Japanese
CIVILIAN
2021年06月号掲載
Member:コヤマヒデカズ(Vo/Gt) 純市(Ba) 有田 清幸(Dr)
Interviewer:秦 理絵
-どうでしたか? 今回のレコーディング作業は。
有田:なごやかだったと思うけどね、終始。
純市:わりと期間は短かったんですけど、スムーズに進んで。いいテンションでした。久しぶりのアルバムのレコーディングっていうことで、みんな機嫌良く(笑)。
有田:そうだね。演奏できるタイミングがなかったから、なおのこと嬉しかった。楽器に触れること、レコーディングすること自体が純粋に楽しかったんですよ。今までも喜びがなかったわけじゃないですけど、より大事に感じながら作ってたと思いますね。
純市:うんうん。
コヤマ:今までもタイアップ曲のために1曲~2曲録るっていうのはコンスタントにやってたんですけどね。ここまでまとまった時間レコーディングをすることはなかったので。来る日も来る日も、"この曲はどうしよう"って考えたりして、みんなで一緒になってひとつのものを作っていくっていうのが久々だった。"じゃあ、明日のギターはあれを使おうかな"とか。そういうのが楽しかったし、すごく充実した時間でしたね。
-いいですねぇ。アルバムのメッセージの部分の話をすると、今作は、生きることの責任はどこにあるのかとか、終わりに向かってゆく命の期限の中で果たして何をするべきかとか。そういうことが全体に散りばめられているように感じました。
コヤマ:僕は音楽を始めるよりもずっと前からそういうことを考えてるんですよね。無意識のうちだと思うんですけど。自分としてはそれぞれ違うことを歌ってるつもりではあるのに、結局、人間の死生観や人の心みたいなものを、角度を変えてみてるだけかなって。根底で言ってることは、全部一緒なんだろうなって思います。
-そのなかで、特に今回のアルバム『灯命』で浮き彫りになったと思う部分はないですか? この4年間の心境が強く表れているというか。
コヤマ:14曲それぞれに作ったときの感情が表れているんですけど......強いて言うなら、「灯命」ですね。例えば、僕もいちミュージシャンとして、ギターが上手くなりたいとか、歌が上手くなりたいって思うんですよ。バンドとしては、もっと大きな会場でライヴしたいとか、いち人間としては、もっと自分を向上させたいとか。そういう、自分の人生を前向きに生きていこうとする気持ちって、当然あるんです。でも、それに反して、時々、とにかく早く人生終わってくんねぇかなって思うときもあったりして。
-ええ、その負の感情は「懲役85年」あたりでも歌われてますね。
コヤマ:そうですね。別に自分から命を絶ったりする気持ちはさらさらないし、自分に課せられた責任を放り出すつもりも毛頭ないんです。でも夜寝る前とかに、なんかもう明日ぐらいに人生終わってくれてもいいのになって思ってしまう。そういうときの気持ちを掘り下げたのが、「灯命」だったりするんです。
-アルバムの最後に辿り着く「灯命」は、ホーリーなサウンド感も相まって、コヤマさんなりの"生きること"の答えになっているようにも感じます。
コヤマ:うん。アルバム制作の初期では、何が最初になって、何があとになるっていうのは全然決まってない状態だし、この曲も、とにかくこれをやりたいっていうもののひとつだったんですけど。曲が並んでいくなかで、これが最後じゃないかな、みたいな感じに自ずとなっていったっていう感じの曲ですね。
-有田さん、純市さんは、今作でコヤマさんが書く歌詞に関して、思うことはありますか?
有田:ありますけど......絶対に言わないです。恥ずかしいもん(笑)。僕はこういうふうに受け取ったからって、いちいち作った本人に言うのは。
-コヤマさんは聞きたくないですか? メンバーの受け取り方って。
コヤマ:話したいときが来たらでいいです(笑)。
有田:あはははは!
-(笑)CIVILIANのアルバムはいつも曲順の流れがとてもいいなと思ってますけど、今回もそうなんですよね。特に後半がすごくいい。前半では、絶望とか迷いの色が濃いけれど、「夢の奴隷」以降で、肯定的なメッセージをこれでもかって畳み掛けてくれる。
コヤマ:そうですね。そこはさっきの、今の世の中に影響を受けたのか否かみたいな話にも繋がるんですけど。そうやって後半に向かって、なんていうか......ポジティヴな曲が入ってくるのは、自分が今生きてるなかで感じてることなんだろうなと思います。
-この状況のなかで腐ってられるか、というかね。
コヤマ:うん。最終的には、やっぱり前を向けるものにしたいっていう意志が反映されたのかもしれないですね。
-その起爆剤になるのが「夢の奴隷」なんですよね。開放的な8ビートのロック・ナンバーで。CIVILIANがこういう曲をやるんだっていうのは意外でした。
コヤマ:僕が普通に歌を作ろうとすると、どうしても考えこんでしまうんですよ。だから、これはあえて頭を空っぽにして作ってみたんです。曲の進行とか、ギターの上物で凝ったことを一切しない。ギミックを盛り込まない。とにかくコード弾きをバーンってやって、それでオッケーみたいな曲にしたいと思ったんです。
純市:この曲は、俺が入れたいって希望したんです。今までこういうシンプルでがむしゃらに突っ走っていくような曲ってなかったなって。今回のアルバムに、そういう曲が入ることによって、アクセントになるんじゃないかと思ったんです。
有田:振り返ると、バンドを始めたときって、こういう思考があったんですよね。だから、高校生の気持ちになってやろうと思って。
純市:うんうん、学祭だよね。
-この曲調で歌詞まで青春ソングだと、たぶんCIVILIANの美学に反すると思うんですよ。でも、"夢"に対して"奴隷"っていう歪な言葉を掛け合わせたことで、ちゃんとバンドの曲として成立してるんですよね。
コヤマ:たしかにそうですね。そのあたりは無意識ですけど。曲を作ってるときに、どっかで正と負のバランスをとろうとしてしまうようなところがあるんです。
-終盤の曲で、「フランケンシュタイナー」の歌詞は沁みました。物語のようでもあり、ひとりの男の独白のようなミディアム・ナンバー。
コヤマ:この曲は自分の中に持ってるコンプレックスが出発点にあるんです。僕、自分の見た目が大嫌いなんですよ。10代後半......高校生ぐらいですかね、周りの目が気になり出す頃から。そのせいでいろいろな機会を逃してきたりとか、素直に友達ができなかったり、自分の人生の中でいろいろ良くないこともあったので。
-ただ、それを全部修復してしまったら、結局それはもう自分ではないんじゃなかろうかって自問自答してるわけですよね。
コヤマ:自分を自分たらしめてるものってなんなんだろう? っていうことですよね。自分が欠点だと思ってるものでも、"いや、それがチャーム・ポイントなのにな"っていうこともあるとは思うんです。でも、自分にとっては、それが死活問題なわけで。僕も自分を変えたい変えたいって思いながら過ごしてたんですけど。でも、なんか......特に今の世の中って、昔に比べて、若い子が整形することにも抵抗がない時代になってるじゃないですか。
-コロナで整形する人が増えてるっていう話もあるみたいですしね。
コヤマ:そうですね。僕はそれもいいことだと思ってて。それで本人のコンプレックスが少しでも解消されて、明るい人生になるんだったら、全然いいじゃないかって思う。ただ、そうやってなんでも変えられるからこそ、自分の気になる部分とか、マイナス部分をすべて変えてしまったら、それは果たしてもとの自分と言えるんだろうかっていう、そういう想いもずっとあって。っていうような歌ですね。
-今コヤマさんが話をしているとき、有田さんがすごく頷いてらっしゃいました。
有田:これ、俺が選んだ曲なんですよ。
純市:推し曲だよね。
-どこが推しポイントだったんですか?
有田:ストーリー性もそうですけど。今言ってたところにも近い、最後のほうの大サビですよね。頭まで挿げ替えちゃったら、どうなるんだ? って言ってるじゃないですか。そのとおりだなと思って。それは見た目だけにかかわらず、人とのやりとりで八方美人になっちゃうとか、自分が言ってる言葉に責任を持てなくて、相手に合わせちゃうとか。いろいろなことに派生できる曲だから、いいなって気に入ってました。
-さっき歌詞のことを話すのは恥ずかしいっておっしゃってたのに、今はたくさん歌詞のことを話してくださって。
有田:あはははは! 聞くからですよ! ノーコメントって言えないじゃないですか(笑)。
-いや、メンバーから見た歌詞の話も聞けて嬉しかったです(笑)。最後に、アルバム・タイトルが"灯命"になったのは、曲の「灯命」ができてからですか?
コヤマ:そうですね。曲が出揃っていくなかで、まだタイトルが決まってなかった「灯命」を最後にしたらいいんじゃないかなって思い始めて。で、これを最後にするなら、アルバムのタイトル曲にしようと思ったんです。
-"命を灯す"と書いて、トウメイと読む造語ですよね。この言葉をタイトルに掲げたいと思ったのは、どういった想いがあったんですか?
コヤマ:今のこの世の中って、いろいろな人のやる気とか気力が奪われるというか、すごく出鼻を挫かれる状況にあるなと思ってるんです。(コロナの状況が)少し回復しては、感染者が増えて、みたいな。どうなるのか出口がわからない感じもあるので。そういうなかで自分も生きてるんですよね。だから、今回のアルバムにはいろいろなアプローチの曲が入ってますけど、これを聴くことで、自分が生きるための気力とか、目の前のものに向かう情熱とかやる気とか、そういうものにもう1回火をつけられるような作品になってくれたらいいなって。そういう願いを込めてこのタイトルを付けました。
-4年前はこの世の中がこんなふうになるとは誰も思ってなかったじゃないですか。
コヤマ:まったく思ってなかったですよね。
-そういうときに作った曲も入ったアルバムですけど、それが結局この状況を戦っていくためのメッセージに集約している。それは、ずっとCIVILIANが、どんな逆境でも人生を前向きにするために歌っていたという答え合わせにもなるな、と思いました。
コヤマ:たしかにそうですね。今みたいな世の中じゃなかった、コロナなんか想像できなかった頃に作ったような歌であっても、ちゃんと、今の世の中でも鳴らせる歌であるというか。それはたぶん僕が根底に歌っているものが普遍的というか、時代がどうあっても、あんまり関係ないことを歌ってるからかもしれないです。
-今はますますCIVILIANが"命を歌うバンド"になっていく感じもしますしね。
コヤマ:そうですねぇ。やっぱり作るからには多くの人に感動を与えたいじゃないですか。たくさんの人に"いいね"って言ってもらいたい。で、その多くの人に届く歌って、いったいなんなんだろう? ってずっと考えてるんです。そうすると結局、人種とか国境とか国とか、そういうのは一切なしで全人類に響くメッセージって、たぶんもう"あなたが好きです"しかないんですよね。だから、これだけラヴ・ソングが量産され続けてる。そう考えてると、どんな人にも共通してるものって、やっぱり人生とか、生きるとか死ぬとか、好きだとか嫌いだとかっていう、原始的な感情になっていくのかなっていう感じがしてるんです。だから僕はそこをもっと歌っていきたいんですよね。
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