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INTERVIEW

Japanese

Lucky Kilimanjaro

2022年04月号掲載

Lucky Kilimanjaro

Member:熊木 幸丸(Vo)

Interviewer:石角 友香

一個一個はみんなが知ってる要素なんだけど、合わさると、全然知らないものができあがってるみたいなのが面白い


-「果てることないダンス」は、熊木さんがバンドをやることは楽しいけど、"これずっとやってるけど......"みたいなシリアスさもちょっと感じるんです。

好きなことを追い求めていくときに絶対壁があるんです。何かしら挫折や、"これもう意味ないかもな"みたいな感覚があるんですけど、いろいろこねくり回して最終的に辿り着いた地点で突然、"うわ! これだ!"みたいな瞬間があって。そういうのが好きでやってますし、根詰めて作ってます。別にそれは音楽に限らず、日常的な趣味でも。だからそれをダンス・ミュージックに乗せて歌うことで、みんながダンス・ミュージックの反復じゃないですけど、そんなふうに自分の目の前の課題とかをクリアしていく感覚を植えつけられたらいいなと思い作った曲です。

-挫折というか、産みの苦しみというか?

産みの苦しみとか、例えば出したあとも自分とちょっと違う捉え方をされるんだなとか、そういうところでも細かいショックだったり、ちょっと意気消沈しちゃうときだったりが間違いなくあるんですけど。それでも、ライヴでみんなと踊ってる瞬間っていうのは間違いなく自分の中で幸せな時間なんです。その時間のためにやってるなぁみたいな感覚です。

-歌詞の中に"体じゃなくこの反応こそが私だと"というパンチラインがあるので、これはフィジカルなことだけじゃない踊るということの意味なのかなと。

そのパンチラインは僕も気に入ってるんです。何か外的刺激を受けたときの反応自体が、その人の個性だなといった感覚があるんです。なので、どんどん反応を追い求めていかないといけないなという思いで書いてます。

-あとは今回、細かいネタですけど、ヴォーカルにエフェクトをかけているのか子供の声が多くて。

どの曲も、ヴォーカルをエフェクト的に使うっていうのは全体のサウンド・コンセプトにあって、いずれも僕の声を加工しているんです。そうすることで自分のタグづけじゃないですけど、自分の声の表現としてちゃんとみんなに届けるということを、ヴォーカル以外の表現でできるんじゃないかなと思って。僕自身が作ったもの、そういうオリジナリティの感覚として入れてますね。

-インディーR&Bのアーティストの作品にも多いですが、Frank Oceanを思い出しました。

Frank Oceanにはすごく影響を受けています。ああいう歌が上手い人がやる声のエフェクトの表現はちゃんとその人のものがあるのですが、そういうアーティストから間違いなく影響を受けています。

-世代感や"こういう音楽はこれぐらいの年齢の人が聴くものだろう"って境界が、広がる感じがするんですよね。

飛び越えたいと思ってますね。あくまで2022年の音楽を出したいと思ってますが、特定のリファレンス、影響だけじゃなくて、そういうのを取り入れて最終的に面白いJ-POPとして発表することにすごく興味がありますし。それがある種、ごった煮感というか(笑)、いろんなものが混じってる感になってると思うんですね。それを聴いた人がいろんな世界に行ける理由にもなってるのかなと考えています。

-そして、「週休8日」はなぜかセカンド・サマー・オヴ・ラヴ的なニュアンスを感じてしまいました(笑)。

(笑)なるほど。なんだろ? 伝えたいことがシンプルだったので、アレンジもシンプルにしていったらそうなりましたね。アルバムに結構ごった煮感がある中で、休息中じゃないけど、でも踊れるみたいな明るさがすごく気に入っています。

-休息というとそれこそイビサとか快楽的な感じがしますが、ここでは箱根に行ってますね。

なんか箱根なんですよね、休むって言ったら(笑)。伊豆でも鬼怒川でもなく。最近だと金沢とかおしゃれな感じですよね。でも休むって言ったら箱根だなって、なんかあるんです。そんな行ってるわけでもないですけど(笑)。

-個人的にすごく好きなのが「足りない夜にまかせて」なんですが、今、20代の方とかはオールで踊ったりしないんですかね。

今はこのご時世ですから。でもクラブとかではやっているんじゃないですかね。

-足りない夜っていうムードはどんな状況から出てきたんですか?

普通に毎日、特に何が悪いわけでもないですけど、前に進む推進力がない感じを"足りない"と表現しています。何か不足してるけど、何が不足してるかわからない状態みたいなところにハウス・ミュージックを流すことで、自分が"足りない夜"に対して新しい感覚を生み出せるんじゃないか、と書いた曲です。喉が渇いてるみたいな感じですかね。

-これがフロアだったら、もうちょっといたいとか、好きな曲かからないかな? とか。

そうです(笑)。2時ごろに"今日そんな楽しくない"といった感じ(笑)。このあとなんか起きないかなみたいなのも、"足りない"なんですよね。

-イマイチ面白くないと。でも再度スイッチが入るとか、カッコいい人を見つけたとか、場の雰囲気を感じるんですよ。

リアルタイムで"足りない"って感じている思いをそのままに、それと共鳴する音楽をちゃんと作りたいなと思って。なので、わりと刹那的な内容になるというか。Lucky Kilimanjaroは比較的、刹那的な歌詞は入れないんですけど、この曲はそういうワン・ナイトに対しての追求、刺激を求めてる感覚はすごくありますね。ダンス・ミュージックを知らない、ハウス・ミュージックを知らない人がそういう感覚に出会ってしまうことを曲にしています。

-いずれ世界でオールナイト・イベントができるようになるといいですね。

いいですね! 僕1回、キャンプ場とかで卓球(石野卓球/電気グルーヴ)さんのDJを聴いて最高でした。

-新しい自分に出会う感じがありますね。

そうなんです。あの感じなんなんでしょうね? 僕がやりたいダンス・ミュージックも、それをよりポップな形でどういうふうに出せるかっていうところで。そう、憧れていますね。

-そしてアルバムは一筋縄でいかない生活や前に進まない感覚もありながら、最終的には「人生踊れば丸儲け」に着地するという。最後はここにという意識ですか?

もともとインスパイアされたのはインド映画で、これまでのストーリーをまったく無視して、敵も味方も踊るみたいなエンディングが結構あるんですけど、そういうNo Thinkな感じというか(笑)、"とりあえずエンディングですから~"みたいな、吹っ切った感がすごく良くて。僕も今回のアルバムは最後、そういうのを残してみんなが踊る、"はい! エンディングです! あなたの番です"ってやることが必要だなと思ったんです。なので、明るい曲というか、突き抜けた曲を書こうと思って置いた曲です。

-曲順も含めしたたかになってきましたね。

(笑)自信がついてきたのかもしれないですね。自分がいろいろな活動をして、いろいろんな音楽を作るうえで、徐々に"こうしてやろう!"みたいなアイディアが、エグくなってきたというか(笑)、いい意味でも悪い意味でもアクが出始めてる、そういう感じです。

-1曲目と対になってる感じもしますね。

そういうループ感をアルバムでも作りたいなと思っていて。聴き終わったあとに、自分の何かをして、またこのアルバムに戻ってきてみたいな、そのルーティンのひとつにするような感じです。

-さらに、「I'm NOT Dead」のインストを聴きながらこのアルバムの主人公が存在している「プレイ」がラストにありますね。

最終的には聴いてくれた人に、"じゃあこのあと、何しますか?"というところがすごく大事だと思っていて。iPhoneのボイスメモで録ったサウンドをそのまま入れてもらっているんですけど、そういうところに僕がプレイ=遊んでる、再生してる、文字を変えた"祈る"という感覚も含めているんです。聴いた人がそのリアリティをそのまま感じて、"よし! これからやるぞ"と思ってもらえればいいなと考えて、こういう終わり方にしています。

-感じられるリファレンスは深いもので、国も雑多だけど、ポップネスがある感じです。

メッセージはシンプルに、でも深く潜ろうと思えばどこまでも潜れるような作品が面白いと考えています。そこを大事にしているので、だいぶごった返してるけど、聴いたあとの感想は意外にシンプルというか、そういうものを目指して作っています。一個一個はみんなが知ってる要素なんだけど、合わさると全然知らないものができあがってるみたいなのが面白いし。今の僕のアレンジの面白いところですかね。

-ジャケットのアートワークがある意味わかりやすいですよね。

かっこいいですよね。これは壺にパンチをするっていう、アーティストの宮下(サトシ)さんの作品を見て、今回のアルバムにぴったりじゃないかと感じたんです。こういう自分の好きを追求して、いろんなダメージがあるけど割れないぞ、みたいな感じ(笑)。でもハードな、しかも金継ぎで文字書くってめちゃくちゃカッコいいと思って。

-タイトルの"TOUGH PLAY"の意味もバスケとかスポーツでいうところの?

あ、ラフ・プレーみたいのをもじってて。そういうのがちょっとかわいいかなと思ったんです。でもメインはタフに生きるみたいなところで、"TOUGH"って単語なんです。"TOUGH"ってざっくり言うと"強い"ですけど、でも"STRONG"だと逆に殴ってる側だよなという発想もあって。そうじゃなくて今回は自分の"好き"を守る、防御的なところだなと考え、"TOUGH"って単語を選んでいます。TOUGHに遊ぶと、TOUGHに音楽を再生する、TOUGHに祈る、みたいな感じですね。

-5月から始まるツアー([Lucky Kilimanjaro presents.TOUR"TOUGH PLAY"])に関する展望は今のところどうですか?

みなさんに今まで観てもらったLucky Kilimanjaroの踊れる感じ、祝祭感、何かカタルシスを得られる感じをよりたくさんの、広い人に伝えられるようにしつつ、コロナ禍でこういう状況になって、今『TOUGH PLAY』を出して、2022年のタイミングでちゃんとみんなの物語を回せるように、『TOUGH PLAY』の曲も過去の曲も含めて、いいセットを作っていこうと思います。よりきついマラソンをお客さんに強いてしまうかもしれないです(笑)。