Japanese
FINLANDS
Skream! マガジン 2023年05月号掲載
2023.04.13 @渋谷CLUB QUATTRO
Writer : 石角 友香 Photographer:タカギタツヒト
FINLANDSがツーマン・ライヴ"娯楽"を約4年ぶりに開催。今回はこれまでも幾度か競演してきたyonigeを迎えた。両者ともサポート・メンバーを含むツイン・ギターの4ピース・バンドであり、オルタナティヴ・ギター・ロック・バンドでもある共通項の多い2組だからこその違いも際立って、見どころの多い内容となった。
先手のyonigeは1曲目に透徹したサウンドスケープを持つ「デウス・エクス・マキナ」をセットし、空間の色を変えていく。寒い国を想起させるアンサンブルがいい。牛丸ありさの少し投げやりで荒涼とした歌い方が冴える「リボルバー」などを経て、牛丸が先日、塩入冬湖と弾き語りライヴ("SHELTER presents. Keep going #.09")で共演した際にもカバーしたという「ゴードン」をバンドでも演奏してみようと思う、と曲紹介をして演奏が始まる。意識はしていないかもしれないけれど、母音の語尾が塩入の特徴的なニュアンスに近い印象だ。バンドウーマンが歌うロック・ナンバーとしての普遍性も窺えた。続く「センチメンタルシスター」ではごっきんのメロディアスなベース・プレイに耳と目を奪われつつ、中盤の「ここじゃない場所」での牛丸のぽつりぽつりと吐き出される言葉や、淡々と歩いてくような演奏の深みが、彼女たちの悲しいことの中にある真実めいたものを炙り出す。後半はアッパーな「ワンルーム」や「さよならプリズナー」を盛り込みつつ、ラストは最近の作品性を表す「対岸の彼女」を、内に秘めた熱さで描き切ってステージをあとにした。
ホスト・バンドのFINLANDSはサウンド・チェックでステージに登場したまま本編を「カルト」でスタート。演奏が始まるとグッと大人なアンサンブルに感じられたのは対バンの面白いところだ。昨年12月の横浜公演でも感じたが、4人の余白のあるアレンジで聴かせる。さらに「HEAT」では彩(Support Ba)の高音弦でのプレイが透明感を際立たせ、テンポが上がる「ウィークエンド」では8ビートのロックを思い思いに楽しむ日常をフロアに感じることができた。そう、ステージ上もフロアもライヴハウスのライヴの再来を祝福している。MCで塩入はこの"娯楽"というイベントについて、音楽は最高の娯楽だと思っていて、対バン相手も楽屋で気兼ねしなくていい人を呼んだ、とyonigeを誘った理由を話す。大義なんかなくても自然とケミストリーが起こる信頼があるからこそだろう。
近作である「キスより遠く」の前に塩入は妻になり母になっても、自分の意思や愛が100パーセント届いたりすることはなく、生きることは挑み続けることという意味の話をしていた。それでもこの曲が愛らしく聴こえるのは、切実に生きている人の表現だからじゃないだろうかと思う。瑞々しいテイストの「PET」に繋いだのもいい流れだ。この曲の歌詞に登場する"娯楽"から、塩入が思う"娯楽"の意味を想像するのも一興だと思った。アウトロにゆったりしたキック&スネアが滑り込み、生バンドで作るチルアウト・ヒップホップのごときアレンジで聴かせる「ランデヴー」も新鮮。ギター2本のアルペジオも隙間の多い今のFINLANDSらしい音像を作り出す。スロー・ナンバーは「オーバーナイト」へと続き、フロアも息を詰めて聴き入っていた。また、牧歌的なトーンのリズムから始まる「衛星」が彩のぽつねんとしたフレーズによって、夜の孤独な感触を醸すことにも気づいた。
入念なチューニングのあと、塩入がyonigeとはかれこれ10年ぐらい仲良くさせてもらっていると話す。牛丸のことを"牛丸さん"と呼んでいるのが単純に"いいな"と思えたり、こうした関係を表す話が聞けたりするのも対バンの楽しみだなと、少し懐かしい気持ちになる。そしてyonigeが「ゴードン」をカバーしてくれた返礼として、"私たちもyonigeの好きな曲をカバーしようと思います"と、「リボルバー」を披露。曲目を口にしただけで小さな悲鳴が上がっていたぐらいだ。
続いてRe RECアルバム『SHUTTLE』を作った経緯を話す塩入。バンドは最新が最もかっこいいと思うと同時に、自分が作ってきた音楽はすべて認められるからこそ、過去の楽曲を今なら再録する気持ちになったのだという。この話から、『SHUTTLE』にも収録される前身バンド THE VITRIOLの「ロンリー」を演奏。続いても『SHUTTLE』収録曲で、過去には"RO69"のコンピ(2014年リリースの『JACKMAN RECORDS COMPILATION ALBUM vol.10 RO69JACK 13/14』)に収録された「ナイター」と、この日知ったオーディエンスも少なくないはずだが、四つ打ちのビートに身を任せている様子も、ライヴがある日常がかなり完全に戻りつつある感覚をもたらした。
終盤は彩の空間系のベースから始まる「メトロ」、本家の「ゴードン」。リズム・チェンジしてアウトロに向かうヴァースで演奏がカオティックな様相を呈し、叩き出すような「バラード」へ。ミディアムやスローの隙間の多いアレンジに聴き入る醍醐味も今のFINLANDSのライヴの魅力だが、持て余す自分の感情をノイズで昇華する激情もまだまだ燻り続けている。
2023年は精力的にライヴを行うFINLANDS。その理由を見た対バン・ライヴ"娯楽"だった。
[Setlist]
■yonige
1. デウス・エクス・マキナ
2. リボルバー
3. 顔で虫が死ぬ
4. ゴードン(FINLANDSカバー)
5. センチメンタルシスター
6. どうでもよくなる
7. ここじゃない場所
8. seed
9. ワンルーム
10. さよならプリズナー
11. 春の嵐
12. 対岸の彼女
■FINLANDS
1. カルト
2. HEAT
3. ウィークエンド
4. キスより遠く
5. PET
6. ランデヴー
7. オーバーナイト
8. 衛星
9. リボルバー(yonigeカバー)
10. ロンリー
11. ナイター
12. メトロ
13. ゴードン
14. バラード
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