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INTERVIEW

Japanese

そこに鳴る

2020年10月号掲載

そこに鳴る

Member:鈴木 重厚(Gt/Vo) 藤原 美咲(Ba/Vo)

Interviewer:山口 智男

タイトルが"超越"とは、まさに言い得て妙。デビューから5年、そこに鳴るがついにリリースする1stフル・アルバムは、これまでリリースしてきた作品をすべて凌駕するものとなった。超絶テクニカル・サウンドはもちろん、シーケンスも使いながら曲調の幅広さを追求した曲作りもさらに磨きを掛けたうえで、全9曲約30分にぎゅっと凝縮。結果、『超越』は超濃密な作品に。しかし、メンバーたちはそれが当たり前だと言うように、いたって冷静なのだから頼もしい。


それがどーんと広まるタイミングじゃないとフル・アルバムという言葉は使いたくなかったので、溜めに溜めていました


-デビューから5年。ついに1stフル・アルバム『超越』をリリースする心境から、まず教えていただけますか?

鈴木:ついにリリースします。ミニ・アルバム何枚出したかな。5枚でしたっけ。なんなら遅いぐらいかもしれない。でも、それがどーんと広まるタイミングじゃないと、フル・アルバムという言葉は使いたくなかったんです。1stフル・アルバムをリリースしてドカーンってなってほしいっていうのがあったので、溜めに溜めていました。

-例えば、どういう状況になったらリリースしてもいいと考えていたんですか?

鈴木:まずは、バンドの方向性が定まることでしたね。序盤は、わりといろいろなことに手を出していたので。だから、『ゼロ』(2018年リリースの4thミニ・アルバム)、『一閃』(2019年リリースの5thミニ・アルバム)と出して、そのあとフル・アルバムって考えていたんですけど、EP(2019年11月リリースの『complicated system』)を挟んだので、このタイミングになりました。

-『超越』、とても聴き応えがありました。こんなことを言うと気分を害されるかもしれませんが、最初資料を貰ったとき、正直フル・アルバムなのに全9曲かと思ったんですよ。

鈴木&藤原:はははは(笑)。

-しかも、収録時間も30分ちょっとっていう。

鈴木:たしかにフル・アルバムと言うには、ですね。

-だから、最初物足りないんじゃないかなと思ったのですが、聴いたらすごく内容が濃かったので、全9曲ってちょうどいいと思いました。

鈴木:よかった。

-この濃さで、あともう2、3曲入っていて40分とか50分とかになっていたら、それはそれですごいかもしれないですけど......。

鈴木:味が濃いと胃もたれしますからね。

-そうそう。トゥー・マッチで1回聴いたらしばらくいいかなってなっちゃうかもしれない。でも、『超越』は何回も聴ける。それも含め、すごく良かったです。音を貰ってからずっと繰り返し聴いています。

鈴木:ありがとうございます。嬉しいです。

-曲作りはフル・アルバムとしてリリースすることを前提にしていたと思うのですが、いつ頃始めたのでしょうか?

鈴木:8曲目の「white for」が最初にできたんですよ。J-POPみたいな曲が。フル・アルバムだったら遊べるなと思って作ったんです。ミニ・アルバムの場合、バンドの芯からあんまり逸れられないというか、できるだけド真ん中、ストレートに近いものを投げないとって考えちゃうんですけど、フル・アルバムだったらもうチェンジアップでもシンカーでもいい。遊べるぞって感覚で作ったのがその曲でした。

-いきなり変化球の曲ができたと。

鈴木:そこに鳴るにとっての変化球ではあるんですけど。そしたら、そこでぴたっと曲作りが止まってしまって。結局、ばーっと作り始めたのいつぐらいだったっけ? 直前だった?

藤原:レコーディングの直前だった。

-その「white for」は聴き手を限定しない、間口の広いラヴ・ソングという意味で変化球だと思うのですが、作るとき、どんな曲をイメージしていたんですか?

鈴木:藤原がメイン・ヴォーカルの曲を作ろうっていうのがまずありました。彼女が1曲通して丸々メインっていうのは、『YAMINABE』(2016年リリースの2ndミニ・アルバム)の「もう二度と戻れないあの頃に」以来なかったので。そこから藤原が歌ってハマる歌詞を考えていったら、こうなりました。僕の中の藤原のイメージと思ってもらったらいいかもしれないです。失恋したとき、心がどう反応するか、その反応が書けている気がします。

-あぁ、藤原さんの。

藤原:歌詞を読んだときに、よくわかると思ったから、なるほどそういうことなんやと合点がいきました。

-J-POPとしても通用する曲を作ろうという狙いは?

鈴木:全然なかったです。なんなら、「極限は刹那」のほうが、間口が広いと僕は思っているんですよ。ラーメン食うならバチクソ味濃いやつのほうがキャッチーやんって感覚なので、"サッポロ一番"よりも"二郎(ラーメン二郎)"やろっていう......。そういうことをいったん抜きにして、曲を作る人間としてこういう曲も作ってみたいってところで、一般論的な間口の広い曲もっていうのはあったと思います。

-「white for」を最初に聴いたとき、藤原さんはどんなふうに思いましたか?

藤原:すごくいい曲やなというのが第一印象で、ものにしてやろうというか......自分なりに最大限に仕上げようと思いました。

-ただ、その曲ができたところで、曲作りがいったん止まってしまったと。なぜ止まってしまったんでしょうか?

鈴木:なんでやろ? 「Lament Moment」とか、「極限は刹那」とかのきっかけみたいなものはできていたんですけど、そこからどう広げていいかわからんってなりました。思い返すと、人生の中で一番スランプだったかもしれないです。今、わりとスルスルと作れるんですよ。

-スランプを抜け出すきっかけって何かあったんですか?

鈴木:いや、単純に曲作りに使える時間が増えただけかもしれないです。

-なーんだ、スランプっていうか――

藤原:忙しかっただけっていう(笑)。

鈴木:アーティスティックに言ったけど、めっちゃ現実的な問題でしたね(笑)。そこから1回レールに乗ったら、スススってなりました。3日に1曲ぐらいのペースで送っていたと思います。

藤原:うん、すごいペースでした。

-送るというのは、アレンジを全部打ち込んだ状態なんですよね?

鈴木:そうです。ドラム、ベース、ギターを入れて、メロディも鍵盤で入れて。