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LIVE REPORT

Japanese

PELICAN FANCLUB

Skream! マガジン 2016年08月号掲載

2016.06.29 @渋谷clubasia

Writer 松井 恵梨菜

"帰りたくないよ、帰したくないよ。みんな愛してる"――こんなストレートな告白をする人だっただろうか、エンドウアンリ(Gt/Vo)は。PELICAN FANCLUBが6月にリリースした3rdミニ・アルバム『OK BALLADE』を引っ提げ、彼らが高校生のころから聴いていたというThe Mirrazを全公演のゲストに迎えて開催した東名阪ツアー。そのファイナル公演の終盤にエンドウの口からこぼれた前述の言葉を聞いて、こんな時間がずっと続けばいいと思った。

派手なフラッシュとノイズのかかったSEの中、まずはThe Mirrazのメンバー3人......と、バンドのキャラクターであるキノイくんが手を振りながら登場。つい先日、新谷元輝(Dr)が脱退し、3人体制での活動をスタートさせたばかりの彼らだが、そこで新たにキノイくんがパフォーマーとして一役買っている光景はなかなかシュールなものの、彼も一丁前(?)にDJとしてパフォーマンスしている。ここ1年で、自主レーベルに活動の場を移し、バンドの音楽性もEDMを大胆に取り入れたものへと大きくシフトさせているThe Mirraz。1曲目「マジか。そう来たか、やっぱそう来ますよね。はいはい、ですよね、知ってます。」から身体にずっしりと響くダンス・ビート、畠山承平(Vo/Gt)の舌鋒鋭いヴォーカルを展開。この日演出として活用されていたVJも、サウンドを視覚化したようなデジタルなものでその音をよりリアルに体感できた。「ハッピーアイスクリーム」、「シスター」と以前の曲も同期を取り入れたことで新たな一面を覗かせながら、その中に確固として存在する芯のあるバンド・サウンドがフィジカルな部分を感じさせる。「葬式をしよう」では、畠山が遺影を両手で抱えて歌いきったかと思えば、"これはキノイくんがミイラになる前の写真です"と明かし客席を笑わせたシーンも。全11曲、ほぼMCなしで曲を畳み掛け、ラスト2曲「つーか、っつーか」、「CANのジャケットのモンスターみたいのが現れて世界壊しちゃえばいい」ではさらにブーストさせたサウンド&テンションで走り抜けた。

厳かなSEが流れる中、『OK BALLADE』のテーマ・カラーと同じ真っ赤なスクリーンに、ツアーのロゴが映し出される。赤いライトがPELICAN FANCLUBのメンバーのシルエットを描き出し、「アンナとバーネット」のギター・リフが高らかに鳴ると、それと同調するようなクラップがフロア中から巻き起こる――見事なショーの開始の合図だった。気持ちの昂りからか、演奏のテンポは明らかに音源よりも速い。それにつられて生じる聴き手の高揚感をギリギリまで高めてから解放するようなサビで、白飛びしそうなほど一気に明るくなると、ここでようやくメンバーの表情がはっきりと確認できた。いつも以上にキレッキレな個々のプレイから、この日への気合いを十二分に感じられる。風のようなタッチの美しさを湛えたエンドウの裏声やクルマダヤスフミ(Gt)の透明感のあるギター・ソロがイノセントな「Ophelia」、"赤く染めてやるよ!"というエンドウの宣言を引き金に、狂気に満ちた演奏が繰り広げられ、攻撃的なサウンドが襲いくる「for elite」など、初っ端から正反対の二面性を見せつけ、観る者を翻弄していった。

"(この日を)どれほど楽しみにしていたか。相当だよ、2ヶ月寝てないよ"とMCで明かしたエンドウ。しかしカミヤマリョウタツ(Ba)に"嘘つけ(笑)!"と突っ込まれると、"嘘だよ"とあっさり認める。とはいえ、本当に楽しみにしていたのが嘘じゃないことは、その活き活きとした表情からよくわかる。エンドウは今回のアルバムについて触れ、"今までは曲にタキシードを着せて、ドレスを着せていたんだけど、今回は何も着せてなくて。でも、メンバーはそれでいいんだよって言ってくれたんです"と伝えた。それは曲だけではなく、ステージに立つ彼自身についても言えるのではないかと、後々気づくことになる。衝撃だったのは、引きつけた心を良い意味で裏切るような歪みと轟音が会場を支配する「説明」。エンドウがラップ・パートをアレンジして即興でファンへの感謝の気持ちを歌うというサプライズも盛り込みつつ、サビではハンドマイクでひざまづいてシャウトするなど、感情をすべて吐き出すようなパフォーマンスに目を奪われた。「Dali」ではシミズヒロフミ(Dr)が刻むタイト且つダンサブルなリズムに乗り、再び大きなクラップが発生。たゆたうようなヴォーカルとミステリアスな雰囲気を醸し出すギターの音色が心地よく響く。そして間髪いれずカミヤマとクルマダが競い合うようにそれぞれのパートを掻き鳴らすと、『OK BALLADE』のオープニング・ナンバー「記憶について」へ。そして、"未来への不安も、過去への後悔もどうしたらいいんだろうって思ったときに、「今」を大事にするしかないなと思って......"と言って本編最後に届けたのは、今作の核となったバラード「今歌うこの声が」。必死に"今"という時間の尊さを訴えるエンドウの真剣な眼差し、情熱的な歌がしばらく脳裏から離れなかった。

アンコールでは芸人のような軽快なノリで登場したカミヤマとクルマダが会場の空気をほぐした後、エンドウがThe Mirrazとツアーを回れたことへの感慨深さを言葉にしていると、畠山がステージに登場。升に入った日本酒をPELICAN FANCLUBのメンバー全員に飲ませ、"「シスター」いつやるの?"と用意していたサプライズをうっかり明かす。そう、The Mirrazの「シスター」をカバー、しかもゲスト・ヴォーカルに畠山を迎えて披露したのだ(後日談、「シスター」はエンドウがThe Mirrazを好きになったきっかけの曲だったとのこと)。歌い終えると、畠山は"PELICAN FANCLUB、いいバンドでしょ? みんな応援してあげてね"と先輩らしくエールを送ってステージから去っていった。あまりの幸せに満ちた時間に、エンドウは"夢だったかな......? 言葉にならない、動揺してる"と感動を口にした後、秋にワンマン・ライヴを開催することを高々と告げる。そして最後に「1992」を演奏して幕を閉じる......はずだったが、エンドウが"帰りたくないよ!"とダダをこねると、ステージを去りかけていた他のメンバーは足を止めてその姿を見て微笑み、急遽もう1曲追加。エンドウは感極まった様子ではしゃぎながら、"こういうとき、なんて言葉にしたらいいかわからないけど、僕は「愛してる」という言葉を使うよ"と気持ちを伝え、「Karasuzoku」を届けた。こんなに"想いが溢れてしょうがない"彼を、初めて見た気がする。着飾るものは何ひとつない。大事にしたいと言った"今"という時間を心から楽しむ姿はとにかく魅力的で、これから先どんな表情や景色を見せてくれるのだろうと、期待する心が弾んでやまなかった。

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