Japanese
0.8秒と衝撃。
2015年08月号掲載
Member:塔山 忠臣(最高少年。) J.M.(唄とラウド。)
Interviewer:天野 史彬
-メランコリックな世界観っていうのは、それこそ1stアルバムの『Zoo&LENNON』(2009年リリース)のころにも強くあった要素だと思うんですけど、今回、ギターで描くメロディを前面に押し出すことで、メランコリック且つダークな世界観を構築しようとしたのは、ここ数作のフル・アルバムが、ビートを前面に押し出した攻撃的な作品だったことに対する反動もあったと思います?
塔山:いや、そこは別物っていう感じですね。今、やりたいことをやるだけっていう。今までが攻撃的で、ライヴも攻撃的で、お客さんもそこを求めてるからっていうのも特に考えてないですから。ただ、いいと思うものを作るだけで。そもそも、俺らの中では今までとはそんなに離れてないんですよね。
J.M.:そうそう。激しいことをやってきて、それが嫌になったから今作があるっていう感じではなくて、ひとつの側面として、こういう要素もあるっていう。その時期によって、自分たちにとって楽しいことをやるだけなんですよね。あと私は、このアルバムを作ることで、音楽をやることに今までとは違う楽しさを見出したっていう部分はあるかもしれないです。やっぱりチャレンジするのが楽しいから。今までと作りを変えたから、じゃあ、自分はどうやってこの音楽を完成させていくのかっていう、その工程で自分が成長できるわけじゃないですか。自分が描いている世界にどう近づけていくのかっていう。限られた時間の中で、まだ見たことのないものを作るために的確にものを動かしていくっていう行為が、今回は今までと全然違ったんです。今までは、着地点に着地できるっていう自信もあったんだけど、この作品は自分にとって、他のアーティストさんの作品でもあまり見たことのない世界観を描こうとしたし、チャレンジの作品だったから。自分の見てる場所にどれだけ持って行けるかっていう、それは自分自身と対峙することもそうだし、エンジニアさんともそうだし、塔山さんともそうだし。それぞれの関係の中で、鍛錬を重ねる感じというか。それが1番楽しかったかなぁ。
-自分の描きたい世界を描くための、そのやり方を探っていく中での鍛錬が必要だったっていうことですかね?
J.M.:そう、やり方かな。正解は自分でわかってるんだけど、その正解に持って行くやり方を探る感じというか。時間をかければいくらでもできるんだけど、でも限度がある中で的確な方法を探すっていう意味で、自分の中では勉強になったかなぁ。普段そういう感じではなくても、音楽に対しては誠実になるわけじゃないですか。それが楽しいんですよね。たとえばTHE HORRORSみたいなバンドって、意志が1本通っているじゃないですか。ものすごく大衆性があるわけではないけど、強い意志が通ってる。そういう音楽って、的が広いわけじゃないけど、それを好きな人は確実にいるわけで。そういう"自分はこうだ"って意志を強く持っているものには惹かれますね、最近。
塔山:ハチゲキのファンが100人いたとしたら、その中の85~90人くらいは聴いて絶対に"ハチゲキっぽくていい"って言ってくれる、そういうものを作るんじゃなくて、1回、そいつらのこと全部ナシにしてもいいぐらいの覚悟で作って、でも、そのうえで"すげーいいやん"って思わせるものを作りたいというか。やっぱり、自分たちが未知なる場所に行ってすごいものを見つけてこないと、人をそこに導くことはできないと思うんですよ。もっと軽い意味でとか、お仕事としてなら違うでしょうけど、僕らがやってることは、言うなれば芸術発表ですから。自分たちがカッコいいと思うことをやらないと、自信を持って人に紹介できないし、ファンやメンバーと一緒にもやれないですしね。
-ただ、そうやって自分たちの芯を持ちながら、毎回、方法論を更新しつつ美意識を追求していくやり方を今の日本の音楽シーンでやり続けていくことって、すごく難しくなっていると思うんですよ。
塔山:特に今はそうですよね。CD売れないですし。だから、そういう場所でこのアルバムを聴かせていくのは、すごく大変なことではあると思うんです。でもやっぱり、聴いてくれた人には響く内容にはなっていると思うので。そこをまずは、ひとりでも多くの人に聴いてもらいたいなっていうのはありますね。
-それこそ今年の夏はフェスにも出演されますけど、大きな場所で『破壊POP』のような、聴き手を深いところに引きずり込む作品を届けていくことに関して、トライアルしていかなければいけない部分もありますよね。
塔山:うん。ただ、曲の構造自体はエネルギッシュだから、セットリストの中で今までの曲と一緒にやってもしっくりくる部分もあるし、そこまで肩肘を張っているわけではないんですけどね。それこそBob Dylanの名言じゃないですけど、"やるべきことをやるだけ"なんですよ。ライヴも、誰が観に来ようがどんな大きなイベントだろうが、自分たちがダメならダメなので。それで終わるなら、俺は終わっていいと思ってるんですね。ただ、音楽をやってる意味がなくなるような考え方をすることだけは、俺は無理なんですよ。例えば、"○○っぽい"みたいな評価をされるものって、お客さんからしたら安心できると思うんですよ。俺たちミュージシャンでも"○○っぽくていいね"って言いますからね。受け入れやすいというか。でも、そういう、車でBGMを流していて1番イライラしないようなものって、結局ちゃんと聴いたらくだらない音楽だったりするんですよ。
-うん、わかります。
塔山:もちろん、そういう要素って大衆的なポップ・ミュージックには必要なんだろうと思うんですね。BGMになれるような要素がないと多くは受け入れられない。別にそれが正しいとか悪いとか言うつもりはないですけど、でも俺にはそれはできないので。結局、自分がカッコいいと思うことしかできないから、それをやり切りたいっていうだけなんです。それこそ、さっきのエコバニの話じゃないですけど、今の僕らも、シーンでどうのこうのっていう思いは、正直あんまりないですから。自分たちがいるところは違うと思ってるから。もちろん、少しでも広めていきたいっていう気持ちはありますし、野心もあるし、会場を大きくしていきたいっていう思いはありますよ。でも、それだけじゃないところもあるんですよ。それを上手く表現できるバンドになりたいなって思いますね。ちゃんと筋が通ってるなって思ってもらえるバンドになりたい。
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