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INTERVIEW

Japanese

ビッケブランカ

2019年06月号掲載

ビッケブランカ

Interviewer:吉羽 さおり Photo by 結城 さやか

-アレンジということでは、今回は「ウララ」(2018年4月リリースのメジャー1stシングル表題曲)のアコースティック・バージョンが収録されましたが、これが普通にアコースティックへと落とし込んだものではない、大胆なアレンジにもなっていて、リミックス的な感覚になっていますね。

ここでは新しい歌詞が一瞬入ったりとか、サビ部分を入れ替えたりとか、いろんな組み替えをしてより価値のあるものにしようとしましたね。僕は、曲を違うバージョンにアレンジするのが好きなんですよ。もともとある曲のヴォーカル・データと基本的な楽器データを抜いて、それを違うものに組み替えるとかが好きで、リミックスを結構自分でやるんです。昨年リリースしたシングル曲「夏の夢」も、同じシングル(『夏の夢/WALK』)内で「夏の夢 (cold water remix)」というリミックスもやったし、ミニ・アルバム『Slave of Love』(2016年リリース)でもレコード店の特典として自分で収録曲の弾き語り音源を作って。その一環で、今回はアコースティック・バージョンで作ってみようかなというのがあったんです。これに関しては、次のアルバムでエレクトロ、EDMっぽい雰囲気のものを入れたいなと思っているので、そのときのためのアイディアを使わずにとっておきたいんですよね。アコースティックの方はしばらく作っていないから、それをやってみたというところでした。

-曲のムードは壊さずにアコースティック曲としての面白さが出ている。でも、リミックスをするのって、自分の曲だからこそいじりにくい、客観視しにくいというのはありそうですけど。

全然そういうのはないんですよね。自分の好きな形にしているだけなんです。そんなにこねくり回してはいないというか。あとは、本チャンじゃないしリミックスですから。自分の実験的な場でもある感覚だから何も苦悩しないんですよね。

-そうやってできた曲を自分で分解して再構築、再解釈していく過程で、新しいアイディアが湧いたり次に繋がるものが出てきたりすることも多いんですかね。

これは自分では良くないなと思っているんですけど、曲を作るときに、これがリミックスだったらこうなるのかなとか、たまーに頭をよぎるときもあるんです。本来まだそれは考えるべき段階ではないと思うんですけどね。でもそういう作業が楽しいからこそ、いろいろと浮かんでしまうものなのかなと。

-とことん試したくなるのは、やっぱり凝り性ゆえなのかもしれないですね。

そうですね。今や自分のパソコンまで作り始めてますから。音楽を0から1にする、その機械を0から1で作るという。それが楽しくて楽しくてしょうがないんですよね。大変ですけど。

-そういうふうに制作環境では、機材をどんどんアップデートするわけじゃないですか。それとは違ったもうちょっとアナログな部分で、例えば、日常の中での閃き、楽器を弾いていたらポンと歌ができたみたいなものは、どうなんでしょう。

アイディアがアナログ的に浮かぶっていうのは、しょっちゅうあることではないですよね。今回の「Ca Va?」とかは、パリでの旅のことがそれに近いと思うんですけど、他ではほとんどないんですよ。作ろうと思って、どうしようかなって俯いて作るみたいな感覚に近いので、あまり"降りてきた!"っていうことはないんですよね。レコーディングをするときに家でデモを作るんですけど、今は多くの人がMIDIというシステムを使ってギターやベース、ドラムも機械で打ち込んで音を出していて、ちょっとキーが低いなとか思ったらワンタッチでキーの上げ下げもできるんです。ここでミスタッチしたなと思ったらピピッと調整できるらしいんですよ。でも僕は、そういうのをやってないんです。

-そこは違うんですか。

すごく古い、オーディオ録音で。ギターだったらギターそのものを繋いで弾いてデモを録るんです。だから何回も録り直すんですよね。あとからちょっと直したいときもイチからまた録らないといけないという。そこのめんどくさい意味でのアナログ感は、どうしても残っちゃってるんですよね。機械で全部作っちゃうとどうしても熱くなれないんですよ。自分で演奏して作らないとグッとこなくて。そこはめんどくさいけど、アナログに留まっているという感じなんです。

-そこは人力でありたいんですね。

慣れちゃってるのもあると思うんですけどね。機械ではギターのノリや、ピアノの雰囲気や響きのニュアンスが出ないんですよ。たぶん僕が、機械だけで作ったものには何も感じないんでしょうね。

-そうだったんですね。そして、もう1曲の「Lucky Ending」は、TVアニメ"フルーツバスケット"のエンディング・テーマでもありますが、こちらは作品ありきで書き下ろした曲ですか?

これはエンディング曲を書いてくださいとオファーをいただいて書いた曲ですね。もともと作品を知っていたんです。超名作ですよ。読んでないですか? 読んだ方がいいですよ! "フルーツバスケット"は少女漫画の域を出ているんです。僕にとっては、話の壮大さから伏線回収も含めて日本の"ハリー・ポッター"なんですよ。心の機微をより描いているということでは、"ハリー・ポッター"超えですね。本当にそのくらいの名作なんですよ。

-それだけに曲の依頼があったときは、"これはきたぞ"と。

"僕どこかで好きだって話したっけな?"と思いましたもん。だから書くときも、あの話のあの瞬間とか、あいつがああなっちゃうときとかが──

-容易に思い浮かぶわけですね。

"フィクションなのにこんなに悲しいことがあるのか"と子供ながらに衝撃を受けたことがあったので、そういう思いも含めて。あとは作品のメッセージというのもわかるので。それを踏まえて歌詞も書けましたね。


とっ散らかったもの一個一個が常に最高水準であれというところだけに、責任を持っている


-今また制作モードでもあると思うんですが、今個人的にこういうのがきてる、こういうのを面白いと思っているなど、試していることはありますか?

めっちゃ速いテンポのドラムンベースっぽい感じというのかな。そういうビートがかっこいいなと思ってるんですよ。まだ機械には落としてないんですけど、頭の中でやってる感じですかね。EDMとかだと最近より緩くなってきているムーヴメントもあるし。でも車の中では、ABBAを聴くのが一番楽しいし。ABBAの「Money, Money, Money」が言ってることも作りもすごいんですよ。キャッチーさの権化みたいな曲なので、あのくらいのものが作れたらいいなとか、こんなの作りたいなっていうのは、いろいろありますね。

-ちょっと聞いただけでも年代もジャンルもテイストもバラバラで、なんというかすごく広い宇宙から何かを拾ってくる感じですね。

なんでもありっていうのは、楽でいいですよね。

-枠がないゆえの難しさもありそうですけど。でもその"ビッケブランカはなんでもありだ"っていうのは、自分自身で作り上げてきたところでもありますね。

いろんなことをやる、そうやらなきゃ保てないっていうのはあるんですよね。同じ曲ばかり作ると飽きるんですよ。自分で自分のアルバムを聴いて一瞬で飽きてしまうのは、自分を恥じることになるから、1曲でも同じような感じの曲をやるのが嫌で。退屈だからいろんなことをやりたいんだけど、全部が生半可にならないようにしています。中途半端にヒップホップしたり、中途半端に80年代風にしたりするなら、ひとつに絞れとか言われないように。とっ散らかったもの一個一個が常に最高水準であれというところだけに、責任を持っていますね。