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INTERVIEW

Japanese

CIVILIAN

2023年05月号掲載

CIVILIAN

Member:コヤマヒデカズ(Vo/Gt) 純市(Ba) 有田 清幸(Dr)

Interviewer:石角 友香

楽曲の構造、歌詞の世界観、アンサンブル、どれを取っても高い完成度を見せ続けてきたCIVILIAN。バンド史上最も多彩な曲調を展開した前作『灯命』以降、バンドは逡巡の末に独立という方向に舵を切っていた。メジャー・シーンで活動するなかで、様々なタイアップなどでソングライターとしての実力も磨いてきたコヤマヒデカズは再度、自分の内面にダイブして誰のためでもなく自分自身のために曲を書く必然を感じていたという。独立から約1年半、このバンドの存在意義を赤裸々な言葉とそれを伝えるための音とアンサンブルで編んだ力作『Never Open Door For Strangers』について、3人にじっくり話を訊いた。

-独立されたタイミングっていつ頃なんですか?

コヤマ:2022年の頭ですね。

-独立の理由をおうかがいしてもいいですか?

コヤマ:最初にメジャーのレーベルと契約が決まったときから5年間、ある程度の目標を持ってやっていたんですね。いろんなことにチャレンジさせてもらって、主題歌やらせてもらったりとか、自分たちのキャリアでは一番大きい箱でやったりしてきたんですけど、自分たちが望んでいたところだったり、周りから期待されてたようなところにはなかなか届かない日々が続いていて。で、コロナ禍でライヴが制限されているなかで、自分たちのやり方や、事務所やレーベルの方針というのもだんだん変わってきて、そのやり方がだんだん合わなくなっていって、自分たちが望んでいるような規模での活動が今の体制では難しいっていう話になったんです。それでも一緒にやるんであれば最大限頑張ってやっていこうと思ってる、っていう話はいただいてたんですけど、"どうするかは最終的にそっちが決めてくれ"ってことで、いろいろ話し合った結果"じゃあ自分たちでやってみます"っていうことになり、2022年の頭に独立しました。

-今回のアルバムの内容が非常に苛烈だったので、何に向けられたものなのかなっていうことが気になったんですよ。

コヤマ:あぁ、そうですね。ただ、ひとつだけ誤解のないように言っておきたいのは、前事務所やレーベルに対しての批判みたいなものは1パーセントもないです。そこは最終的には感謝以外の感情は何もないので。とてもいい経験をさせてもらったなと今でも思ってます。

-メジャーに在籍しているとタイアップとかメリットもあるけれど、でもそういうことじゃなくなってきたんですね。

コヤマ:そうですね。バンドを始めたときって、最初から会社がついていたわけじゃないので、独立した今みたいな感じだったわけですよ。で、独立した最初の半年ぐらいは、バンドとしては"まぁ楽しくやっていこうぜ"みたいな感じではいたんですけど、曲を作ってる自分としては今までメジャーでやってきて、曲の作り方とか歌詞の書き方とかを結構頑張って変化させてきたようなところがあったから、いきなり自由になって"さぁ何を作ってもいいよ"って言われても、全然何を作ったらいいかもうずっとわかんなかったんですよね。例えば、タイアップのコンペで勝ち取るために、作品をできる限り汲んだ歌詞を書いたりっていうやり方がもう染みついてたので。いざそれが解放されると逆に何書いたらいいかわかんなくて。だから最初の半年は1曲も作れなかったですね。で、"何がしたいんだろうな?"ってずっと悶々としてて。独立した2022年の後半にクラウドファンディングでツアー[CIVILIAN『「灯命」Release Tour 2022 "三千年前の僕等へ"』]を回ったんですけど、その最中も個人的な心境としてはずっと迷っていて、ライヴもうまくできたりできなかったりみたいな感じですごく不安定だったんですけど、そのツアーを終わる直前ぐらいですかね。だんだん自分の中でちょっと吹っ切れたような感じがあって。で、ツアーを無事に終わったあとで"アルバム作りましょうか"って話になって、今の体制になってから改めて新しい曲を作り始めました。

-ツアーを回っているときはどんな心情でしたか?

有田:独立したときは、正直、批判はないんですけど悔しさはあったんですよね。シンプルに"もっと俺らは上に行けるはずだ"と思いながら活動を続けたんで。そのあと、メンバーみんなで改めて話し合って舵取りをし始めたことで、結構長くバンドやってるんですけど、結果的に今が一番メンバー内でコミュニケーション取れてるっていう......(笑)。クラウドファンディングもそうですけど、今までの活動の中でもっと詰められたところがあったっていう、個々人が感じていたものを改めて集約して、よりやりたいことに対して"この体制だったら向き合えるからもう1回やりましょう"って感じで向かっていって。2022年の活動とツアーの中で感じていたことは3人とも一緒だと思うんですけど、支えてくれた人たちがいたんだなぁっていうのをすごく痛感して、ファンディングに支援してくれた人もそうだし、ライヴ自体に協力してくれた人も改めて自分たちで接触するようになって、どういうことをしてくれたのかとか、どういう形で僕たちのこと好きだと思ってくれてたのかとか、どういう気持ちで応援してくれたんだろうっていうことが、具体的に受け取れたツアーだったんです。

-より見えるものがあったと。

有田:で、曲が思ったように書けない話も聞いてたんですけど、"やっぱ作品は出したいよね"って話をしてて。そのファンディング明けて、終わったあとに一発目に来たデモの中に「déclassé」が入ってて、歌詞の1節目に"もう 何もかも全て嫌気が差してしまった"と書いてあって、"そうだよね"と(笑)。個人的にはそういうことを一発目にドン! と吐き出せる人間について行こうってバンドを始めたところがあったので、スタートの1曲目としてうまくひもづいているような気もするし、いろんな縁に助けられてここまで来たので、ツアーは感謝で回る内容だったんですけど、今度はその感謝に対して曲でアウトプットするのが今に繋がっているように感じました。

-純市さんはいかがですか? 同じような感じでしたか。

純市:やっぱ3人になってちょっと宙ぶらりんな気持ちになってたというか、前のアルバム(2021年リリースの『灯命』)のツアーもコロナで回れずにいてすごい消化不良というか、無念な気持ちだったんです。で、さらに"クラウドファンディングやってみよう。やってツアー回ってみようよ"っていうことに不安しかなかったんですけど、いざ回ってみると、"あ、こんなにまだ応援してくれてる人がいるんだなぁ"っていう感謝やありがたい気持ちで回らせてもらって。今回のアルバムは恩返しをしていくしかないなっていう気持ちで挑みましたね。

-コヤマさんから最初に上がってきたデモが「déclassé」だったと。音楽的なことより言いたいことのほうが先にあったんでしょうか?

コヤマ:その曲もそうなんですけど、このアルバム全体に漂っているフラストレーションみたいなものは、それまでの自分自身に対してのもので、例えばメジャーでやってた5年間とかに"もうちょっとうまく行ってるはずだったんだけどな"って思いが仮にあったとして、原因ってなんなんだろうなと考えたときに、自分自身が自分の作るものをもうちょっとシンプルに信じても良かったのかなって思ったりもしたんですね。周りから"歌詞の内容もうちょっとマイルドにしてほしい"とかいろんなこと言われて、"あ、わかりました、わかりました"って言ってひたすら曲を変えてっていうふうにやってきたので、その事務所とかレーベルがなくなって"なんでも作っていいです"ってなったときに、一番最初に出てきた感情、それまでの自分に対する怒りみたいなものが「déclassé」なんじゃないかなっていう感じでしたね。

-今回はきれいならきれいな理由、怒ってるなら怒ってる理由がすごいわかる気がしました。1曲目の「わらけてくるわ」の一発目の音からすごく驚いたんですよ。

コヤマ:これはメジャーのときからお世話になってるレコーディング・エンジニアさん(比留間 整)がいるんですけど、今回もそのときと変わらないスタッフでレコーディングをしたんです。で、これを1曲目にしようっていうのはエンジニアさんの提案なんですよ。作った本人のイメージみたいなものがやっぱあるじゃないですか。でも、外側から見た"こうだったらいいかな"っていう視点とどうしても一致しないところが絶対あると思ってて。で、そのエンジニアさんは外側からの意見を結構くれる人なんですけど、そういう意味でもその人の意見を"いいかもな"と思えたというか。

有田:最初全然1曲目のイメージなかったもんね。

コヤマ:ロック・バンドのアルバムって最初激しい曲から始まったりするじゃないですか。当然僕らもそういうパターンで考えてもいたんですけど、でもそれって始まり方としては安心するけどよくあるよねっていうのも否めないので。今の自分たちっていうものを1曲目からバーンと出すためには、これはいいんじゃないかなと。

有田:いい意味でバンドとして立ち止まってない感じがするっていうか。

-ギターで作るエレクトロニックなファンク感というか、音像に嫌悪感みたいなものも詰まってる気がしたんですよ。この「わらけてくるわ」っていう曲の感情は呆れとか怒りですよね。

コヤマ:「わらけてくるわ」とか他の曲もそうですけど、普段の日常だったり、人間関係とか自分の過去の話だったりとかから、自分が感じてることを素直に出してますね。だから、いい曲なのかどうかすら僕にはよくわかってないっていう感覚です。インディーズの曲を書いてた頃はずっとそういう感覚ってだったんですよ。誰かにいいって思ってもらいたいっていうよりは、自分の人生とか自分のどうにもならないことをどうにかしたくて曲を作ってただけなので。で、さっきも言った通りメジャーに行ってから曲作りが変わって、人にいいって言ってもらえる詞を書こうっていうふうに良くも悪くも思っていたので、それを1回取っ払ってもう1回自分の原点に戻って、いいとか悪いとかじゃなくて、自分をなんとかしたくて書いたっていうのが今回のアルバムでしたね。