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INTERVIEW

Japanese

FINLANDS

2023年05月号掲載

FINLANDS

Member:塩入 冬湖(Vo/Gt)

Interviewer:石角 友香

満足してないってことが一貫して、FINLANDSにはあるんだろうなぁって思いました


-それは再録したからこそかもしれないですね。そして「リピート」は本当に同じコード進行の循環で。

そうですね。かなりループしてますね(笑)。

-この反復は生きることと重なる感じがします。

繰り返していたいって思い続けるし、結局繰り返しているし、でも繰り返していない部分もあるからこそ、繰り返したいって願うんだろうなっていうか、その歯車の合わなさ、自分の願いと現状とのちぐはぐさみたいなものにたぶん苛まれていて。なんでこんなに幸せなのに寂しいと思うのかとか、なんで寂しいと思うのにそれを求めるのかとか、そういう交わらないものに対しての不毛さみたいなもの? そういうのを繰り返してきっと生きていくんだろうなっていうのを当時も思ってましたし、今も思ってるし、それがネガティヴな面だけではないなってそのときも思ってたし、今も一応思ってはいるんですけど。でもそれってたぶん誰も解消できることではないし、これから先、生きてくなかでも何度もきっとぶち当たるものだと思うんですよね。でもそれにちゃんと疑問を抱けるとか、それにちゃんと息苦しさを感じられるっていうのはきちんと前に進もうとしている証拠だなと思うので、そういう意味でリピートっていうのはリピートではないんだろうなって、今説明するとしたらそういう言葉なんだろうなと思いますね。

-それは塩入さんの作品全体に通じるというか、同じところとか同じ感覚ではいられないし、い続けると何かが腐るみたいな思いは常に感じます。

やっぱり何が起きたって誰といたって何をしてたって、私は満足しないんだろうなと思ってて。良くも悪くもなんですけど。まぁ、この満足しきれないっていうところが特にFINLANDSを成り立たせてるというか、FINLANDSの曲を成り立たせているかなっていう。100パーセントの満足を手に入れたらきっと「リピート」を作ったときに考えていたような不毛さとか、憤りなんて感じないだろうし。その満足してないってことが一貫してFINLANDSにはあるんだろうなぁって、さっき思いました。

-自分がこうなんじゃないか? と思ってたところに辿り着いた瞬間に色褪せるって、いっぱいあるじゃないですか。

うん。ありますね。遠くから見てるうちはそれが欲しくなるし、それに手を伸ばして頑張って自分のもの、自分の状況にしたときに、"あ、そうなってみたら今度はこれが欲しいな、あれが欲しいな、これはいらなかったな"とかそういうことの繰り返しなんだと思うんですよね。

-まさに。そしてTHE VITRIOL時代の「April」は、若いときにこんな普遍的な名曲を書いてらっしゃったんだなと思いました。

ありがとうございます。これも19、20歳のときに作った曲だったんですけど、ちょうど『FLASH』を作ったぐらいのときに20代の頃から仲のいい友達の結婚式に呼んでもらって、"1曲歌ってほしい"、"「April」歌ってよ"って言われて。10何年経ってもいい曲だって言ってくれる人が、まだ昔の曲聴いてくれてる人がいるんだなって思ったときにRe RECアルバムの構成も考えてたので、「April」をもう一度今のメンバーでやってみるっていうのも素敵なことなのかもしれないなっていうところで、やろうって思ったんですよね。

-"どこよりも早く/二人の街だけ桜が咲いた"っていうのは比喩だとしても事実だとしても鮮やかですね。

たしか本当にあったことだったと思うんですけどね。その当時付き合ってた恋人が冬ぐらいに上京してきたんです。今考えればめちゃくちゃ近所にただ引っ越しただけなんですけど、私にとっては一大事に思えて。で、もう別れようって話をして、何度か一緒に歩いてたときにちょうど桜の季節で、"今年はすごい桜が早いな"と思って作った曲だったので、その中に入ってる言葉たちって、すべてが目に見たものを自分の中で咀嚼して作り出したもので。ケミカルではないというか、すごいストレートであり現実味のある歌だなと今聴いても思います。

-そしてラストに新曲である「SHUTTLE」が入っているわけですが、これは最近のFINLANDSの楽曲ともまたちょっと感じが違うのかなと。

そうですね。1曲だけ新曲入れようかなって思っていたんですけど、いろんな曲を作っても全然しっくり来なくて。何曲か作って、でも全然しっくり来ないなと思ってるなかで突然できたのがその「SHUTTLE」のサビだったんです。サビの歌詞丸ごとできて。ちょうどその時期にTHE VITRIOLの時代の音源とかFINLANDS初期の音源を聴くことが多くて、その頃の音源って何ひとつ正解じゃないじゃんっていう(笑)、レコーディングの方法をしてて。アレンジとかも周りの大人は"これで正しいのかな"って思ってたんだろうなって感じることがすごい多くて。でも、そのとき自分が正しい、カッコいいと思ったことをたぶん突き通してやったと思うんですよね。今聴けばびっくりするんですけど、でも今はできないからカッコいいなと思うんです、マインドとして。そういうのを聴きながら、どうやって曲作ってたのかなとか、自分でどうやって暮らしてたのかなっていうのを考えたときに、FINLANDSを始めるまでの高校卒業してからの4年間って、かなり堕落してたというか、バンドにだけ全振りしてた人間だったなと思ってて。人間力がゼロだったなと思うんです。バイトも行かないしスタジオもそんなにちゃんと行かないし(苦笑)、友達との約束もドタキャンするし、なんか恋人ともうまくいかないしみたいな。でも自分は絶対いい曲を作れるし、自分が作る曲って自分の世界もこの世の中も変えるぐらいいい曲だって信じていたし、私にできることってそれぐらいだなって思ってたので、自分の生活がどれだけダメでも、自分の人間力がどれだけなくても、私は素晴らしい曲を作ることができるすごい人間だって思ってなきゃやってらんなかったというか。でも、あなたにはないけど私には曲を作るっていう能力があるって思いたかったから、よりつらかったんですね、自分が生きていくことは。

-作れないと存在する意味がない?

そう(苦笑)。だから自分で自分を苦しめ続けてたなと思うし、その頃ってすごいつらかった。自分以外のことが正しいと思えなかったというか、その頃のことをすごい思い出したんですよね、このアルバムを作るにあたって。あのときの自分のことをちゃんと歌っておきたいなって思って作ったのが「SHUTTLE」です。供養じゃないですけど、あのときは正しかったと思いませんし、いろんな人に迷惑をかけたので100パーセント正しかったと言わないけど、あのときがあったからちゃんと自分のことを変えようと思うことができたし、自分は別に素晴らしい人間ではない、自分は曲を作ることがすごく好きな人間であって、それだけやってればいい人間じゃないっていうこともちゃんと正しく理解できた気がするので。あの頃の自分もちゃんと助けてあげたいなと思って作りました。

-供養っていうニュアンスはこのアルバムにもあるのかもしれない。

うん。そうだと思いますね。早送りとか巻き戻しとか、自分の行きたい場所に行く、辿り着くっていう言葉がすごいしっくりきたので、"SHUTTLE"というタイトルにしたんですけど。未来には行けると思うんですよね、今頑張れば。自分の行きたいと思う未来には行けると思うんですけど、昔に戻るほうが手立てが限られてくるなと思うので、昔に戻れるっていうのはすごい素敵なことだなって今思いますし、この10年間、THE VITRIOLを入れたら15年間か。戻りたいと思うような過去があるのはいいことだなと思いますね。

-その頃の自分も合わせて肯定するっていう。

やっぱ自分のことを肯定しないと誰も自分のことを肯定してくれないし、誰かに肯定されたところで自分が肯定できないと今はないかなと思って。

-曲を作って残している人にはそういう手段があるんだなって思いました。

曲を作ってる人だけじゃないなと思いますけどね。例えば料理が趣味の人が写真を撮り溜めて15年前の写真を見たってそうでしょうし、子育てしてる人だってね? 今15歳の子供が0歳のときの写真を見返してみたらそうでしょうし。過去にあったものが今もあるのは自分がちゃんと養って育てて、続けてきたってことだから、それが肯定できる材料というか要素にはなるんじゃないかなと思いますね。

-なかったことにしない?

うん。自分だけじゃなくて物事を否定し続けたほうがアイデンティティは絶対保ちやすいと思うんですよね。だから若いときって嫌いなものが多かったし、受け入れてしまったらそれでおしまいだと考えてたけど、時間が経ってみたら好きなものと嫌いなものを振り分けることが自分のアイデンティティになるというか、そうなんじゃないかなと思えるようになったからこそ、やっぱり自分を肯定するっていうことがどれだけ大切なのかって気づけたのかなと感じますね。

-あらゆる世代の方にこのアルバムの感想をお聞きしたくなりました。さて、このあとのツアーはかなりギュギュッと詰まった2ヶ月じゃないですか?

かなり詰まってますね、2ヶ月間。16本("FINLANDS LIVE TOUR『I AM SHUTTLE TOUR』")プラス弾き語り3本("塩入冬湖 『I AM HITORI SHUTTLE TOUR』")なので。

-対バンはこれで決まりなんですね。

全部一応決まっています。各所、自分が好きなバンドにだけ声を掛けました。ツーマン・ライヴはツーマン・ライヴで、ワンマンの日はワンマンの日でいろんな楽しみ方ができるツアーだと思うので、ぜひ遊びに来てほしいです。