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INTERVIEW

Japanese

Lucky Kilimanjaro

 

Lucky Kilimanjaro

Member:: 熊木 幸丸(Vo)

Interviewer:蜂須賀 ちなみ

-熊木さんにとって身近な他者といえば、バンドのメンバーや制作に携わるスタッフ、リスナーかと思いますが。

僕たちの場合は、僕が作詞作曲だけではなく、アレンジまでほとんど作ってしまうので、制作段階ではすごく孤独なんです。メンバーとスタジオに入ってライヴ・アレンジを一緒に作っていったり、楽曲をパッケージングするためにミックスをしてもらったり、ミュージック・ビデオやジャケットを作ってもらったり、お客さんが踊ってくれたときに初めて、僕という個が"無限"になっていく。"ひとりでやってもなんか広がらないんだよな"という経験も実際にしてきましたし、みんながいるからこそLucky Kilimanjaroの面白さが拡張されているんだという感覚はあります。Lucky Kilimanjaroは来年で結成10周年を迎えますけど、"いつの間にかこんなことになっているな"と思ったりもします。僕自身、周りの影響を結構受けやすいタイプなので、"むしろ、結成当初から変わっていないことってある?"という感じです(笑)。

-(笑)

いろいろな人と触れ合うことによって変わっていくのはおそらくバンドだけではなくて、人間もそういうものですよね。それなら"とりあえず、今面白くなりそうならいいじゃないか"という気持ちで、自分を半分手離しているような状態を楽曲制作においても、自分の生き方においても選んでいる気がします。

-そんな「無限さ」と「靄晴らす」がひとつのシングルとしてパッケージングされているのが面白いですよね。人との繋がりの尊さを歌った「無限さ」に対し、「靄晴らす」では対人関係で生じるストレスをめちゃくちゃ歌っているという。

(笑)ずっと内にこもっているのではなく、少し視線を外に向ければ知らない風が入ってきて、空気も良くなる。だから窓は開けておくべきだと思うものの、外に接続していれば楽しいことばかりが起きるのかというと、そうではなくてですね......。むしろ僕はたいていモヤモヤしている気がします。人から"こういうふうにしたらどうですか?"と言われたときに、"たしかに面白いかもしれない"と思えるときもあれば、"なんか芯食ってないな、うるさい!"と思うときもあります(笑)。

-先ほどおっしゃっていた"生活の両輪を曲にする"ということを、まさにこのシングルでも行っているわけですね。「靄晴らす」はどんな気持ちでいるときに、どのように作り始めましたか?

とてもモヤモヤしているときに作りました。PCの前に置いてあるメモに"モヤるなー"と書いて、そこから派生して出てきた言葉を書いたり、ちょっとトラックをいじってみたりしながら、"こういう感じかな"というふうに作り始めたんです。 これは、自分自身が今まさにモヤモヤしている、というときでないと出てこないタイプの曲だと思います。

-"今こんなふうにモヤモヤしています"と自分の精神状態を楽曲として形にしていくことは、熊木さんにとってセラピー的な作用があるんでしょうか?

たくさんありますね。やはり芸術には自分の感情を浮き上がらせる役割があるというか。曲としてアウトプットすることで、自分の中にあった"モヤるなー"という気持ちが外に置かれて、客観視できるようになるんです。抽象的な言い方になってしまいますが、自分の感情が心の中ではなく外にあることによって、立体的に捉えられるようになって、"あ、こういう形なんだ"と眺められるようになるというか。アウトプットしたぶん、自分の脳内のメモリもいったん空くから、"あぁ、自分はこんなふうにモヤモヤしていたのか"、"じゃあこのモヤモヤを解消しようとしていないのはなぜなんだろう"と客観的に考えられるようになるんです。だから極論ですけど、僕はずっと"みんな音楽作ればいいのに"と思っています(笑)。音楽を作らないにしても、自分が今ムカついていることとかを紙に書いてみることは、いろいろな人におすすめしたいです。

-なるほど。

もちろん音楽を作れるようになったところで、モヤが発生しなくなるということではなく、発生はするんです。だけど"じゃあ気晴らしにゲームをやろうか"、"それとも作品に昇華してやろうか"という感じで手札が増えているような......自分の気持ちと向き合う方法、戦う方法、一緒にいる方法が増えているような実感はあります。

-それこそ、Lucky Kilimanjaroのリスナーの中には熊木さんの書いた曲を通じて、自分自身が今抱いている感情の正体や、日々の課題などを認識している人もいるんじゃないかと思います。つまり、熊木さんが"作品に昇華してやろうか"という手札を持っているのと同じように、リスナーには"Lucky Kilimanjaroの音楽を聴く"という手札がある。

先ほど"みんな音楽作ればいいのに"と言いましたが、自分の気持ちをダンスに乗せるのも表現のひとつだと僕は思っているので、自分の気持ちと一緒にいられる方法のひとつとしてLucky Kilimanjaroの表現を受け取ったあとは、なんらかのアクションに繋げてもらえたら嬉しいなと思っています。

-歌詞を書くにあたって、特に意識したことはありましたか?

今までのLucky Kilimanjaroであれば、"日々モヤモヤしています"ということを表現するのであれば、解決までパッケージングしていたと思うんです。だけど、友達に悩みごとを相談するときは単純に話を聞いてほしいだけで、別に解決してほしいわけではないときもあると思うんです。それに、時間をかけて考えないと答えが見つからないタイプの悩みだってある。2番のヴァースにもありますけど"気にしたら負け"ではなくて、気にして、考える必要のある問題だと思っているからそもそも悩んでいるんです。なので、今回は"並走してくれる"という感覚を大事にしたいなと思いました。解決はそもそも目指さず、"モヤるよねー"という自分の気持ちを僕がそのまま表現することで、誰かのモヤモヤと共鳴して、いいダンスが生まれればいいなと。

-楽曲の構成面についてはいかがですか。

この曲は、ヴァースとコーラスでコードを結構変えていて。明るいコードを使っている部分と暗いコードを使っている部分を作り、靄から逃避する場所と靄と向き合う場所のコントラストをはっきりさせることで、この曲のキャラクターを明確にしようという意図がありました。

-たしかに、考え続けなければいけない問題だからといって、ずっと考えてばかりいると疲れてしまいますしね。

そうですね。"もう逃げちゃえばいいな"という発想は、あとあとツケが回ってきて危険な感じがしますけど、考えるという行為は心を消耗してしまうものなので。"今日は考える"、"だけど明日は逃げる"といったバランスが必要だと思うので、そのバランスを楽曲内でいかにデザインするかという点はかなり考えました。

-最後に、ツアーが始まる前に恐縮ですが、ツアーが終わったあとの活動について聞かせてください。来年は結成10周年とのことですが、何か予定していることはありますか?

まだ何も発表していないですが、10周年らしく、面白いことをやりたいなと思っています。

-それは楽しみです。アニバーサリー関連の予定が入ってくるということは、アルバムはもう少し先ですかね?

そうですね。最近は年に1回、春にアルバムを出していたんですけど、次はもう少し時間が空くかもしれないです。次のアルバムのことはまだイメージしきれていない部分も多いんですけど......まぁ、毎日曲を作るなかで"あぁ、自分は今こういうことを考えているんだ"、"じゃあ最終的にこういうアルバムになるな"という感じで、いずれまとまっていくのかなと。こんなこと言って、普通に4月に出たらすみません(笑)。