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INTERVIEW

Japanese

Lucky Kilimanjaro

2019年10月号掲載

Lucky Kilimanjaro

Member:熊木 幸丸(Vo)

Interviewer:TAISHI IWAMI

"もういい年齢だし"って新しいことに挑戦しなくなるとか、もったいない


-ここまでは『風になる』から熊木さんのミュージシャンシップについておうかがいしてきましたが、2枚目のシングル表題曲「HOUSE」は、打って変わって"家、最高!"という曲で。

" 「HOUSE」を聴いて元気になりました"って声もいただいて、わかる気もしつつ、そのまま受け取れば元気になる曲ではないし、人の生活を良くするというよりは、怠惰に拍車をかけるような曲でもあると思うんですけど、興味深いですよね。一般的には良くないと言われることも見方を変えて肯定するっていうのは、人によってすごく意味があるんだなって思いました。

-ストイックなハウスかと思えば、そこからのポップ感と歌ってる内容と3つの味が楽しめるような曲調もすごく面白いです。

謎のバランスですよね。そこまでがっつりハウスではないし、ファンキー・ハウスに寄ったんですけど、それよりもフニャフニャしてるし、歌モノと呼ぶには違う感じもあるし、不思議な曲だと思います。

-『初恋』もまた、Lucky Kilimanjaroとしては新しいチャンネルで。

これは、ジャンルありきというか、改めてUKガラージ/2ステップをカッコいいなって思って、そこに日本語を日本語らしく入れて、日本っぽい儚さとか切なさとかを加えたら面白そうだなって。

-作品全体を通して海外の文化と日本らしさを融合させるということには、どこまで意識的なんですか?

2ステップは、かなり濃いUKの文化なので、"再解釈しよう"とか"日本の色を足そう"という意識はありましたけど、他はそうでもないですね。もっと自然な感覚。というのも、今は家で聴く音楽のほとんどが海外のものなんですけど、歌に関しては日本の歌謡曲で育っていて。父が好きだった松任谷由実さんとか、山下達郎さんとか。僕自身もMr.ChildrenやBUMP OF CHICKENが好きで、だから結果的にそうなるんですよね。

-「Do Do Do」と今回の新曲「FRESH」は、音楽的にはわりと近いです。そこにまた、新たに突き抜けた歌詞が。

BPM170くらいのトラップですね。今回の4連続シングルは、2月には録り終わっていて、最終的にEPを出すのも決まってはいたんですけど、どんな曲を入れるのかはまだ決まってなかった。そこで、いい気分で2020年を迎えられる曲を作りたくて、いろいろと考えて4月頃に完成しました。

-そのプロセスについて詳しく聞きたいです。

4連続シングルでは"自分で何かを選ぶ"ことをテーマの軸にして歌ってきたんですけど、この曲はそこから一歩進んで、新しいことや人との出会いを大切にしてほしいという願いがあるんです。人間は、知らないことに対して怖いと思ってしまう。偏見も基本的にそういうところから生まれてくると考えているんです。偏見がメイン・テーマではないんですけど、知らないことに触れるということは、何か新しい価値が見つかるということ。それを止めてしまって、ずっと同じものを好きで世界が広がっていかないのは、個人的な趣味嗜好ととらえれば、別にいいのかもしれないけど、全体的に見れば、社会的な損失になることもある。

-はい。

"もういい年齢だし"って新しいことに挑戦しなくなるとか、もったいない。人は30歳で新しい音楽を聴かなくなるみたいな話がありますけど、30歳って人生の3分の1ですよ。それは、これからの価値観としてはそぐわないんじゃないかって。そういうことを"2020"っていう、ちょうどいい数字が始まるタイミングで打ち出したいと思ったんです。

-最初は何もかもが初めてで、そこから経験を積んで自己が形成されるほどに、閉鎖的になってしまう側面もありますよね。

そうですね。そこに自分の居場所があったら、ずっとそこにいたいと思うようになる。それは仕方ないことだし、自分もそうかもしれないですけど、新しいものに出会うこと、出会いたいという気持ちは大切にしたいんです。そういえば、最近初めてタピオカミルクティーを飲んだんですよ。おいしかったです(笑)。

-私、まだ飲んでないです(笑)。コミュニティに飛び込んだ初期衝動から、いつしか保守的になっていくことについては、どう思いますか?

属すことは、いいことだと思うんです。そこにしかないカオスなエネルギーってすごいですから。問題は、それぞれが繋がらないこと。属したときに排他的になってしまうと、最終的には戦いになるわけで、そこは、どうコミュニティを設計するかだと思うんですけど......難しい問題ですよね。ことファッションや音楽の分野に関しては、いろんなものがくっつくから面白いんですけど、ダサいかもとか、自分の尊厳が失われるかもとか、やっぱり出てきますから。でも、そんなことないかもしれない可能性も大いにあるわけで、基本的にオープンな心を持ったうえで取捨選択したいです。

-そこにある偏見や、排他による社会の停滞に対する絶望が、表現において大きなエネルギーになることもありますが、熊木さんの音楽にはそういう側面もありますか?

僕もそうですけど、認められたいんです。そこには認められないっていう現実がある。それは、多くの人が感じていることで、SNSとかではかなりリアルに見えてくるじゃないですか。それが暗いなって。

-私もやっちゃいますし、揺さぶられますね。

暗さを全否定しているわけではなく、それは仕方のないことなんですけど、どんどん連鎖していくのがつらい。逆に、明るい前向きなエネルギーが広がっていくこともあって、そこをちゃんと作っていきたいって思いはありますね。さっきのコミュニティの話とも重なりますけど、何かをくっつけ合ったときに何かが生まれることの良さを、もっと広げていきたいと思ってるんです。そういう流動性が世界にあれば面白い。日本は閉鎖的になりやすいし、それは長らく続いてきたことなので、なかなか変えるのは難しいのかもしれないけど、そこに対して僕は何ができるか。想像力を持った人が、力を発揮できるような世の中になればいいなと思います。