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INTERVIEW

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Lucky Kilimanjaro

 

Lucky Kilimanjaro

Member:熊木 幸丸(Vo) Interviewer:蜂須賀 ちなみ

-『Soul Friendly』は「LIGHTHOUSE」、「フロリアス」という最初の2曲を聴きながら、心や身体が解されていく感覚がありました。

コンセプトを分けて2作作ったことで、心と身体は紙一重だと改めて思いました。いくらパワフルに踊ろうとしても、心がしっかりと癒えていないと、"踊る"という行為が攻撃的な行為として発生してしまう気がして。ダンス・ミュージックの基本はラヴだから、それは違うなと。『Soul Friendly』はそういう考えをベースに作っています。1曲目の「LIGHTHOUSE」は、人と繋がること、それをきっかけに人の心が少し解れていく感覚について書いた曲ですね。「LIGHTHOUSE」で書いたことは、ダンス・ミュージックの鳴る場で実際に起きていることですし、僕が信じていることでもある。メッセージとしては"みんなの人生が、ダンス・ミュージックによって一緒に動いている"、"一緒なんだよ"という感じです。

-そのメッセージはすごく伝わってきました。

「フロリアス」はまあ、風呂の話......(笑)。僕の思う心がヤバい状態のまま癒えない理由って、"食べてなさすぎ、寝てなさすぎ、SNSやりすぎ、風呂入らなすぎ"なんですよ。

-分かります。シャワーだけで済ませる日が続くと肩が凝ったり、イライラしやすくなったり。

疲れが続いてしまう感じがありますよね。24時間×2じゃなくて、48時間を生きている感覚になってしまう。風呂に入るという動作をするだけで、その流れが一度リセットされるんですよ。これをやるだけで人はだいぶマシになります。僕も時間がない日でも、湯船にはしっかりと入るようにしてます。なんか、みんな日常をもっと当たり前にやっていいと思うんですよ。そう思いながら書いた、とにかく風呂に入ってほしいという曲ですね。

-先程「LIGHTHOUSE」について"人と繋がる"、"それをきっかけに人の心が少し解れていく"とおっしゃっていましたが、それはEP全体を貫くテーマでもあるなと思いました。一方、今って、"個人をいかに強くするか"という視点からのメッセージを見かける機会が多い気がするんですよ。

分かります。僕も"私をどうするか"、"個の能力をいかに作っていくか"という能力主義的な話が多いなと感じていて。特に音楽周りで、そういう歌詞が増えたように思います。人間は置かれている環境で変わると思うんです。"自分"というものは、他の人との関係性の中でふわっと出てくるだけ。それなのに個を過信して、自分を組み立てることから始めてしまうから、合わない場所ばかりが増えていく。だから"自分を降りる"という時間や、他の人と一緒に過ごすことで初めて自分が表れるという感覚がもっと必要だと、僕は思うんですよね。

-自分を降りる。なるほど。

"個をどう構成するか"、"どう承認してもらうか"というスタイルで生きていると、マイナスを減らそうという考え方になってしまい、つらい作業が続く。そうではなくて、全体の中にいる自分が、人に何を与えられるかという考え方になると、もっと普通に"じゃあ挨拶しようかな"、"ちょっとお土産を渡してみよう"という方向になっていくのではないかと。だから僕は、自分を降りてもらうことが必要だなと思っています。Lucky Kilimanjaroの音楽を聴いている時間を、そういう時間にできるか。それが『Dancers Friendly』、『Soul Friendly』のテーマの1つでした。ただ、能力主義や個人主義になってしまう何かしらの理由、傷があると思うんですよ。

-そうですね。最終的には社会や政治の在り方に行き着く話だと思います。

個人主義、能力主義自体を否定するというよりかは、"なぜそうなってしまったのか"という手前の話をする必要がありますし、そうなってしまう現状をなんとかしなければいけない。行政も含めて解消する動きが必要だろうと思っていますが、僕個人としては少なくとも自分の音楽で、自分を降りられる場所や、"あぁ、みんな繋がっているんだな"、"支え合っているんだな"という感覚を作れたらと思っています。

-今のお話は、ダンス・ミュージックの鳴る場所、Lucky Kilimanjaroのライヴのフロアとも通ずる気がします。一人一人好きに踊りつつも、みんなで一緒にいるからこその幸福を感じられる場所。

そうですね。ライヴ中、"私の踊りは変じゃないかな?"と気にしてしまう瞬間が生まれるとすごくもったいないですし、全然面白くない。もっと愛のある時間を作りたいと思っています。社会の空気や国民性もあって、今、それがすごく難しくなってきていると思うんですよ。......いや、難しいのは昔からか。ダンス・ミュージックは本来こういう音楽であると、丁寧に、長いスパンで伝えていくことを、Lucky Kilimanjaroはやっていかなくてはいけないと思っています。

-たしかに時間がかかりそうですよね。やってもやっても終わらない感覚はありませんか?

社会問題ってだいたいそうではないかなと思っています。何かを少しやれば解決するなんてことはないですけど、解決できるかどうか以前に、アクションすることが非常に大事だと僕は思っているので。そのアクションが何かを少しずつ変えていくきっかけになると思いますし、僕が変えられなくても、もしかしたら次の人が変えられるかもしれない。それに、もっと単純に、"俺の思うダンス・ミュージックはこれなんだよね"と思うからやっているという節もあります。義務感はなくて、あくまで楽しいからやっている。

-「コーヒー・セイブス・ミー」の"踊り方を間違えても/なりたいものに届かなくても/まるごと愛してくれる"という歌詞に、今日話していただいたことが集約されているなと。EPの終盤に来るこのフレーズ、かなり沁みました。

その人がどんな能力を持っているのかは関係なく、その人の存在を承認できる状態が愛だと思うんですよ。コーヒーを差し入れるのは相手の能力が高いからではなく、"ちょっと休んだほうがいいんじゃないんですか"という気遣いからだと思うので、その行為って、本質的な愛に近いのではないかと。すごく軽い動作ですけど、実はその行為が社会を非常に支えている。

-挨拶とかもそうですよね。

そうですね。コンビニでバイトをしていたから分かるんですけど、挨拶をしてくれる人や"ありがとうございます"と言ってくれる人は本当に最高です。"あぁ、自分の仕事をちゃんとリスペクトしてくれるんだな"ということがふわっと、言語化しなくても認識できる感覚というか。そういう連鎖が起きたら社会はもっと良くなると思いますし、僕も自分から少し何かをあげたりしたい。20代の頃は、そういうことが全然できていなかったんですよ。芸術家という仕事は自分の能力との戦いでもあるから、能力主義になりやすいと思いますけど、当時の自分もそういう面が強くて。誰かに何かをしてあげたり、他の人を気に掛けたりすることを恥ずかしいなと思っていました。だけど30代になって、結婚して、周りのスタッフに支えられて......というなかで"あぁ、違うな"、"自分たちは、最終的に繋がることを求めているんだ"と思うようになりました。そう気付けたからこそ、ようやくこの『Dancers Friendly』、『Soul Friendly』が書けているのかなと思います。

-11月17日から[Lucky Kilimanjaro presents. TOUR "YAMAODORI 2024 to 2025"]が始まります。『Dancers Friendly』、『Soul Friendly』収録曲で、ライヴでどうなるか想像が付かない曲はありますか?

『Dancers Friendly』は踊ってもらうために作った曲ばかりなので、"何が起きるか分からない"という曲はあまりないですね。強いて言えば「Find you in the dark」。クラブに通っている人は踊り慣れた曲調だと思いますけど、ドラムンベースの文脈の音楽は今の日本のポップスには少ないので、それがどう作用するのか。今は心配に近いですけど、曲の持つパワーで乗り切りたいです。『Soul Friendly』は全曲想像できないですね。僕の真意、メッセージの質感がしっかりと伝わった状態で踊ってもらえるだろうかと。それはもしかしたら、次の"YAMAODORI"([Lucky Kilimanjaro presents. TOUR "YAMAODORI 2024 to 2025"])だけでは達成できないかもしれない。『Soul Friendly』的な概念を歌い続けて、表現し続けて、ライヴの場で喜びとして感じ続けることで、ようやく浸透していくのかなと思っています。

-昨日もスタジオに入っていたそうですね。

セットリストはある程度組み終わって、ゆっくり調整している最中です。すごくいいアレンジができているので、お客さんにどう受け取っていただけるかが楽しみでもあり、ドキドキでもあります。2023~2024年は、"パワフルに踊る"という面を強調したライヴをしてきました。コロナ禍による制限がなくなったし、"ダンス・ミュージックはまずは踊ることが大事"ということで、しっかりと踊れるような曲を作って、リリースをしたり。シングル『後光』(2023年リリース)のカップリングである「でんでん」のようなマッシヴな曲をセットに入れ込んだり。そういうアクションをしてきたこの2年間で、"あぁ、みんなちゃんと踊れるんだな"と分かった。だからこそ『Dancers Friendly』、『Soul Friendly』をやれそうだと思った、という流れだった気がします。ただパワーで踊るだけではなくて、『Soul Friendly』の愛のイメージも、Lucky Kilimanjaroの音楽としてしっかりと受け取ってもらえるだろうと。今は『Soul Friendly』的な楽曲をベースにした上で、『Dancers Friendly』的な楽曲をいかに構成していくかということを一番やってみたい。そうしてLucky Kilimanjaroの本質を作っていきたいと思っています。

-愛のイメージがフロアに浸透することで、マッシヴな曲での踊り方、身体の動かし方も一人一人の中で変わってくるだろうし。

そうですね。先程申し上げた通り、『Dancers Friendly』と『Soul Friendly』は僕の中では紙一重で、『Soul Friendly』的な心を持って『Dancers Friendly』で踊ることもできると思っています。逆もそう。そこでようやくダンスの真意が伝わる気がする。[Lucky Kilimanjaro presents. TOUR "YAMAODORI 2024 to 2025"]は、次の10年みんなにどう踊ってもらうかを見据えながら、2つの面をまとめ上げていくツアーになるのかなと。まぁ、これは作る側の話なので、楽しむ側の皆さんに対して伝えたいのは、"ひたすら踊ってほしい"、本当にそれだけですね。