
Japanese
The Mirraz
Skream! マガジン 2013年02月号掲載

2013.01.11 @SHIBUYA-AX
Writer 石角 友香
EMIからのデビュー・シングル2作(『僕らは/気持ち悪りぃ』『傷名/うるせー』)リリース後のツアーのファイナル。“インディーズでもメジャーでもカッコいい音楽を作る”ことは“インディーズと同じことをやる”のとは違う。The Mirrazのロックは今よりもっと遠くへ、多くの人へ届くはず。元々そんな思いを抱いてバンド活動している畠山承平(Vo/Gt)が無策でこの日に臨むわけはない。
テンプレな物言いで申し訳ないが、嗜好が細分化されもはや太文字で“ロック”を標榜しづらい今にあって、久々にやっぱそれでもロック・バンドじゃなきゃ感じさせることのできない攻撃性やロマンはあるんだよ、自分ゴトとして血が騒ぐライヴだった。
この日はファイナルの祝祭感か、彼らへのシンパシーからかゲスト・アクトに髭が登場。満場のThe Mirrazファンにも歓迎され、選曲もアイゴン加入以前の言わば“毒気と攻め”時代のナンバー(「ロックンロールと五人の囚人」「黒くそめろ」「テキーラ!テキーラ!」など)中心に展開。最近めっきり愛と感謝の人の印象が強い須藤寿(Vo)だが、そこは変わらず(MCで“髭が出るとか、ミイラズがこの後やるとか、その前にみんなが生まれてきたでしょ?もう、それでいいよ!”と爆笑を誘いながら感謝の言葉を述べていた)再び音楽的に攻めの姿勢を見せていたのが印象的。ちなみになんと7人目の新メンバーが加入! 現在活動休止中の踊ってばかりの国の佐藤謙介(Dr)が早くもバンドに新鮮なグルーヴを持ち込んでいたことも記しておきたい。
髭が場を十二分に温めたあと、転換後に組まれる恐ろしくシンプルなセッティングがThe Mirraz以外の何物でもないムードを醸し出す。スリリングなムードが暗転で増幅される中、腰を折るように箏曲「春の海」に乗せて(いくら新年とは言え……)メンバー登場。笑いを禁じ得ない中、オープニングは「ハッピーアイスクリーム」。言葉数こそ多いが、大人になっていくことに伴う馴れ合いと変わらない愛する人への思いが複雑に交差するセンチメンタルな幕開けに意外さと驚き混じりの声が上がるが、今回初めて見るオーディエンスもいることを考えるとこの共感性の高いが瞬間沸騰的ではないこの曲を最初に配置したバンドの意思を感じる。この日はとにかく曲順と選曲が意思的。そして各楽器の輪郭が最強に際立つ出音が最高だ。「ハッピー~」をじっくり聴かせた後は「うるせー」「ふぁっきゅー」など攻撃+冗談半分な攻め攻めなブロックが展開。それでいて演奏はタイトかつソリッドに引き締まり、ダークで不穏なムードで息もできない緊張感。“髭、最高だったな。テンション上がってちょっと飛ばしすぎた”と笑う畠山。CDショップでバイトしていた頃、髭のアルバム・ジャケットを“なんだこりゃ?と思ったけど、売れて。今日は負けられませんねぇ”とホントに楽しそうである。しかしいざ演奏を始めると、派手なアクションはないし、所謂R&Rリヴァイバル以降のバンドの定番的なスタイルだが、音と曲と佇まいでここまで受け手の心拍を上げるバンドになってることにいい意味で呆然。ある種の王道感すらある。続くブロックはThe Mirrazが持つスウィートネスとポップネスが染みる。特に「朝、目が覚めたら」はそれこそ50sから現代に続く普遍性を見せ、サビの中島ケイゾー(Ba)のコーラスもいい。中盤にさしかかり“来月アルバムが出ます。そっから1曲やります”という畠山の紹介から始まったアルバム『選ばれてここに来たんじゃなく、選んでここに来たんだ』のリード・トラック「スーパーフレア」は十八番中の十八番と言えそうなギターの3連リフが圧を増して迫り、佐藤真彦(Gt)のフレーズがどこかサイレンのような響き。シンプルなのにエクストリームという意味で新鮮だ。3連&変拍子のライヴの鉄板ナンバーを立て続けに演奏し、ちょっと神妙なムードで次の曲紹介をしようとしたところ、会場で落し物をしたファンの声が。それを無視しないのがなんとも畠山である。“何落とした?タオル?見つかった?……じゃあ、えっとね「傷名」やろう。”もしかしたら何か話すつもりだったのかもしれないが、演奏が表現したというか、ケイゾーの這うようなベース・ラインに切れ味鋭い2本のギター、地メロから上り詰め、サビ前のヴァースでさらに内燃し、サビでリフレインされる“何度も何度も何度も何度でも”に至る言葉言葉言葉。間奏部分の迫真の抜き差し。モッシュより拳を上げて曲に呼応してるファンが多いのもこの曲への共感度の高さを物語る。生きることは傷つくこと。ただし、傷というのは必ずしもネガティヴな体験だけを指すわけではない。The Mirrazならではの“絆”についての前向きな考察は、曲という具体に昇華されてこの日のハイライトになったと思う。
本編はまだ残されてるのだが、どこかやり切った感があったのか、ニュー・アルバムとアルバム・ツアーの告知から髭のメンバーがさらに増えたこと、CD1枚の印税から考えて7人もいたら愛がないとできないだろうなどなど……“そんな話は忘れていいから(笑)”と最後には失笑気味に自分で話を終わらせるほど(毎回、なんらか脱線はするけれど)この日の畠山は実に楽しげで、最後まで緊張感を保つことが第一義ではなく、自由にファンと気持ちを通わせている。終盤はキラッキラなダンス・ナンバー「あ~あ」、泣き笑いでモッシュが起こるすっかりド定番になった「ラストナンバー」、そしてグッとボトムを低めに落として全員が大声で叫ぶ「気持ち悪りぃ」と、むしろファンのモヤモヤをブチまけさせるぐらいの開放的な大団円だった。
全力を出し切ったフロアから次第に大きくなるアンコールに応えて登場した4人は「“もうちょっとやるわ”」と、ザックザクのリフとシンプルだがフックありまくりの関口塁のドラムが最強に気持ちいい「TOP OF THE FUCK'N WORLD」、1曲の中にドリーミー・ポップからダーク・サイドから、J-POP的なサビまで積みまくりな「僕らは」を投下。ダブル・アンコールではステージを走り抜けて“俺、高校以来、走ったわ。走り解禁”と主張するもファンからかかる多数の言葉に遮られいつしかグダグダになるMCを経て、「僕はスーパーマン」ででっかい笑顔に溢れたライヴは終了。憎悪や嫌悪のダーク・サイドも誰かと関わることの儚さも切なさも、すべて抱えて最新のバンド・サウンドで鳴らすこと。メジャー初アルバムにも気負いなく、でもその意義が込められているに違いないとこの日のライヴで確信した。
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