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INTERVIEW

Japanese

Lucky Kilimanjaro

Lucky Kilimanjaro

Member:熊木 幸丸(Vo)

Interviewer:蜂須賀 ちなみ

Lucky Kilimanjaroがシングル『後光』を7月26日に配信リリースした。2020年の「エモめの夏」、「太陽」、2021年の「踊りの合図」、2022年の「ファジーサマー」といったキラーチューンの存在により"夏はラッキリ(Lucky Kilimanjaro)の季節"というイメージを持っているリスナーも少なくないと思うが、今回の「後光」、「でんでん」も抜群の仕上がり。よくもこんなに夏の名曲が書けるなと、引き出しの豊かさに驚かされるばかりだ。もはや"夏のプロデューサー"と化していると笑う、作詞作曲の熊木幸丸に話を訊いた。

-まずは、7月2日に終了した全国ツアー[Lucky Kilimanjaro presents. TOUR "Kimochy Season"]の感想を聞かせてください。

今までで一番楽しいツアーでした。僕らは"メジャー・デビューして、さぁツアーを回るぞ!"というタイミングでちょうどコロナ禍が訪れたのもあり、やりたかったことを封印されていたような感覚がずっとありました。でも、声が出せないなら身体で表現するしかないだろうということで、制限があるなかでもツアーを回り、お客さんと一緒に"踊る"ということを構築してこられたように思っています。だから、もちろん大変なこともありましたけど、この3年間はすごく実りのあるものでした。そんな期間を経て、コロナ禍が明けたとはまだ言いきれませんが、より自由に踊れるようになったというのが今の状況で。2023年春夏ならではの、みんなの喜びがそのままダンスになっているような感覚があり、充実したツアーでした。

-いい空気のツアーになったのは、アルバム『Kimochy Season』(2023年4月リリース)の作風も関係してそうですね。

そうですね。あの充実感は、『Kimochy Season』というエモーショナルなアルバムだからこそ体現できたものだと思います。2022年に出した前作『TOUGH PLAY』は、コロナ禍の鬱屈した空気をパワーで引っ張っていくような、明るい内容でした。当時はそういう表現がしたかったのですが、一方で悲しさや寂しさ、ネガティヴな側面も音楽に落とし込めるのがダンス・ミュージックの魅力だと僕は思っていて。それを踏まえて作ったのが『Kimochy Season』というアルバムです。その作品のツアーということで、ダンス・ミュージックの特性をすごくよく出せたと思っています。

-自分たちの発信しているダンス・ミュージック観が、これまでの活動を通して伝わりつつあると手応えを感じているのでは?

そうですね。自分たちの作るコミュニティ内にはちゃんと伝わっているなとは感じています。一方で、まだみんなダンス・ミュージックに全身浸かりきっていただいてないなとも感じておりまして。新しく入ってきてくれたお客さんに、いかにLucky Kilimanjaroの文化に共鳴してもらうか、一緒に踊ってもらうかというのも含めて、ダンス・ミュージックの面白さをもっと伝えていかなければと思っています。

-以前SNSで"こういうふうにノったらいいよ"という動画を上げていましたよね。あれはどういう意図で?

お客さんの中に"ライヴでめちゃくちゃ踊ったから、筋肉痛で身体がバキバキになった"という方がよくいらっしゃるんです。そこには"それくらい騒いだぞ"という喜びもあると思いますし、踊り方は自由でいいと思うのですが、僕としては"そんなふうにならなくても本当は踊れるよ"、"めちゃくちゃはしゃいでも、次の日筋肉痛にならない身体の動かし方もあるよ"と気持ちもありまして。疲れてしまうライヴって、20代の頃は良くても、30代で少し懸念して、40代で行くのをやめてしまうように思うので、そう考えるとすごくもったいない。いつまでも踊っているためには、ダンスをストイックな筋トレではなく、生活の延長線上にあるものとして捉えることが重要で、そこに向かっていかにデザインしていくかというアプローチの一環として、あの動画を上げました。

-なるほど。

エチオピアではおじいちゃんもダンスを踊っていますし、本来踊ることは歩くことと同じくらい楽であるはずなんです。だけど、しなやかさを失うと疲れてしまう。踊り方は強要するものでもないですし、啓発するものでもないですけど、踊ることでしなやかさを身につけられれば、その発想自体を人生の考え方にも置き換えられると思うので。しなやかに踊ってもらうために、お客さんとどうコミュニケーションをとればいいのかと常に考えています。

-ライヴって観る側よりも演る側のほうが体力を使いそうなイメージがありますけど、その点に関してはいかがですか?

僕の場合は、少なくとも50~60歳くらいまでは今のようなパフォーマンスができる想定で体の作り方を勉強しています。筋力や体力で踊るのではなく、"柔軟性で踊る"というところに目をつけていますね。ライヴはワンマンだと2時間ぶっ通しなんですけど、実際、そんなに疲れていないんです。なので、今のところ、このまま続けていけそうだなと思いつつ、周りにいる40~50代のスタッフを見て"そんなに甘くないのかな?"と思いつつ(笑)。

-(笑)そこは実際に年を重ねてみないとわからないですよね。

そうなんです。もしかしたら自分が想像しているよりも大変かもしれませんが、今できる研究は欠かさずにやっています。

-では、ここからはシングルの話を。今回もとびきりのシングルで、"夏のLucky Kilimanjaroは間違いない"と思っているリスナーの期待に応えてくれるような内容で。

もうずっと夏の曲をリリースしてきていますから、最近は結構緊張しています。今年はどういうふうに夏を演出しようかなと。夏のプロデューサーみたいな(笑)。

-表題曲の「後光」はどのように生まれた曲ですか?

ツアーでみんなが踊っているのを見て、自分の心を解放して表現している人たちがダンス・ミュージックにおける主人公だと、改めて強く感じ、「後光」はそういった思いから出てきた曲ですね。

-今までは、前作に対する反動で新作を作ることが多かったと思いますが、今回はそうではなかったんですね。

そうですね。いつもだいたい"もっとこうできたな"という反動から次の作品に向かうことが多いんですけど、今回はツアーを回りながら作った曲ということもあり、出自が少し特殊というか、いつもとは違うモチベーションで作りました。本当に、お世辞抜きで楽しいツアーだったんです。自分たちの表現によって"踊らせた"というよりかは、お客さんが"踊った"ことですごいツアーになったという感覚があって。だから今のLucky Kilimanjaroにある文化に対する感謝というか、"みんなありがとね"、"この空気感でこれからもやってこうぜ"という曲になっています。

-このテーマで"後光"というモチーフが出てくるのが面白いですね。

ツアーでは毎公演、記録用に映像を録っていたんです。僕らのライヴでは逆光のように後ろからメンバーを照らすような照明演出がよくあるんですが、その場面を映像で観たときに"ステージ・ライトを当てられているのは僕だけど、本当の主人公はお客さんだよな"と思って。そこから着想を得ています。本来照明を当てられるべきなのは僕じゃなくてお客さん、Lucky Kilimanjaroはみんなの後光なんですという。

-夏フェス・シーズン真っ只中のリリースということで、夏らしく、踊れる曲になっていて。

ツアーは終わりますが、このあとフェスやイベントへの出演があり、さらにツアー([Lucky Kilimanjaro presents. TOUR "YAMAODORI 2023"])があるということで、やはり踊れる曲にしたいなと思いました。90~00年代のフィルター・ハウスと呼ばれるジャンルの楽曲で、夏の爽やかさ、気持ち良さがバンッ! と伝わることを大事にして作ったんですが、一方でサウンドや声の使い方はいろいろと工夫しています。シンプルな曲ですが、音楽に詳しい人ほど変な曲に聴こえるという作りになっています。