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INTERVIEW

Japanese

Lucky Kilimanjaro

2021年04月号掲載

Lucky Kilimanjaro

Member:熊木 幸丸(Vo)

Interviewer:TAISHI IWAMI

音楽とは、作者の現在地であり歴史の記録でもある。Lucky Kilimanjaroのメジャー2ndアルバム『DAILY BOP』は、自身の作品とリスナーや社会との繋がりや、ポップスやダンス・ミュージックが果たせる役割と真摯に向き合い続けてきた、フロントマン 熊木幸丸が、コロナ禍という未曾有の事態に見舞われた日々の生活の中で見いだした、今この瞬間にできることがこれ以上ないと感じるほどの濃度で詰まった作品だ。エレクトロ、R&B/ヒップホップ、インディーやロックなど、様々な音楽をミックスする感覚も、そのグルーヴと呼応しながら発するメッセージも、明らかなネクスト・フェーズへ。熊木は何を思い制作に臨んだのか、その成長の軌跡を辿る。


枠には収まらない、"この人だからこうなっている"としか言えないスタイルを目指したい


-今回久しぶりにお会いできるということで、過去に本誌で私が担当したインタビューを振り返ったんです。熊木さんはご自身の表現と人や社会との繋がりを強く意識しながら歩んでこられた方だと、改めて強く感じました。だからこそ聞きたいのですが、新型コロナウイルスのパンデミックが始まってから1年が過ぎ、その考え方に変化はありましたか?

社会に対して何かを伝えたいという気持ちは変わっていません。でも、コロナ禍になってひとりで考えることが増えたときに、それまでの自分は多様性について意識していた"つもり"だったんじゃないかって。想像以上にいろんな考え方がある事実と直面したときに、簡単に言うと慎重になってきたというか。

-考えれば考えるほど、知れば知るほど、ものが言えなくなってきたということですか?

個人の人生観も社会問題も、簡単に白黒がはっきりつくわけじゃない。それはもともとわかっていたこと。そのうえで、コロナによって浮き彫りになった様々な問題について、いろいろと調べたり学んだりすればするほど、その複雑な構造の解像度が上がってきたんです。自分は多数派だと思っていたことがそうではなかったり、思いもよらなかった考え方が飛び込んできたりしたことで、"こうすればいいんじゃない?"とか"もっとこんな感じでいこうぜ"みたいな、ある種の答えのようなものを提示することに疑問が生まれて、今までよりものをはっきり言わなくなったような気がします。

-その感覚は私なりにわかります。

もちろんコロナはできる限り早く解決しなければならない問題です。でも、そこに飛び交う意見のスピード感が怖い自分もいるんです。もちろん、確かな知見や考察が伴った意見もある反面、特に深くは考えてはいないであろう衝動的な言動もあるじゃないですか。それって、誰かを導いたり励ましたりできるのか。そういうことを考えてしまう。結果、とにかく発言することに意味があったんだと気づいたとしても、もう遅い。

-時間的にはそうですね。

そう思うと、僕はこの状況に対して、無知ゆえに日和っているだけだと言われれば、たしかにそうなのかもしれない。

-言わないこと、動かないことを選択したときに、そういう悩みも出てくると思います。

いずれにせよ、学ぶことはすごく大切。最低限、それを止める選択は僕にはなかった。だから、答えを提示したり何かを断定したりはできないけれど、誰かが学ぶための力にはなれるのかもしれないと思ったんです。

-ということは、今作『DAILY BOP』はコロナ禍を明確に意識した、対コロナ作品だということですか?

僕は常にその瞬間を切り取った歌を歌いたい、サウンドを作りたいと思っています。だから"コロナであろうがなかろうが大切なこと"みたいな感覚ではないですね。僕がわかっていなかったことをコロナが炙り出し、それによって学びや対話の姿勢が強化されたことは確かなので。

-そのうえで、"DAILY BOP"という足取りが軽めのワードをタイトルにしたのはなぜでしょう。

メジャー・デビュー・アルバム『!magination』(2020年3月リリース)を振り返ったときに、ダンス・ミュージック本来の肉体性みたいなものが弱かった気がしたんです。そこで出てきたワードが"BOP"というスラングでした。

-"踊りたくなるようないい曲"というイメージの言葉。熊木さんの中で、もっと直感的に踊れる作品が作りたかったのですか?

"ダンス・ミュージック"はLucky Kilimanjaroの一貫したテーマ。『!magination』も、踊れない作品ではなかったと思うんですけど、ちょっと頭でっかちだったなって。

-私は『!magination』のアレンジ面に面白さを感じたのですが、それはそれでひとつの在り方で、必要なプロセスだとは思えなかったのですか?

そういう見方もあると思います。でも、リリースが2020年3月4日で、ちょうどコロナ禍でライヴの予定などが飛んだことが重なったことで、より反発が強くなってしまったんです。こういう状況だからこそ、誰かの日々に自然と溶け込んで踊れる曲を書きたいと思うようになりました。それでできた曲が、同じ年の7月に出した「エモめの夏」です。

-とは言え、メッセージの部分で先ほど"誰かが考えるための力になれるかもしれない"とおっしゃったように、ただ底抜けに明るいダンス・ミュージック・アルバムではない。

そこは僕がもともと持っているキャラクターですね。先が見えない、時代が暗い、そういう現実を突きつけることはしないけど、前提にはある。そのことを踏まえて自分たちや聴いてくれた人の行動をデザインする、それがダンスなんです。

-そこで今作において特に興味深いのがリズム。熊木さんはこれまでも"踊れるリズム"を限定するようなことはしてきませんでしたが、120BPM台の四つ打ちが軸になっていた部分はあったじゃないですか。その考え方が本作にはありません。

そこは頭でっかちになりたくないと言ったように、ダンスというワードは念頭にありつつ、培ってきたものや今やりたいことを素直に出そうとしていたので、完成してからストレートな四つ打ちを真ん中に置いていないことや、全体的なテンポの印象が遅くなっていることに気がつきました。今まで以上に形式に縛られることなく踊れるサウンドを作っていったら、自然とそうなっていった感じですね。

-"自然とそうなっていった"ことは成長の証ですよね?

そうですね。歌を教えてくださっている先生に、音符で捉えるのではなく、空気を掴むことが大切だと言われたことがきっかけになって、リズムへの理解が深まりました。"ド"があって"ミ"があって"ソ"があるのではなく、その間に音が立ち上がって揺れていくカーブがあることを身体で覚えないと、いくら発声のスキルを磨いても立体的な表現はできないよって。そのことがおのずとトラックを作る作業にも反映されました。

-ほかに、音楽的なリファレンスの変化などはありましたか?

趣味が大きく変わったとかではないんですけど、ローファイ・ヒップホップや90年代のブーンバップ、ジャズに接近したヒップホップなどをよく聴いていたことは出ていると思います。中でもリズムにおいて最も影響を受けたのはKAYTRANADA。ああいう、ただの四つ打ちではなく、J DILLAっぽいビートをディスコ/ハウスにとり込んだ、独特のシャッフル感やバウンス感に着想を得た部分は大きいですね。

-KAYTRANADAもそうですし、1曲目「Superfine Morning Routing」の歌詞に出てくるTHE AVALANCHESも、様々なジャンルのミクスチャー感覚やコラージュ・センスが面白いグループですが、その点についてはどうですか?

アルバム全体は、朝から夜のバイオリズムをイメージしているんです。「Superfine Morning Routing」は、僕が朝起きてまず身体を動かすことにハマっていることもあって、"カッコいいラジオ体操"を意識していました。じゃあそのカッコ良さとはなんなのか。KAYTRANADAもTHE AVALANCHESも、ほかの人が真似するには冒険がいる独特のバランス感覚があるじゃないですか。言ってしまえばちょっと変で宙に浮いた感じがするんですけど、だからこそハマってしまうみたいな。

-UFOみたいな話ですね(笑)

(笑)歴史やジャンルに敬意を持ちながらも、シンプルにいろんな音楽が好きでいろんな音楽が混ざっている。分類されやすい時代だからこそ枠には収まらない、"この人だからこうなってる"としか言えないスタイルを目指したいんです。

-そういう意味でも今作は満足できていますか?

技術が上がったこともあって、今まではどんなやり方をすればどんな音楽ができるか、ロジックを理解して組み合わせて僕なりのベーシックを清書するだけで精一杯だったんです。それに対して今作はそのもう一歩先、もっと遊べるようになったというか、サウンドだけでなく、歌詞やメロディも含めて、曲全体の雰囲気や空気を気の向くままにどんどん変えていっても散らかることなく、面白いポイントが見つけられるようになった感触はあります。

-その象徴が2曲目の「太陽」だと思います。枠やミスマッチを恐れない、"リファレンスは大陸"くらいの、唯一の祝祭感に溢れた曲です。

そうですね。「太陽」にはすごくわかりやすく表れていると思います。"踊れや!ほいやっさ!"って、日本の祭りのような歌詞に合わせて、ベタに和太鼓を使えば面白くなると思った瞬間もあったんですけど、もっとSFチックな異世界を作りたくて。そこでどこまでサウンドを触ればいいのか、絶妙なバランスに落とし込めた曲だと自負できますね。