Japanese
indigo la End
Skream! マガジン 2014年06月号掲載
2014.05.14 @渋谷CLUB QUATTRO
Writer 沖 さやこ
indigo la Endの記念碑になるようなライヴだったのではないだろうか。ダブル・アンコールまでの全18曲、1曲1曲を丁寧に積み上げて作った美しい塔が、CLUB QUATTROという場所に立ったような気がした。
4月にリリースしたメジャー・デビュー作『あの街レコード』を携え、全国6ヶ所を回った全国ツアーのファイナル公演。CLUB QUATTROは満員の観客たちで埋まる。アーティスト写真と同様の白系のスーツで登場したメンバーがまず演奏したのは「名もなきハッピーエンド」。川谷絵音のなめらかな歌声と、サポート・メンバーである後鳥亮介の優雅なベースがサウンドを牽引する。オオタユウスケのドラミングから「緑の少女」へ。長田カーティスの奏でるギターが、音の泉のなかに色を垂らすように鮮やかに輝いた。柔らかい楽曲にはリラックス・ムードが漂うも、音の隅々には細やかな配慮と緊張感が迸る。不協和音の破壊音からテクニカルな変拍子曲「キャロルクイーン」。彼らの音楽はポップであり、そのポップ・センスをより深く追求した非常に偏差値の高い楽曲が多く存在する。だが彼らは頭脳だけではなく、それを表現する肉体も頑丈だ。続いての「楽園」では音楽を奥へ奥へと掘り進め、迷い込んでいくような心地よさが。その強かでしなやかなグルーヴに、たちまち場内はindigo la Endの世界へと落ちてゆく。
「染まるまで」「彼女の相談」「アリスは突然に」と、ミディアム・テンポの楽曲に、観客はそよ風に乗る草木の如くゆらゆらと揺れる。不可抗力とも言うべきその様子は、バンドが会場の空気を完全に掴んだことを如実に表していた。ライヴは時の流れのように、1曲1曲が次々に身体を通過していくことが多い。だが、この日のindigo la Endのライヴは違った。1曲1曲が順々に身体に焼き付いていくようだったのだ。そういう誠実な重量感は、バンドの強い意志に関係するものだろうか。このバンドは、自分たちが向かうべき場所、道筋が見えているのだろう。だから地に足の着いた音を鳴らすことができるし、"現在のバンド・シーンに歩み寄った"という明快で開けた最新作の楽曲があることで、プログレ的展開を見せる複雑なアレンジの過去曲も今までとは違う意味と表情を持ち始めている。許容範囲が広がったバンドは、未来を見据えて動き始めたのだ。MCを挟んでライヴは第2幕へ。「ダビングシーン」「夜明けの街でサヨナラを」と軽やかな楽曲を続け、ドラム・ソロから「billion billion」。メンバーそれぞれのキメも際立ち、改めて『あの街レコード』の楽曲が外向的であることを思い知らされる。
"1年ぶりのQUATTROワンマンをソールドできて嬉しい"と語る川谷。前回のQUATTROをソールドできなかったことを"いい作品を作ったのに、それに見合う結果がついてこないのが悔しかった"と言う。川谷は現在、ふたつのバンドのキーマンを務める。この1年間、indigo la Endはバンドとしていろんな壁とぶつかり、悩み、その結果『あの街レコード』という作品を作ることができた。このアルバムは彼らの過去と未来を繋ぐアルバムだ。今日のバンド・シーンとは少し違う位置で音を鳴らしていたindigo la Endは、自らの方法論でそのシーンに居場所を作ろうとしている。その場所が完成したら、彼らはどんなことをしてくれるのだろうか――それを思うと胸が華やいだ。「ミルク」「大停電の夜に」と優雅さと狂気を孕んだ音像が心を襲う。後鳥がベースを奏でる所作も美しい。ラストの「幸せな街路樹」の終盤、感情的にただただ楽器を鳴らすメンバーの姿に、視線を外すことができなかった。
アンコールでは新曲を披露。『あの街レコード』の延長線上に位置する、差し引きの効いたアレンジが特徴的なマイナー調のアグレッシヴな楽曲で、indigo la Endにはまた新しいアプローチだった。「素晴らしい世界」のラスト、ステージにひとりになりアカペラで"これからは一人で生きていくよ/大丈夫そうだ"と歌う川谷絵音。ステージ上で確かな結束感を見せたバンドのフロントマンには似合わない言葉だった。ダブル・アンコールでは川谷が弾き語りで「あの街の帰り道」を歌い上げ、ゆっくりと優しくCLUB QUATTROを現実世界へと引き戻した。川谷が去り、楽器と機材だけになったステージに、高い塔が見えた。indigo la Endの音と心でできたその塔には、彼らの音楽を慕う観客たちの想いも重なっていた。
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