Japanese
fhána
2018年04月号掲載
Member:佐藤 純一(Key/Cho) yuxuki waga(Gt) kevin mitsunaga(PC/Sampler) towana(Vo)
Interviewer:吉羽 さおり
-そして最後の曲が「It's a Popular Song」です。エンディングらしい雰囲気があって、アンセム感のある曲ですが、これはラスト・チューンとして書いた曲だったのですか。
佐藤:ラストに持ってこようと思って作った曲でした。アルバムの最後の曲で、みんなでサビを合唱できるような曲が作りたいなというのがあったので。"Popular Song"って、結構挑戦的なタイトルだと思うんですけど。いわゆる、"みんなの歌"が作りたかったんです。この曲がそこまでのポピュラリティを獲得できているかはさておき、心意気としては、みんなの歌を作ろうという。
-みんなの歌には、どんな想いがあるんですか。
佐藤:大衆音楽という意味でのみんなの歌でもあるし、みんな同じだよねっていう意味合いでもあって。その"みんな同じ"っていうのは、ポジティヴできれいごとのような"みんな同じさ、だからわかり合えるよ"ってことじゃなくて。それぞれ全然違うところもたくさんあるけれど、でも、根本的にはそんなに変わらないよねっていうもので。これは昔から考えていたことなんです。1stアルバムのブックレットの1ページ目に、"僕たちはそんなに変わらない。けれどもバラバラになってしまった"という僕の書いた序文みたいなものを入れていたりして。2ndアルバムでも、人と人はわかり合えないという絶望から、だけどだからこそ孤独じゃないんだ、そこからコミュニケーションを立ち上げて希望へと繋がっていくという想いがある。こういう曲が作りたいというのは、昔からの構想ではあったんですよね。
-なぜこういう曲を書こうと思ったんですか。
佐藤:"World Atlas"というアルバム自体のコンセプトにも繋がってくるんですけど。みんな今、断絶しているというか。どんどんオープンになって繋がっていこうというトレンドから、引きこもって断絶していっている時代になって。そのなかにいて、みんなを引っ張り出して、もう一度他者に出会う旅に出ようっていうことを考えていたんです。その根底には、やっぱりみんな変わらない、同じだよねっていうのがあって。そういう時代性を感じつつ、個人的な生活の中でも、自分の居心地のいい場所から出る、ここに居続けているだけではしょうがないという感覚もあって。だからこそ今の時代に対してこの曲をぶつけなきゃいけないと思ったんです。そこに"It's a Popular Song"と名付けたのは、これは星野源さんの「Family Song」があったからですね(笑)。「Family Song」は本当にいい曲なんですよ。歌詞がすごく丁寧で、何ひとつ取りこぼすことなく、あらゆる人々を家族だよ、ファミリーだよって包摂していく曲なんですよね。この「It's a Popular Song」は、それとは別なルートを辿って、でも最終的にはみんな同じだよねっていうところに行き着いている。違う方法論で、同じことを表現しているみたいな感じですね。
-サウンド的な面ではどうですか。アンセム感はありながらも、とてもゆったりとしたノリや、心地よさがありますね。
佐藤:音楽的には、fhánaが今までやったことがないシャッフルのリズムとか、「青空のラプソディ」以降、「World Atlas」、「ユーレカ」、この「It's a Popular Song」とフィリー・ソウルやニューオリンズ系というか。アメリカの黒人音楽的な、リズム要素が入っていて。特に「It's a Popular Song」はStevie Wonderみたいな曲が作りたいなと思って、作ってましたね。
-今回のアルバムで、このバンドはなんでもできるなというのを、より感じました。バンドとして自由度が高くて、ほかにはないバンドであり、でもきっとみんなが欲しているだろうポップさを持っている。そこを確立したような気がします。
佐藤:ポップさの一翼を担っているというか、大事なのがヴォーカルで。いろんなタイプの曲が、最後にtowanaが歌うとfhána印になるというのは重要ですね。
-towanaさんとしてはヴォーカルとして、この約2年間で、喉の手術をしたこともありました。そういう経験での心境や、自身の変化は作品に反映されていると思いますか。
towana:そうですね。感覚的には、2年あったから歌が上手くなったという感じがします(笑)。ピッチがどうというのもあるけれど、表現の仕方とか、2ndアルバムのときからしたら、今回の曲は、たぶん歌えなかったと思うし。成長したんじゃないかなと、自分で聴いていて思うことはあります。それはライヴが大きかったのかなと思いますね。あと、ちょっとは自分を出すようになってきたというか。以前までは、fhánaの音楽を最終的にアウトプットする装置みたいな意識だったんです。今回、自分が歌詞を書いた曲が入ったりして(「ユーレカ」)、"ヴォーカル towana"というキャラクターを出せるようになってきたんじゃないかなという感覚はあります。
-歌にも、感情的な表現がより入った印象があります。
yuxuki:歌の幅が広くなって、あまり声を張らず、柔らかく歌っている曲もあるんですよね。バンドとしても、そういうところを見せられるのは嬉しいというか。声を張っていい感じに歌うって、わりとやりやすいと思うんです。優しく歌ってよく聴かせるのは難しいと思うし、曲に対してのアプローチが増えたんじゃないかなという気がしますね。変な意味でなく、テクニカルすぎないというか、もっと素直な感じが前よりも出ているかなという気がします。
kevin:あとは、「reaching for the cities」のようなラップ曲は、これまでのアルバムではやってなかったことだし。ラップ曲は、音程とかピッチじゃなく、ニュアンスや感情を乗せることがより求められるので、そういう挑戦もしてきましたしね。そういう意味でも、これまで以上に表現が広がっていると思います。
アーティストは、リスナーに非日常的な体験をさせることができる存在じゃないかなと思う
-いい3作目になりましたね。タイアップ曲も多く、きっとアニソン・バンドとしてのfhánaを知る人や認識している人は多いと思うんです。でも、こんなふうにクリエイティヴで、面白い音楽作りをしているバンドがいますよっていうのを、もっとたくさんの人に知ってもらえたら個人的にも嬉しいところなんですが。そういう面でfhánaをどう打ち出していくかというのは、何か考えていますか。
佐藤:それはもちろんありますね。ターゲットとなるユーザー層に向けたアプローチとか、マーケティング的な戦略はもちろん必要だし、それはものを売るときには考えなきゃいけないことですけど、もっと根本の部分で、アーティストは、リスナーに非日常的な体験をさせることができる存在なんじゃないかなと思っていて。ライヴは、完全な非日常だと思うんですね。しかも人工的に作られた非日常で。例えば、地震とか停電があって思いがけず非日常に放り込まれて、そこから戻ったときに、その感覚が強く心に残っているみたいなことがあると思うんです。ライヴは、日常の中に突然出現した非日常の渦のような感じで、お客さんは自らの意思でそこに吸い込まれていって。そこで2時間くらいを過ごして、日常に戻ったときに、消えない何かを残したいっていうのがあるんです。ライヴが完全なる非日常だとしたら、音源やアルバムは、日常と非日常の中間というか。今はサブスクリプションもあったりして、音楽の聴き方が変わってきているし、いわゆるアルバムというフォーマット自体、主流ではなくなる可能性も高いと思うんですけど、アルバムには、作者が意図した順番や感情の起伏があって、1枚通して聴くのは特別な体験だと思うんです。せっかくアルバムというフォーマットで出すのなら、消えない何かを残せる作品が作りたいし。でも、ユーザーがそれをバラバラにして自分のプレイリストを作ったり、ほかのアーティストと交ぜたりして、その人の日常に溶け込む形で聴いてもらってもいい。だけど、アルバムを通してでもそうだし、1曲だけラジオやプレイリストでパッとかかっても、fhánaの曲が流れる約4分間だけは、非日常の世界に入り込んで、戻ってきたときに、なんかすごかったなって感じるようなものを作りたい。音源でもライヴでも、そういう特別な体験、非日常を作りたいというのは、根本にありますね。それができていたら、もちろんいろんな人の協力は必要でしょうけど、自ずとたくさんの人に届く可能性は高くなるんじゃないかなと思ってますね。
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