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INTERVIEW

Japanese

Lucky Kilimanjaro

2023年04月号掲載

Lucky Kilimanjaro

Member:熊木 幸丸(Vo)

Interviewer:石角 友香

踊りながら泣くって、自分の心が一番新鮮な状態で外に出ていると思う――それを作ることで日常がもっと開かれる気がします


-四季って、楽曲の主人公がどういうストーリーを描くのかだとわりと描きやすいのかもしれないですけど、今回は歌詞が結構抽象的なので、季節感をどんなところに着地するのかが難しそうです。

そうですね。今回伝えたかったのは変化ということで。その変化という感覚を伝えるのに、日本人の文化の中で一番リアルなものを考えると、季節はみんな嫌いとか好きとか言いながらもちゃんとそれに沿った服を着て、イベントをしてとか、乗りこなしてる部分だなと思ったんです。じゃあ季節ってみんなが変化を感じるもの、変化を受け入れられるものとして使いやすいのかなと、全体に散りばめていて。春の曲、夏の曲の詰め合わせというふうには作っていなくて、最終的にはこんな変化を自分の中ではアルバム上で感じてるんですけど、みなさんが変化をどう受け入れられるか? というところに挑戦した感じですね。

-面白い。中でも寒い季節からの変化が、クールでミニマムな曲から、ビートの強さが前景化してくる流れで表現されている印象もあって、あくまでも感覚なんですよね。だから「Heat」は、タイトルは"Heat"ですけどめちゃくちゃクールだったりするし。

そうですね。「一筋差す」と同じぐらいの時期にできた曲で。冬とか寒いの嫌いなので(笑)、寒さを自分の中で"動けない自分"みたいに捉えていて、そこにいかに火を入れて自分の能動的なスタイルを取り戻すかというところです。なので、寒さの中で燃えているというか、寒さがあるんだけど火がちゃんと灯っていて絶やさない部分がある、火はなくてもすごく熱い部分がちゃんと残っているという状態を作りたくて。だから、"Heat"と言いつつ非常にクールな、しかし動いてるサウンドで仕上げました。

-なるほど。「掃除の機運」は歌詞から窺うに、掃除のきっかけが寂しい出来事なんですよね。でも、それも春って感じがします。

これを春とするか冬とするかというところなんですけど、掃除と言ったら大掃除という人が結構多いかなと思っていて。ただ春も整理の季節というか、捨てて手に入れてという季節だと思うので、よくわからないところに置きました。人によっては春だなと思うでしょうし、人によっては冬だなって思うでしょうし。

-この楽曲はブラスのエディットをされてるんですか?

サンプリングでブラスを入れてます。サンプリングでサックスを入れるのがやりたくって。ビートが最初にアイディアとしてあって、80年代、90年代のちょっとダサいポップスの感覚......ダサいというかちょっと古臭くなったサックスの感じとかをハウスに落とし込みたくって、この感じになりましたね。

-そうやって一曲一曲に集中して2度目、3度目と聴いていくと、特徴が自分の中で明快になっていくんですよね。別に言葉とかサビとかだけで覚えるわけじゃないので不思議な記憶の仕方なんですけど。

そうですね。曲自体も流れの中で盛り上がるところがあるようにしていって、且つ言葉がないところや少ないところに盛り上がりを持ってきている曲もたくさんあるので、どんなふうに踊ったかな? と質感で覚えるというか。そこを意識して構成、設計していますね。

-シングル(2022年リリースの『ファジーサマー』収録)の段階でも印象の強かった「地獄の踊り場」なんですけど、これは本当楽しくて。アルバムの中でも強い。

強さを感じますか? 前回『ファジーサマー』のときもたくさんの媒体さんにインタビューをしていただいて、好きってすごい言っていただきました(笑)。媒体さんウケがいい曲でございます。

-たしかにそうかもしれないですね。フックがあるっていう意味では。

ちょっと面白い引っ掛け方というか、ドラムンベースとかジャングルを知っていたとしても、ちょっと引っ掛かる感じを目指したんです。ジャズっぽさもありシンセっぽさもあり、エレクトロっぽさもあり、でもダンス・ミュージックっぽさもありみたいなバランス感。面白い曲だし、一番時間はかからなかった曲かもしれないですね。

-今回は今の何かのリファレンスみたいなことをあんまり感じないんですけど、この曲だけはリンクしてるなと。

海外ではPINKPANTHERESSやNia Archivesたちがいて、そういうドラムンベースの空気があるなかで、Lucky Kilimanjaroとしてどんなふうにそこを料理できるかな? と挑戦した部分は多少ありますね。

-間奏がドープで90年代UKの元祖ドラムンベースのニュアンスもありますね。

90年代の感覚、90年代のハウスがすごく好きなので、アルバム全体でもTR-909(ドラム・マシンの一種)を頻繁に使ってますし、その感覚がどの曲も入ってるなと思います。

-たしかに。歌モノのハウスじゃなくて、黎明期的な感覚があります。

ドラム・マシンでやっていた頃のハウス・ミュージック、RolandやKORGって会社が出したシンセでみんな盛り上がっていたサウンド感を、どうクラシックじゃなく日本のポップスと交ぜ合わせるかというところ。「またね」や「一筋差す」もそうなんですけど、今回のアルバムは自分の好きなダンス・ミュージックの要素をより濃く出せたなと思っています。

-例えばヒップホップも、楽器買うお金がない人たちがレコードを交互にかけてみたいなことと近いじゃないですか。ハウスも。

もともとはそうですよね。ドラム・マシンが安く売られていて、楽器が買えない、ドラムが買えないからというところで。でも逆にそのスタイルで作っちゃったというところに面白さがありますよね。

-今は当時の機材も高いですけどね(笑)。

今はね、プレミアになっちゃいましたからね。

-「地獄の踊り場」は、地獄っていうワードをポップ・ソングの中で使う手つきが、星野源さんとかに近いなと思いました。

星野源さんもありますよね(「地獄でなぜ悪い」)。映画("地獄でなぜ悪い")の主題歌だった気がします。でも、日常ではそんなに珍しい言葉じゃないと思っていて、あんまり違和感はなかったですね。"めちゃくちゃ地獄だわ"、"この地獄のスケジュール"とか言うじゃないですか? だから僕の中で結構カジュアルな言葉として配置しちゃってますね。歌詞的にもカジュアルに使ってますし。

-"こんな地獄"ってどれぐらいの程度なのかというのもありますけど、これは日常の中のってことですよね。日常の中のある時期というか。

その山あり谷ありの谷のときをいかに谷のまま過ごせるか? という曲なんですけど、それを山のための谷と考えるんじゃなくて、谷そのものをどう踊ろうか? というところを設計したくて書いた曲ですね。

-谷そのものをどう過ごすかを考えないと、常に明るくないとダメとかになりがちですし。

そうなんですよ。落ち込んでいること自体がすごくタブーになっちゃうというか。でも普通に考えたら人間には相対的に絶対落ち込む時間って訪れるわけで。そう考えるとむしろ落ち込む時間のことをちゃんと受け入れられる自分が必要だなと。そうなったときに、"元気を出しましょう"という曲ではなくて、その状態で踊れる曲を書けばいいじゃないかという発想ですね。

-ライヴっていう場所だと晴れの場かもしれないですが、例えば時間潰しとしてのクラブとかだと別に楽しいことばっかりじゃなかったりするし。

終電をなくして仕方なくクラブに滞在することになった日とかありますからね(笑)。でも実際にライヴでも、みんなその日すごく良いことがあって来たわけじゃないと思うんですよね。もしかしたら今日別れちゃって、ひと席空いてみたいな。"ライヴ観るどころじゃねーわ"みたいな人もいるかもしれない。それでも来るのであれば、こういう曲はもしかしたら......逆に刺さらないのかもしれないし、わかんないですけど(笑)。こんな曲を用意しておくことがLucky Kilimanjaroが思う、みんなが踊ってる世界に必要なことなんじゃないかなと思っています。

-しぶとくなってきましたね。

(笑)しぶとくなってきました? たしかに手札は増えましたね。みんなに踊ってもらうために何をし、何を歌うのかっていうところでは。

-この『Kimochy Season』が出たら、ライヴのテンションもまた変わってきそうですね。

そうですね。でもやっぱりダンス・ミュージックというか、特にハウス・ミュージックがあまりポップ・シーンにおいて浸透していない感覚があって。浸透させている先人もいらっしゃるんですけど、さっきも話したコロナ前、コロナ禍というのでお客さんのスタイルも変わって、楽しみ方もちょっと変わったような印象があるんです。そのなかでもっとダンス・ミュージックでみんながたくさん踊って、はしゃいで笑顔になっているという姿をちゃんと作りたいなと思っています。今回のアルバムはそういうところでハウス/テクノ要素が多くなったので、ライヴでもみんながたくさん踊れるもの、ブンブンに踊れるものとして設計したいと考えています。

-中にはすごくガン泣きしながら、とか。

そうなんです。泣きながら踊るっていうのが一番気持ちいい部分だと思うので、そこをどう設計するかですね。無理に泣かなくてもいいんですけど、"なんか泣けてきちゃうんだよな"みたいな。THE CHEMICAL BROTHERSが"サマソニ(SUMMER SONIC 2015)"に来たときに観に行ったんですけど、やっぱり泣けるんですよね。かっこ良すぎて、気持ち良すぎて泣いちゃうんですけど、そういうのを自分のバンドでもやりたい。踊っていて"めっちゃ楽しいんだけどなんか泣けてきたな"みたいな、わけのわからない瞬間を作りたいなと考えています。踊りながら泣くって、本当に最高な経験だと思うんですよね。

-感情が出まくってる状態ですからね。

一番直情的というか、自分の心が一番新鮮な状態で外に出ていると思っているので、それを作ることで日常がもっと開かれる気がします。自分の心が外にどんどん出ていく瞬間が、日々生活するときにおいても非常に重要な時間として機能すると思っているので、日常をみんなに楽しんでほしいからこそダンス・ミュージックで踊りましょう、泣きましょう、ということをこのアルバムとライヴを通して伝えていきたいです。