Japanese
FINLANDS
Skream! マガジン 2017年01月号掲載
2016.12.07 @新代田FEVER
Writer 岡本 貴之
会場の扉を開けて思わず"うぉっ!"っと声を上げてしまったほど、開場直後のフロアはぎっしり埋まるほどの観客が押し寄せていた。7月に発売した1stフル・アルバム『PAPER』がいかに多くの人に評価されたのかがわかるその光景を前にステージに上がった彼女たちは、ギミックなしのギター・ロックで観客の期待に見事に応えるライヴを見せてくれた。
"FINLANDS「PAPER」Release Tour 2016『FINAL WARAVANSHI』"と題されて行われたツアー・ファイナル。開演時間ぴったりに、「ゴードン」から始まったライヴは、ゆっくり、しかし熱を帯びて進んでいく。ライヴが始まってすぐに被っている帽子を吹き飛ばして演奏する塩入冬湖(Vo/Gt)とコシミズカヨ(Ba/Cho)。斎藤秀平(Dr)と澤井良太(Gt)のふたりはサポート・メンバーではあるものの、彼らを加えた4人でひとつのバンドになっているのがFINLANDSだ。実は正直、序盤の数曲の演奏にはなんとなく噛み合っていないような、音が定まっていないような印象を受けた。それぞれの楽器に微妙な距離がある感じというのだろうか。ところが、ライヴが進むにつれてそんな印象がどこかに消えていったほど、バンドは徐々に解け合い一体化していく。コシミズが弾くベース・ラインがグッとジャジーに曲を牽引する「JAM」、アップ・テンポな「マーチ」、塩入の歌声が囁くように歌いコシミズのコーラスと重なるキュートな「Hello tonight」から、リズム隊が刻むジャングル・ビートと祭囃子を掛け合わせたような独特なムードを醸し出すサウンドの上を親しみやすいメロディで歌う「あの子のお祭り」、バンドの持ち味であろうドライヴ感のある「Pluto」と、表現力豊かな曲たちが続いていくごとに、バンドは見事な調和を見せていく。
開演後もどんどん増えてきた観客に向かい、"年末の平日なのに、なんか悪いね(笑)"と顔を見合わせて笑いながらも感謝を伝える塩入とコシミズに観客からも笑いが起こった。ツアーを無事こなしてきて迎えたファイナル公演を"今日死んでもいいつもりでやります!"と気合満点な塩入は、大事な曲だという「ミステリー」のヴォーカルで観客を惹きつけた。さらに新曲も披露。"カルト"というタイトルがつけられたこの曲は派手なドラムとイントロのカラフルなギター・リフが目立つ1曲で、新曲とは思えないほど完全にできあがった演奏を聴くことができた。これがツアーが生み出した成果なのだろう。分厚いサウンドで盛り上げる4人。間奏中、客席を見渡す塩入の表情は自信に満ちていた。『PAPER』のオープニングを飾る「ウィークエンド」のサビで会場は一気に爆発。2番のAメロになって自然に手拍子が湧き起こり、どんどん盛り上がっていく。さらに続く「バラード」のリフが鳴ると熱狂的な磁場が生み出され、16ビートのリズムに乗せてコシミズのベースがうねり、ギター・ソロが興奮を煽る。タイトルとは不釣り合いなハードな曲だが、塩入の泣き叫ぶヴォーカルは文字どおり魂のこもったバラードだった。その歌声の魅力はスローなバラード「月にロケット」でも存分に発揮されていた。豪快でシンプルさが気持ち良い「ワンダーアーツ」から「ユニバース」へ。サポート・メンバーの斎藤と澤井を紹介、さらにコシミズも紹介して"この4人でこれからもずっと音楽をやっていきたいと思っています"と力強く宣言してから歌ったのは1stミニ・アルバム『悲しい食事』(ライヴハウス限定発売後すでに廃盤)からの「ナイター」。最高にダンサブルなサウンドに身体を揺らして盛り上がる観客たち。手拍子に乗せてラストに演奏されたのはマイナーなメロディとキャッチーなサビ、疾走感のある演奏でバンドの魅力を凝縮した「クレーター」だった。いつもアンコールはせずにセットリストの中にすべてを詰め込んでいるという彼女たちだが、鳴り止まぬ声に再びステージへ上がると、ツアー・ファイナルを無事終えたことを祝して観客と共に記念撮影をしてライヴを終えた。最初から最後まで変わることのない声量と個性的な歌い方で惹きつける塩入の歌を真ん中に置き、ガレージからダンス・ロック、ジャズやルーツ・ロック的なアレンジまで、多様なサウンド・アプローチを試みた演奏が楽しめたこの日のライヴ。ツアーは終えたものの、まだまだイベントなどでライヴが続くという彼女たち。2017年1月からはツーマン・ライヴ・ツアー"FINLANDS WORLD 2MAN TOUR~2017~"の開催も決定。対バン・ライヴを繰り返して経験を積むことで、さらにオリジナリティある良いバンドになっていきそうだ。
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