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LIVE REPORT

Japanese

Lucky Kilimanjaro

Skream! マガジン 2022年01月号掲載

2021.11.25 @Zepp DiverCity(TOKYO)

Writer 稲垣 遥 Photo by 田中聖太郎

"自由に踊りましょう! 自由に!"。熊木幸丸(Vo)はこの日集まった人々に幾度となくこう呼び掛けた。いわゆるMCのパートというものはなく、ぶっ通しで2時間続けたLucky Kilimanjaroプレゼンツによるダンス・タイム。チケットはソールド・アウト。会場となったZepp DiverCity(TOKYO)には椅子が用意されているものの、空席を設けた制限というものはなしの形では、2年ぶりの東京公演だ。目の前にある日々を懸命に生きる私たちそれぞれの心を解き放つ。また明日を楽しく生きられるように、この空間だけは何にも縛られずにやろう。そんな願いが"踊りを止めない"という信念として示された"21 Dancers"ツアー・ファイナルだった。

定刻、暗闇の中スペーシーなインタールードが流れると、熊木の第一声でパッと会場全体が照らされ、ライヴがスタートした。ずらっと並んだ観客が一斉に立ち上がり揺れ始める姿はやはり壮観だ。音源と違い柴田昌輝、ラミのドラム&パーカスをフィーチャーしたパートから、"みなさんに新しい朝が来るように"と熊木が添え、勢い良く突入した「FRESH」では手拍子が自然と湧く。4月に観た野外の日比谷野外大音楽堂公演に比べて、このZepp DiverCity(TOKYO)という広めのハコでは、山浦聖司のベースをはじめ、低音が空間を経て身体に響き渡り、グルーヴをぐっと増幅している。また照明の演出も多彩で、「Drawing!」では絵の具をぶちまけたようなカラフルな光がステージにもフロアにも降り注ぎ、視覚的にも気持ちを高揚させた。

今回は作品を引っ提げたツアーではないため、選曲の自由度も高く、冒頭にも書いた通りノンストップでの進行なので、曲が終わった瞬間ごとに"次にこれが来るのか!"と耳に飛び込んでくる音に脳を刺激される感覚が心地よい。甘くメロウな楽曲が続くパートではまおたきこと大瀧真央のシンセサイザーや、紅一点のコーラスが際立ち、楽しく料理する1曲の中に日々を充実して過ごすためのエッセンスが詰まったじんわりと沁みる「ペペロンチーノ」などで、アットホームな空気を充満させる。だが、レアな選曲となった「Everything be OK」では、"君はどう踊りたい?"と強くメッセージを投げ掛けてきたりもする。一貫してダンス・チューンを鳴らしながらも、語感や音に対する言葉のノリの良さだけにとどまらず、むしろ鋭い言葉を時に届けるのがラッキリ(Lucky Kilimanjaro)の面白いところ。楽しく踊りながらも、それが現実逃避を目的としたものではなく、あくまでも日常に向き合いより充足して生きるためのものであることに胸が熱くなるのだ。熊木の気迫も凄まじく、オーディエンスのジャンプや上げた手を振り下ろすパワーからも、その気持ちが確かに伝わっていることを実感した。

また後半ではラッキリのライヴでお馴染みとなりつつある、アウトロから次の曲へとループさせロング・ミックスで繋いでいく手法で、どんどんZeppの温度を上げていく。ジーコこと松崎浩二のギター・ソロが炸裂する「Burning Friday Night」や、珍しく熊木が"そんなもんか!?"と観客を煽る場面を挟み、柴田とラミが同時に打ち鳴らす爆音ドラムがライヴハウスを揺らした「夜とシンセサイザー」、酩酊感と言いたいほどのムードを生み出し、浮遊感とともにうっとりさせた最新曲「楽園」と畳み掛けるなか、ボサノヴァのリズムによるラッキリの今夏のテーマ・ソング「踊りの合図」が圧巻だった。苦しみを踊りに昇華しようというこの曲では、頭を振る人、高く飛び跳ねる人、横に揺れる人、往年のディスコよろしく手を頭上で振る人――まさに熊木がこの日言い続けてきたように、"自由"に踊る人々がフロアを埋め尽くす光景が広がっていた。

本編25曲(!)を、疲労感を微塵も見せることなく見事に走り抜けた彼ら。熊木は"いやー最高っすね。超楽しかった。つらいこともあったけど、みんなが音楽を聴いてくれて、今年も救われました"とこの日初めてゆっくりと想いを伝え、そしてさらに、来年3月にニュー・アルバムをリリースしツアーを開催すること、そのファイナルがパシフィコ横浜であることを発表し、加えてアンコール2曲をエネルギッシュに完遂した。冒頭にも書いたが、本ツアーはこのZepp公演がソールド・アウトとなったため、12月10日にUSEN STUDIO COASTで追加公演を行う。勢いをさらに増すラッキリが今届ける、人生を豊かに生きる栄養となる時間。足を運ぶ方は十分に期待していい。

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