Japanese
indigo la End
Skream! マガジン 2019年08月号掲載
2019.06.16 @昭和女子大学 人見記念講堂
Writer 沖 さやこ
2013年にライヴ会場限定でリリースしたEPの表題曲「幸せな街路樹」を模したタイトルを冠する、全国8ヶ所のワンマン・ツアー。そのファイナル公演の本編ラスト前、川谷絵音(Vo/Gt)は"「幸せな街路樹」をどうしてもこのツアーでやりたかった"と語った。「幸せな街路樹」に綴られている心情だけは、この曲を書いた7年前からずっと変わらず、答えが見つからないままで、"この曲の歌詞が解決しないから音楽をやっているんだろうなと思う"と話す。
川谷は途轍もない制作スピードをキープしたまま20代の人生を走り続けてきた音楽家で、indigo la Endは彼の心に湧き上がる一瞬の感情の揺らぎや深層心理を、丁寧な演奏と言葉で音楽へと起こしていくバンドだ。初期メンバーの長田カーティス(Gt)、サポート・メンバーから正式メンバーになった後鳥亮介(Ba)と佐藤栄太郎(Dr)という現在のメンバーが揃い約4年。そのタイミングで、ライヴを通してバンドの歩みを振り返っていくことは、これからindigo la Endとソングライターとしての川谷が、前に進むうえでも重要だったのだろう。
「幸せな街路樹」を軸に、インディーズ時代の「彼女の相談」や「スウェル」から最新曲「はにかんでしまった夏」まで、新旧織り交ぜたセットリスト。冒頭2曲の黒い紗幕を被せた状態での演奏、曲に応じて用いられるコンテンポラリー・ダンサーのパフォーマンス、バックに映し出される絵画のような映像、影を効果的に使った照明、ステージを囲むネオンライトなど、どこか懐かしさや手作り感を感じさせる演出は、1980年に開館したホールのレトロ感と相まって、彼らの音楽や音像に宿る鮮やかな情緒を優しく豊かに届けていく。
序盤は力強くしなやかな演奏で「悲しくなる前に」や「想いきり」などを披露。メンバーが白熱灯の逆光で照らされた「夜汽車は走る」は、客席までも強い明かりで照らされ、彼らの繰り出す音をじっくり味わうには絶好の環境だった。ひとりひとりの自立したプレイが重なり合うことで生まれる調和は隅々まで誠実で、陰を細部まで描くことで得られる陽の成分が切なくも温かく、終始恍惚として聴き入る。終盤は「名もなきハッピーエンド」や「瞳に映らない」など、ピュアな気持ちが通う軽やかな楽曲たちで会場を染め、本編ラストの「幸せな街路樹」は、川谷の胸の内に渦巻く感情へと、サポート・メンバーを含めた6人全員が手を取り投身するような気魄。激しくも神聖なその音像は、音楽という方法でなければ表現し得ないスケール感だった。
アンコールで「蒼糸」を演奏したあと、再び川谷は心情を吐露する。溜め込んだ気持ちは大人になればなるほどどろどろすること。"こんな気持ちになってまで音楽をやる必要があるのか?"という心を簡単に殺せるのが、リスナーであること。そのリスナーたちに感謝の念を持ちながらも、どうしていいかわからなくなること。それを曲にする方法をまだ見いだせていないこと。昔の曲を演奏していて"こういう感性のまま大人になりたかった"と思ったこと。それ以外にも様々な気持ちを語り、胸に抱えるすべての心情を「心ふたつ」の演奏に込めたあと、メンバーが去ったステージには彼の手紙とも言える文言とその朗読が残された。
昨年12月に川谷が迎えた30歳という人生の節目と、2020年のindigo la End結成10周年。その狭間に位置したこのワンマン・ライヴは、時間で例えるならば真夜中なのかもしれない。だが夜こそindigo la Endの真骨頂であると思う。朗読の締めくくりは"旅の途中に来てくれて今日はありがとう。きっと次はもっときれいだ"。その言葉は空に浮かぶ満月のように静かで切なくも、凛としていた。
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