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Laughing Hick ホリウチコウタの能ある君は僕を隠す 第6回

2025年09月号掲載

Laughing Hick ホリウチコウタの能ある君は僕を隠す 第6回

「アイコ」の形を舌でなぞって確かめている。ツルツルしていて舌触りがとても心地よい。いつものソレと違ってアイコは、まん丸ではなくロケットの形をしている。それが不思議で、また舌で遊んでやる。

ひと通り楽しみ終わったところで、ひと思いに潰してやった。そしたら、変わらずいつもみたいに弾けた。美味い。いつもよりも甘いし肉が分厚い。

「こりゃ、まるでフルーツだな。ご馳走だ」なんて独り言を溢しながら遂にグーグルで調べた。どうやらアイコはフルーツトマトって種類らしい。

アイコとの出会いは、先日 開催された地元の夏祭りライブで帰省した時。ドラムのたいちママからお土産にっていただいた。そうか。きっと、アイコを漢字で書くなら「愛子」だな。なんて、勝手に親心を変換しながらロケットの形をした愛子の先を眺めていると、思いがけず昔に遊んでいたトゲトゲのバランスボールを思い出した。

小学1年生。7才のホリウチ少年はトゲトゲのバランスボールが好きだった。乗って遊んだり、バスケットボールみたいにバウンドさせたり、妹とキャッチボールをしたりした。特にハマってたのは、バランスボールを抱えたまま当時の家の居間にある大黒柱にぶつかっては返ってくるボールの反発力で後ろに飛ばされることだった。

80%でぶつかれば80%で、100%でぶつかれば100%で返してくれるコイツが愛しくて飽きることなく放課後になれば愛をぶつけて遊んだ。

でも、そんな幸せはいつまでも続かなかった。

その日も、ご多聞に漏れず夕飯時だってのに居間の柱で待ち合わせをしてバランスボールとラブラブしていた。でも、その日のホリウチ少年はひと味違った。「たくさんの助走をつけて100%以上のパワーで柱にぶつかったら、どのくらいの愛が返ってくるだろう」って2人の限界に挑もうとチャレンジしてた。

すると柱の向こうから食事をしながら父が「あんなことしてたら、そのうち反発力に耐えられなくなって転んで怪我するぞ」と母に話してるのが聞こえた。

その会話が聞こえたと同時に脳裏に浮かんだことが2つあった。

1つは、「このまま助走を伸ばし続けて柱にぶつかっていたら、いつかバランスボールの愛に耐えられず父の言う通り、転ぶかもしれない。」という補助輪のくせに感じた浅い危機感。

そして、2つ目は人生で初めて感じたものだった。『他人の期待に応えたい』という感情。 2つ目の感情に全身が支配されたと同時に足りないオツムをフル回転させた。

この衝動のまま今すぐに転んだら、わざとらしいよな。わざと転んだのがバレることが何よりも恥ずかしい。穴があっても入れられなくて「そこじゃなくて、もう少し上......。」って誘導される初めての6畳の暗闇よりも恥ずかしい。

ならどうする?自然に感じさせるには、あと何回柱にぶつかったら転んだらいい? 足りないオツムが弾き出した答えは4回目だった。

1回、2回、3回。そして、遂に4回目。反発に耐えられなかった感じで後ろに転んでみた。

「ほらみろ!言わんこっちゃない」って柱の向こうから家族の笑い声が聞こえた。

「よしっ!上手に演じられた!」って心の中の表彰台で声高らかにガッツポーズしながら、痛い演技を必死にした。

この感情はなんだろう。達成感、喜び、そして安堵が入り混じった複雑な感情。でも、とても心地よく気持ち良い。

思えば、あれから随分その感情の虜な気がする。

でも、あれは自分のためだったのか、他人のためだったのか。いまだに分からない。けれど、「自分のために」って動いた行動が「他人のため」になることがある。って今の自分の哲学を支える原点な気がする。

でも、たまに「優しくしてるのは自分が優しいんじゃなくて、他人に優しいって思われたいから優しくしているだけなのかな」なんて自己嫌悪が襲ってくることがある。

でも、それでもいいんだきっと。自分のために他人に優しくするで良い。それで地球が回れば、いつか戦争だってなくなる。

今日も「自分のため」に生きたことが「他人のため」になっていると信じて生きる。

Laughing Hick

誰しもが抱く素直な想いや心の葛藤をストレートな言葉で紡ぎ、日常のリアルを共有する山梨発のギター・ロック・バンド。共感性の高いリアリティのある楽曲がYouTubeやTikTokで話題となり、10~20代のZ世代を中心に注目度が高まっている。2025年6月にデジタル・シングル『マラカイト/ふたりの恋』発売。7月にはSpotify O-EASTで自身最大規模のワンマン開催。11月、12月には東阪でツーマン・イベントを行う。