Japanese
indigo la End
Skream! マガジン 2016年01月号掲載
2015.12.03 @東京国際フォーラム ホールA
Writer 沖 さやこ
とても美しくセンチメンタルで、何よりも素直で優しい、感動的な夜だった。ギター・ヴォーカル、川谷絵音の27歳の誕生日を記念して開催された"蒼き花束"は、彼の誕生日という理由以上に、バンドの歴史において大きな意味のある特別な夜になったと思う。キャパシティはindigo la Endのワンマン・ライヴでは過去最大規模の5,000人。東京国際フォーラム ホールAはエントランスからホール内部まで隅々が気品のある造りで、薄い灰色で統一されたやわらかく大きな客席、水玉模様のように見える客電、木材を利用して作られたステージなど、indigo la Endの楽曲のイメージやバンドの空気感とよく合っていた。
薄暗い青い照明の中メンバーがステージに登場すると、1曲目は「雫に恋して」。佐々木みおと服部恵津子のコーラスは川谷の歌をしっかりと支え、佐藤栄太郎のドラムスは懐の大きさを感じさせる包容力に溢れた音を鳴らす。筆者がindigo la Endを観たのは7月に行われた渋谷公会堂公演以来だったのだが、あのときとは比べならないほどバンドの強度が増していた。ホールという環境にも、そしてこの4人とサポート・メンバーのコーラスふたりで作るindigo la Endというものにも、ちゃんと全員の身体が馴染んでいるという印象だ。川谷もこのバンドをフロントで引っ張っていく、というよりはこの6人で作る音に寄り掛かりながら歌っているように見える。その様子も微笑ましい。「夜汽車は走る」は吐く息が白く染まるように、音が高く広く広がっていく。青を基調とした照明も清廉さを引き立て、後鳥亮介の歌うベース、歌に寄り添う長田カーティスのギターも眩い。服部の弾くピアノに佐藤のドラムが重なり「アリスは突然に」へ。このアレンジがとても素晴らしかった。哀しく穏やかで、淡々としつつも情感が溢れる演奏は、バンドの核心に触れるような感覚もある。その鮮やかな感傷に涙腺が緩んだ。
余韻に浸っているとMC。川谷は今回のチケットがソールド・アウトしたことに感謝を告げる。すると彼はチケットの転売やダフ屋、非公式グッズの話を、独特の話術と小気味よいテンポで展開。筆者も何度も声を出して笑ってしまった。バンドの規模や度量はどんどん大きくなっていくが、こういうところは昔と変わらないなあ......となんだか心があたたまる。後鳥が川谷に"もう(その話題)やめない(笑)?"と諭し、照明も落ちて「忘れて花束」へ。緊張感のある音像が優雅な渦を作り出し、ドラムとキーボードで始まる「夢のあとから」ではシンプルな音を効果的に使い、奥行きで効果的に楽曲を響かす。名バラード「幸せが溢れたら」は、川谷の歌に彼の気持ちと主人公の気持ちが重なり、詞で描かれた情景が鮮明に浮かんだ。もちろんそれを演奏とコーラスがより大きく引き立てているのは言わずもがなだ。
川谷は自身の誕生日の話題に触れ、昔は心を閉ざしていたので誕生日に祝われることが嫌だったと話す。"だけど大人になってきて、そういうのは良くないな思って。最近は誕生日を祝われるのを嬉しいと思うようになってきた"と照れ笑いをしながら"Twitterのリプライとかで祝ってくれたり......こんなやつにみんなありがとう"と続けた。そして"俺、未だに自分がこんな大きな舞台に立っているのが不思議で。まだ免疫がついてなくて恥ずかしいんだよね"と等身大の気持ちを吐露すると、照れ隠しをするように散々後鳥の普段の言動をいじっていた。そしてアコースティック・コーナーと題し6人で「白いマフラー」、「さよならベル」を演奏。全員の心が符節を合わせたように重なっていく。そして川谷と服部のピアノ、佐々木のコーラスの3人体制で、川谷が"このタイミングで歌いたい曲が1曲あるので"と言い、SMAPに楽曲提供した「好きよ」を披露した。川谷は手元のランプを照らし、椅子に腰かけマイク1本で歌う。それは"SMAPの楽曲を歌う川谷絵音"でもなく、"indigo la Endの川谷絵音が歌っている"というわけでもなく、痛烈なまでに"川谷絵音の歌"が、ただそこにあった。とてもシンプルな編成で届けられたことで、これまで見ることがなかった、彼の奥の奥に触れたような気もした。聴いたことがないのにずっと知っていたような、懐かしさと新しさの両方を感じる歌に、自然と涙が零れ落ちた。
そのあと再びメンバー3人がステージに現れ、観客5,000人とともにハッピー・バースデーを斉唱。そしてSEKAI NO OWARIのNakajin(Gt)、キュウソネコカミのヤマサキ セイヤ(Vo/Gt)、Perfumeのあ~ちゃん、ウエンツ瑛士からのお祝いコメント映像がサプライズで流れると、長田が"もうひとりどうしても直接お祝いが言いたいという人が"と告げる。するとゲスの極み乙女。の休日課長(Ba)がステージに登場し、このライヴ・タイトルに掛けた青で統一された花束を川谷に手渡した。加えてさらにスペシャル・ゲストとして、川谷絵音と同じ生年月日&血液型というWEAVERの杉本雄治(Pf/Vo)がステージに登場。彼をキーボード・ヴォーカルとして招き7人編成で「瞳に映らない」を演奏すると、会場もまさかのコラボレーションに歓喜した。
佐藤のドラムと後鳥のベースによる強靭なリズム合戦を繰り広げると、現在の4人で初作品の表題曲となった「悲しくなる前に」へとなだれ込む。バンドならではの躍動感に身体が突き動かされた。そこからの「夜明けの街でサヨナラを」は本当に見事だった。疾風が起こるような爽快感で、その威力を浴びて筆者にも興奮と衝動が巻き起こった。この曲は自分たちの世界を護り続けていたindigo la Endが、外の世界を意識して作った楽曲。彼らはようやくその楽曲を自分たちのものにし、堂々と大きく鳴らせるバンドになったのだ。6人の音が互いを立てるように混ざり合う、その情景も壮観だった。
本編ラストの「夏夜のマジック」の前、川谷はこれまでのindigo la Endの活動を振り返る。2014年末をもって脱退をしたドラマーのオオタユウスケについても触れ、新体制になってからオオタがindigo la Endのライヴを観ていないことを話すと"この前のNHKホールと渋谷公会堂はなんとなく誘わなかったんだけど、今回は観に来て欲しかったな"とつぶやく。どうやら川谷はオオタをこの日のゲスト・ミュージシャンとして誘ったそうだが、オオタは高円寺でライヴを入れていて叶わなかったそうだ。それを告げる川谷の語り口の間から、自分たちと別々の道を歩みながらも音楽を続けるオオタへの敬意も感じられた。すると彼は何かに突き動かされるように"今日は僕の誕生日とか関係なくて、昔からindigo la Endを知っている人にも、最近知った人にもみんなに観てもらいたかった""ずっと音楽を追いかけてきたんだけど、気づいたら音楽に追いかけられるようになって。音楽というものが何なのかわからないんだけど、音楽を探し続けることが楽しい。indigo la Endは音楽を探せてるんじゃないかな"と素直に気持ちを言葉にし始めた。ここまで心を開いている彼を見たのは初めてかもしれない。そして彼はそのままメンバーひとりひとりについて話し始め、ひねくれながらも感謝を伝える。その言葉には嘘がまったくなく、彼らしい天邪鬼さも含めて誠実でまっすぐで、感動が胸に押し寄せた。
アンコールでは2月3日にリリースするシングルの表題曲「心雨」を届ける。切なさが溢れるミディアム・テンポの楽曲で、サウンド・アプローチとしては「夏夜のマジック」や「夢のあとから」の系譜もありつつ初期の匂いも感じた。そしてラストはバンドの原点とも言える「素晴らしい世界」。最後川谷がひとりステージに残りアカペラで"これからは一人で生きてくよ/大丈夫そうだ"と歌う。その張り裂けそうな切なさに満ちた歌声に、彼の本心がすべて詰まっているようだった。2015年という期間のすべてをかけてindigo la Endはバンドを育み、整えた。"蒼き花束"はその結晶だ。そしてこれがこの先さらに様々な形や色彩を持つことを予感させた。indigo la Endの煌々たる未来はこの日約束されたと言っても過言ではない。
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