
思い返せば『藍色ミュージック』では「インディゴラブストーリー」、『Crying End Roll』では「夏夜のマジック (Remix by ちゃんMARI)」、『PULSATE』では「1988」と、アルバムのラストの曲は作品を着地させるというより、どこかまた違う世界を示唆させるものが続いている。そういった余韻の作り方はindigo la Endらしくもあり、川谷が音楽を作り続ける理由でもあるのかもしれない。川谷の自分自身の感情に敏感な鋭い感性と物事を深く考える知性、それが混じり気なく表れるのがindigo la Endという場であり、それを情緒豊かに音へと昇華できるのが長田カーティス(Gt)、後鳥亮介(Ba)、佐藤栄太郎(Dr)というメンバーである。彼らが描く続編こそがバンドの未来。来年の結成10周年を前に、バンドが新たなうねりを興すことを予感させる作品が完成した。
▼リリース情報
indigo la End
ニュー・アルバム
『濡れゆく私小説』
2019.10.09 ON SALE
![]()
【通常盤】(CD)
WPCL-13103/¥3,000(税別)
amazon
TOWER RECORDS
HMV
![]()
【初回限定盤】(CD+DVD)
WPZL-31658/¥4,000(税別)
amazon
TOWER RECORDS
HMV
[CD]
1. 花傘
2. 心の実
3. はにかんでしまった夏
4. 小粋なバイバイ ※フジテレビ系ドラマ"僕はまだ君を愛さないことができる"挿入歌
5. 通り恋
6. ほころびごっこ ※映画"ごっこ"主題歌
7. ラッパーの涙
8. 砂に紛れて
9. 秋雨の降り方がいじらしい
10. Midnight indigo love story
11. 結び様 ※フジテレビ系ドラマ"僕はまだ君を愛さないことができる"エンディング・テーマ
[DVD]
"全国ワンマンツアー「街路樹にて」東京追加単独公演「abuku」at 日比谷野外大音楽堂"
1. 夜明けの街でサヨナラを
2. ハートの大きさ
3. はにかんでしまった夏
4. 彼女の相談
5. 花をひとつかみ
6. 見せかけのラブソング
7. スウェル
8. 名もなきハッピーエンド
9. 想いきり
10. 幸せな街路樹
11. 心ふたつ
12. 夏夜のマジック
13. 幸せが溢れたら
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