Japanese
Lucky Kilimanjaro
2021年04月号掲載
Member:熊木 幸丸(Vo)
Interviewer:TAISHI IWAMI
-アルバムの全体像について、"朝から夜のバイオリズムをイメージした"とおっしゃいましたが、「エモめの夏」までは、まさに午前だと感じました。人生いろいろありますけど、朝はまず自分を立ち上げるところから始める。
そうですね。「Superfine Morning Routing」は社会に対して思うこところも入れつつあくまでも気持ちいいライン上で、「太陽」と「エモめの夏」はとにかくイージーに"人生楽しもうぜ"って曲。そこは曲順を練っていくうえで、1日の始まりらしい爽快感を意識しました。そのほうが、コントラストで後半の曲が引き立つとも思ったので。
-たしかに、「エモめの夏」は、次の「アドベンチャー」で"学び続ける姿が 誰かのためのダンスになる"と歌われていることと対象的な、衝動をとことん肯定した曲だと受け取ることもできます。
アルバムを作る前提でできたわけではなく、さっきも言ったように前作のアルバム『!magination』で頭でっかちになっていたことへの反発でしかなくて、"もう何も考えたくない、踊りたい"と思って書いた曲。それがアルバムのキャラクターにコミットしていることは、自分でもすごく興味深いですね。どうしても重くなりがちな空気の中に、痛快なやつがいて救われることってあるじゃないですか。そういう意味でもこの曲ができて良かったと、つくづく思います。
-そして「アドベンチャー」は、熊木さんの現在が凝縮された最も濃厚な曲だと思いました。どこかPost Maloneを思わせる曲で、彼が「Rockstar Ft. 21 SAVAGE」で自らのルーツであるJim Morrison(THE DOORS/Vo)やBon Scott(AC/DC/Vo)のことを歌ったように、故Edward Van Halen(VAN HALEN/Gt)について、「Eruption」と「Jump」の2曲も歌詞に織り交ぜながら歌っている。現在のポップとロックの文脈を描いたうえで、そこに"学び続ける姿が 誰かのためのダンスになる"というフレーズ。本当に素晴らしいと思います。
これは、僕が音楽にハマって楽器を演奏するようになるきっかけになったハード・ロック、中でも大好きなVAN HALENの要素と、Post Maloneというよりエモ・トラップを混ぜたら面白いなって。そこに東アジアっぽいフレーズとかいろんな要素を入れて、"ファイナルファンタジー"みたいな世界を描きたかったというのが、もともとのイメージです。
-曲作りとは、自分の愛した歴史と現在の自分との関係性を描く行為でもあると思うんです。
Post Maloneの「Rockstar Ft. 21 SAVAGE」も、60年代から活動するOzzy Osbourneとコラボした「Take What You Want」も、そのことが前面に出ている例ですよね。本当に面白い。じゃあ僕がその流れに乗ったのかというとそうではないんですけど、僕なりに、過去と今を繋いでどちらもカッコいいものとして表現したい気持ちはありました。コロナ禍に見舞われて、自分がまだまだ何も知らないことに気がついて、もっと勉強したいと思ったことと、高校生の時にとにかくいろんな曲を弾きたくて一心に練習していた頃の気持ちが繋がったんです。だから、おっしゃったような考察に至られたことは、僕なりに合点がいきます。
-なるほど。
あの頃と今、音楽の作り方もジャンルの概念も曲を聴くツールも、大きく変わりました。音楽だけの話ではなく、その頃は当たり前だと思っていた価値観なんて、10年もあれば変わります。その中には残していくべきものも、そうなってしかるべきものもある。だから、"当たり前"とか"普通"を学ぶのではなくて、常に自分の意志でより良いほうを選択できるように勉強しなきゃなって、思うんです。
-前時代的な価値観はやっかいですよね。例えば、私は部活の練習で得意分野を伸ばすことより、練習中に水を飲まないことを始め、心や身体のメカニズムにあらがって我慢することのほうが評価された時代を生きたので、未だにその手の根性論が拭えず発言してしまって反省することがあったり。
わかります。僕にも思い当たる節があるので。そこは、自分が物事について"わかっている"という前提をひたすら疑うことしかないし、そもそも考え方が進化的であったとしても、自分の正義を他人に押しつけることって、変じゃないですか。もちろん、当の被害者は"最悪だ"と言って当然ですし、駄目なことは駄目。でも、押しつけあうことで生まれる歪にはセンシティヴでありたいんです。もっと個別の事象として扱っていくべきこともかなりある。
-「エモめの夏」の"エモい"がそうですよね。想像力が欠如した言葉としてやり玉に挙げられていたじゃないですか。「ペペロンチーノ」で"「うまい」「まずい」で片付けられたらたまんない"と歌われているように、この作品の"学び"というテーマとは一見矛盾しつつも、それでいい。
ケース・バイ・ケースですよね。エモいで片づけることが不快なこともあるし、ただ"これ、エモいっ!"って笑いあうことが楽しい場面もある。なのに、そのひとつ上のレイヤーで判別しすぎなんじゃないかとは思います。だから、正しいのかどうか、結論ではなく"考えよう"と言いたいんです。
-「夜とシンセサイザー」もそういう意味合いの強い曲だと思いました。
そうですね。この曲を作ったときはすごくしんどかったです。過去の価値観と向き合ったからといって、それで清算できるわけじゃないですから。
-そこから夜、眠りに向かって「MOONLIGHT」と「おやすみね」へと、安らかに、じわじわと夜に溶けていくようなグルーヴに救われた感覚がありました。
「MOONLIGHT」は恋人でも友達でも家族でも、好きな人を愛することの大切さを歌った曲。サウンドは50年代のジャズ・オーケストラとか、オールドなルーツ・ミュージックを聴いていたことから受けた影響に、サンプリングの音を合わせたりして、今っぽいフューチャーR&Bに繋がるようなサウンドメイキングを意識しました。
-ノスタルジックな哀愁が、熊木さん流のポップに溶け込んでいる曲だと思いました。
「おやすみね」も愛について書いた曲。「アドベンチャー」や「夜とシンセサイザー」のように、無知を自覚して学びを続けることは、自分を追い込むことでもあるし、自分のことを嫌いになってしまう行為でもある。けれど、大前提として最も大切なのは自分への愛、自己肯定だと思うんです。
-はい。
不安になることも怖いこともあるけど、アイデンティティを大切に生活してくこと。日々の悲しみやつらさを癒しながら、新しい自分を見つけていこうと思って眠りについてまた朝を迎える。そこのリアルも書かないと、ひたすら"学べ、考えろ"と言っている作品のようにも取れるじゃないですか。それって、すごく危険だとも思ったので。朝起きて身体を起こすためのラジオ体操的なダンスもあれば、社会や文化の問題について学ぶからこそ生まれるダンスも、自分を愛でるためのダンスもある。
-そしてこの先、熊木さん、Lucky Kilimanjaroはどこに向かうのでしょうか。
僕はとにかく学ぶしかないところにいる。そこに不安やつらさはないんです。いろんな感情を経て、楽しいからそうしたいと思っているという意味では、Lucky Kilimanjaroの原点に立ち返った感覚もあります。そこに現在進行の価値観やサウンドを乗せて、踊りをちゃんと提供すること。それはしっかりできていると思うので、今のスタンスを引き続きですね。
-6人でのライヴも楽しみです。
僕の表現は、極端に言えばエゴかもしれない。自分が人に対して何かができているという独善性が快楽になっている部分も少なからずある。でも、"元気が出た"とか"私も音楽を始めました"とか、聴いてくれた人からの前向きな言葉を貰えたときは、本当に心から嬉しい。だから、独りよがりと葛藤しながら、Lucky Kilimanjaroの音楽を聴いてくれる人たちとの関係性をもっともっと広げていきたいと思っています。それに対して、このバンドを6人でやっていることは、僕の表現上のポリシーとはあまり繋がっていなくて、大義はありません。ただこのメンバーでバンドをやっていることが楽しい。それがライヴならではのグルーヴを生んでいると思うので、今はちゃんとツアーができることを祈りつつ、その日が来たらともに楽しみましょう。
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