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Japanese

FINLANDS

Skream! マガジン 2021年10月号掲載

2021.09.10 @Zepp DiverCity(TOKYO)

Writer 石角 友香 Photo by 谷古宇 愛

塩入冬湖(Vo/Gt)のソロ・プロジェクト且つバンドという新体制後初のアルバム『FLASH』を携えた東名阪ツアー。ファイナルである東京公演のみ4月の予定から延期となり、ついに迎えた約5ヶ月ぶりの公演。ファンも十二分にアルバムと日常を過ごしてきたタイミングだ。現体制初のZepp DiverCity(TOKYO)は椅子席で間隔を開けての観覧スタイルだが、会場が暗転した直後、これはむしろ良いシチュエーションなのではないかと直感した。ステージを覆う幕にランダムに投影される青い光が滲み、オープニングSEはオルガンの音が交ざった抽象的なものに次第にビートが加わっていき、左右に幕が開くと、そこにはバンド・メンバー4人と、アルバムを象徴する"FLASH"のオブジェと、揺れるシルバーの装飾が背後一面に吊るされている。これはじっくり腰を据えて対峙したいなと直感した。

想像通り1曲目はミドル・テンポの「USE」でスタート。澤井良太(Gt)のシューゲイズ・サウンドや、彩(Ba)と鈴木駿介(Dr)の淡々とした中に溢れる熱情も相まって、ど真ん中のオルタナティヴ・ロック! という自分でも意外な感想を持った。続く「HOW」はアルバムの1曲目にして、最後にどうしてももう1曲象徴的な楽曲を追加したいと制作された経緯を持つ、今の塩入の"孤独の性質"を知る曲だ。ハチロクのリズム、弾き語りでも成立しそうなメロディの強さがライヴで増幅する。短い挨拶からアッパーな「カルト」で立ち上がりクラップする人が増える。続く「ラヴソング」の前、椅子席というイレギュラーな状況も"一期一会と思って楽しんで。座っていてもいいし、立ち上がってもいいし、あなたの楽しみ方で"と、顕在化した包容力すら感じさせるMCも。

リフやフレーズの組み立てがファンタジックな「ガールフレンズ」では、ミラーボールに反射する光が、新作『FLASH』の閃きに呼応するようなイメージ。続く「ウィークエンド」ではギアを上げ、塩入の千切れるような高音の響きも澤井のソロも激しさを増す。それでも『FLASH』を完成し、愛という言葉を素直に表現に取り入れ、開かれたフィールドに自ら足を進めた今の塩入からは、激しさもまた数多の感情のひとつといったタフさが窺えた。珍しいマイナー・キーの「Balk」は音源よりプリミティヴなビート感で、徐々に上昇していくラストのサビは、誰しもがいとも容易く傷つけ、傷つけられる時代に"幸も不幸もわたしの救いは/わたしだけがこの手に握って/わたしだけがこの手に勇んでいる"と、決して被害者ヅラをしない言葉で締めくくられる。

新作を軸にしつつ、今の演奏で聴くことでじっくり浸れた「Hello tonight」、「衛星」に続いて、甘酸っぱいノスタルジーを肯定するグルーヴィな「ランデヴー」が披露されたのも、いい流れだ。「ランデヴー」の演奏を楽しみながら、ステージ上で光を放つオブジェは記憶のメタファーなのかもしれないと感じ、より切ない気持ちになってしまった。この曲を含め後半は6曲続けて新作からの披露。MCタイムが設けられているわけではない様子だが、その曲が生まれた背景を話す機会が後半は増えた。"物事が見えるのは光の反射だ"という意味の語りから始まった「ひかりのうしろ」は、解き明かせない謎が繊細な音の積み重ねで表現されて無上の美しさ。

長めのMCの中でも人間の死とは会えなくなることではなく、その人の記憶に存在しなくなることなのではないかという経験にもとづく話から始まった「ナイトハイ」。サポート・メンバーの曲への理解が、ともに歌うような繊細さに溢れていて、もはやFINLANDSをどう形容しようがこの4人は唯一無二だと実感できた演奏だった。さらにギターとベースのリフがユニゾンする印象的な「Stranger」は、メロディのエヴァーグリーンさと、塩入が歌う"愛を訳に 許し合うなんてわたし達/はじめからいかれてるんだから"という、人間という生き物の不可思議さのような、決して寛容なんて美しい言葉では解決しない奇妙さに心が素直に反応してしまう。

メロディの美しさがイノセントでナイーヴな感情を喚起しつつ、同時に勇敢な印象もある「テレパス」、ライヴならではの圧とソリッドさがダイレクトに刺さる「UNDER SONIC」で、再び轟音がフロアを塗り込め、そこからさらにテンポアップして「call end」へ突入。エンディングではツイン・ギターとベースのユニゾンで圧倒。続く「バラード」は容易に有観客のライヴができない現実もあるからだろうか。激情を引きちぎるようなサビがヒリつく、そもそもの彼女らしい楽曲をセットした印象も。

高い緊張感を保ちながら、演奏と端的な言葉だけで進んできたライヴも終盤。『FLASH』とは閃きと繰り返しのイメージで、生きることもそういうものではないかと話していた彼女。先が見通せない時代であることも、いつまでも何も変わらないわけでもないこともどちらも事実であって、そのことをフラットに受け入れて自分から出てくる何かを楽しんでいるように見える。"まどかなる日々が続きますように"と、ひと言添えて、新しいFINLANDSの始まりの印、「まどか」を丁寧に演奏した。当たり前の日常は尊いけれど、生きているうえで湧き上がる衝動や、それこそ閃きに蓋はできない。穏やかな曲だが、現実に抗っている。その想いを色濃く残し、本編のみ全18曲を完遂し、4人はステージをあとにした。お節介だけれど、今のFINLANDSをもっと多くの人に観て、聴いてもらいたい。


[Setlist]
1. USE
2. HOW
3. カルト
4. ラヴソング
5. ガールフレンズ
6. ウィークエンド
7. Balk
8. Hello tonight
9. 衛星
10. ランデヴー
11. ひかりのうしろ
12. ナイトハイ
13. Stranger
14. テレパス
15. UNDER SONIC
16. call end
17. バラード
18. まどか

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