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INTERVIEW

Japanese

ビッケブランカ

2021年09月号掲載

ビッケブランカ

Interviewer:吉羽 さおり

タイトル曲はミックスで化けた――この曲にこれほどポテンシャルがあるとは、自分でもわからなかった


-そうですね。歌の際立ちということでは、「Divided」の歌の存在感やエモーショナルなボリューム感、歌で揺さぶる強さがありますし、「Death Dance」や「FATE」も良くて。また「オオカミなら」などは、日本の良質のポップスを真正面からやっている曲ですね。

ちなみに「オオカミなら」は、何かのアンサー・ソングなんですが、わかりますか? ある女性シンガー・ソングライターの曲へのアンサーなんですよ。中島みゆきの──

-あぁ、「悪女」ですかね。

そうです。「悪女」ではサビが"悪女になるなら"なんですけど、僕は送り狼になったら、というような意味の曲ですね(笑)。このメロディの転がっていく感じとか、なりたいけどなれない、でも悪女じゃない人が悪女になろうとしている感じというのが、一緒で。「悪女」はなぜか子供の頃から大好きで、なんか面白い歌だなって思っていたんですよね。子供心に、その人が悲しんでいることとかがわかるっていう、衝撃があったんですよ。それをちょっと、やってみました。

-このモダンな『FATE』という作品に入っているからこそ、個性が立つ曲でもありますね。

この曲だけ特殊なんですよね。あとは、「ポニーテイル」と本間(昭光)ワークスが並んだ曲順にもなっているので。

-J-POP的な2曲ですね。「ポニーテイル」よりもディープに、歌謡的な世界に踏み込めた感じですか。

「ポニーテイル」を経ての曲なので、そのときよりもっていうのでお願いしたんです。「ポニーテイル」のときは、J-POPだけど、塩梅は見ながらアレンジをしていたんですよね。「オオカミなら」は、塩梅は見てないので。もう嫌になるくらいJ-POPにしてくれとお願いしたから(笑)。こっちのほうがこってりとしていますね。

-本間さんもアレンジが楽しかったでしょうね。「ポニーテイル」に続き、アレンジに関しては、本間さんの世代が通ってきたところもあると思うので。

本間さんは新しいことにどんどんチャレンジをして、新しい技を会得されている方ですけど、この曲では逆にそういうのをなしで、本間さんがアレンジを始めた頃に聴いていた音楽とか、初めに本間さんが手に入れたテクニックを使ってくれみたいな感じでしたね(笑)。

-それでいて単に懐古的なものではないですしね。

生ドラムではないのもデカいですしね。そこはちゃんと今のデバイスや風潮にあったものにしているんだけど、中身がめっちゃ古臭いこの良さというか、狙った趣で。今15歳~16歳のファンの方も増えてきてくれているから、その子たちがこういう曲を聴いてどう思うのかを、ヒアリングしたいくらいですね。この歌って、懐かしいと思う? という。でも、そもそも、元ネタとかを知らなければ、懐かしいとも古いとも思わないだろうから。古いとかはないですけどっていう世代がきっとあるはずなので、そのあたりを知りたいですね。

-中島みゆきさんの曲が子供ながらにわかったし、好きだったということでは、自分の血にもそういった音楽、歌心が自然と流れていて、さらりと書くとこんな曲になるとかもあるんですか?

そうですね。この曲も、メロディや歌詞はすごく自然にさらさらと出ますから。でも、こういう歌って、この「オオカミなら」がまさにそうですけど、自然に出てくる言葉を出せば出すほどフィールドのすごく狭い歌になるんですよね。個人的すぎる歌になりがちなので。これはミュージシャンだけじゃなく、絵描きもそうだろうし、スポーツマンもそうだろうけど、一度俯瞰で見る必要があると思うんです。でも、この曲はそれをやっていないんですよ。だから、こういう曲を書いていると、こんな気持ちを抱いている主人公が明確にいるって、ストーリーテリングに近寄っていきますね。

-そして、アルバムのタイトル曲でもある「FATE」の話も聞かせてほしいのですが、この歌詞は宮沢賢治の物語が下地になったものですね?

そうです、"よだかの星"ですね。もともとこの曲は"よだか"というタイトルだったんです。でも、『FATE』ってアルバムを作るとなって、表題曲が欲しいよねというところで一番相応しいのがこの曲だったんですよ。

-"FATE"=運命という言葉だけを拾うなら、他の曲に入っていたりしますよね。

そうですね。でももととなる"よだかの星"も、結局よだかは自分の運命に対しての反応で、星になっていくわけで。その意味で通じるものがあるし、この曲でそんな言葉をたまたま紡いでいたなという感だったんです。もともと「FATE」は、アルバムの中でのちょっと攻めた、ダークな雰囲気の飛び道具系の曲だったんです。このミックスを、Josh Cumbeeというロスの仲間がやってくれたんですけど。彼がミックスをしたことで、リード曲になりました。

-そういうパターンもあるんですね。

ミックスで化けたというやつでしたね。だから、最初、この曲にこれほどポテンシャルがあるとは、自分でもわからなかったんです。ちょっと攻めた感じで、サウンド感も細かく遊んでいていいよねーくらいの感じのものだったから、1回日本でミックスをしてもらって。"そうそうこんな感じ、アルバム曲ですよね"っていう感じだったんです。ただそこから結構時間が経ったこともあったので、せっかくならもう1回海外でミックスをやってもらおうと。それで、Joshがあげてきたのを聴いたら声がボーン! と飛び込んできて、心にドーン! っていう。もうズバーンときたんですよね。こんなに化けることある!? みたいな。もともとのよだかのストーリーも、人と違うという葛藤の中で最後に爆ぜる感じがあって。"よだか"が進化して「FATE」になったみたいな、そのストーリーもすごく良かったんですよね(笑)。

-曲ができあがっていく過程が、物語ともハマったわけですね。先ほども話していましたが、ミックスの観点というのが日本と海外とでは違うんですかね。

やっぱり、ルールが違いますね。これをどうやったかを知るためだけに、ロスに行きたい。"どういう作業をしたらこう鳴るの?"って、Joshに聞きたいですね。"何やった? 全部プラグイン見せて"っていう──もうほんと、行かなきゃ。じゃないと、次のステップに行けないし。これを見せられちゃったら、これを知らずには音楽を続けられないですね。

-もう確実に、頭は次のことに進んでしまっている感じですね(笑)。自分なりに、どういう過程を踏んでいるのか分析はしてみたんですか。

したんですけどね、違うんですよね......先にブースターとかかけてるんだよな。日本人って細かいから、スネアをパーンと叩いたとして、まずEQでちょっとこの低音を削ごうかな、ここはミーンっていってるから高音を削ごうかな、ちょっと削ぎすぎたかなっていう細かい作業から始めるんです。たぶん、海外の人はスネアのパーンにまずひずみをかけるんですよ。増幅させてから、削ぐから。スケール感が全然違うんです。例えば、これは食の話ですけど、繊細さを重ねて美しく作り上げていくのが、日本の寿司や京都料理なんですけど。海外のめちゃくちゃ大味なハンバーガーがうまい感じ。結局どっちを食う? ハンバーガーでもいいじゃんっていうそのマインドの違いなので。これは、実際にその場に行って会得しないとっていうところですよね。

-なるほど(笑)。思わぬ形でタイトル曲になった「FATE」ですが、これは下地になった寓話"よだかの星"を知っていればなおさら、歌の意味合いを考えますし、葛藤して戦って、自分の居場所を見つけることが描かれていて。こういう感覚って、これまでのビッケ(ビッケブランカ)さんの曲にも息づいていますよね。

そうですね。この曲だからというわけでもなく、ずっと根っこにある考え方な気がします。やっぱりいつだって飛びたいし。インディーズの頃から「アシカダンス」(2015年リリースの2ndミニ・アルバム『GOOD LUCK』収録)って曲とかもありますけど、古い曲からそういう飛びたい、泳ぎたい、なんとかしたいってのが多いんですよね。

-自分が望む場所、自分が自由でいられる場所を見つけるという。それはクリエイティヴに関しても言えそうですね。特に今回のアルバムを作っていて、今自分が出したい音や、得るべきものがより明解になってしまった感じもありますし(笑)。

こんなにやられたらそうですよね。「FATE」はそれくらい大化けした感じがあって。アルバムの中では、そういうマジックもありなんです。いろんなものに時間がかかりすぎて、スケジュールが大変でしたけど、そのなかで1曲足りないってなったんですよね。それで2日間で書いたのが、「Divided」だったんです。

-それがすごく旨味が凝縮された曲にもなったことからも、充実度がわかります。今回はアルバムの曲をイントロとアウトロで挟む形になりましたが、このイントロ、アウトロはどんなイメージですか?

イントロとなる「Lack - Intro」と、アウトロの「Luck - Outro」はそれぞれ違って。"Lack"は不足しているものや欠陥、そしてそれが埋まったうえでの"Luck"、幸運を手に入れた状態という感じで。ないところに曲がサプライされて、最後に幸運を掴むという験担ぎみたいな感じですね。オープニングは、アルバムのジャケットが引っ張ってくるような、若干不穏でもあるけれど、地味でもなく、そこに続く「夢醒めSunset」を邪魔しないようなもので。アウトロの「Luck - Outro」は、その前の「天」がしっかり、本当のラッキーみたいなことを描いてくれているから、そのあとを締めくくるように、熱を収めて終わる感じという。

-こういうアルバムの構成って、前3作にはなかったものですね。

今までは、なかったですね。いつもだったらアルバム名が1曲目になっていたんですけど、今回はいろんな曲が担えたので。となると、イントロ/アウトロをつけたほうが、気持ちいいのかなということで、4作目にして、"アルバム"らしいものになったなと思います。