Japanese
ビッケブランカ
2016年11月号掲載
Interviewer:秦 理絵
-そこからここ2年で『ツベルクリン』、『GOOD LUCK』っていうインディーズ盤を2枚リリースして、いよいよメジャー・デビューという流れになるわけですね。
昔はメジャー・デビューに憧れてましたけど、いざ、自分が体験する側になると、つじつまが合ってるというか。1枚目の『ツベルクリン』を出したときに「秋の香り」でFM802のヘビーローテーションに選んでもらって、2枚目の『GOOD LUCK』も良かったので。そろそろだよね、みたいな流れができてましたね。だから、"よし、ここから世界を広げていくぜ"みたいなものも極端にはないというか。1枚目があって、2枚目があって、ライヴをするっていう、その3回目っていう感じの方が強いんです。
-となると、『Slave of Love』を作るにあたっても、メジャー・デビュー作だということを意識するよりも、枚数を重ねて成長したものを出していくというイメージですか?
メジャーでの1枚目だから、ビッケブランカってどんな奴か? っていうのが伝わるようにしようっていうのはありました。できることを全部やるってことだけに終始してますね。1枚目は全部自分で作って、2枚目はバンドを入れてライヴで盛り上がることをイメージしたんですけど。その時々に自分にできることを全部入れてます。装飾もなく、脚色もないような、今のリアルなビッケブランカの良いところがジャンルレスに詰まってますね。
世の中に生まれたら絶対に良い影響があるものしか作らない。マイナス方面のものは完全に排除してるんです
-アルバムを聴くとTrack.1「ココラムウ」からダンサブルなピアノ・ロックだったり、聴いててワクワクするような楽曲がたくさん詰まってるなと思いました。
「ココラムウ」みたいな盛り上がる感じは好きなんですよ。この曲自体は6年前からあるんです。ピアノを弾き始めて2年目ぐらいに作った曲ですね。ビートの音も、22歳のときのデータをそのまま使ってるので、結構古いんですけど、今回のレコーディングで新しいエッセンスもいっぱい入れてるんです。
-あとはTrack.2「Natural Woman」とかTrack.3「Slave of Love」もそうですけど、ビッケさんの曲にはハッピーなサウンド感があるなと思うんですよ。例えばABBAとかを連想させるような。
それは嬉しいですね(笑)。
-根本的に、音楽に昂揚感や多幸感を求めてるのかなと思ったんですけど。
音楽とか、絵画、映画もそうですけど、芸術っていうものは生み出すことで良い影響を与えるものであるべきだとは思ってますね。共感して涙を流してもらうのもいいし、楽しくなるっていう短絡的なやつでもいいし。そういう願いとか確信がないと、何かを生み出してはいけないと思ってるんです。それを気づかせてくれたのはミヒャエル・ハネケっていう映画監督なんですけど。一番有名なのは"ファニーゲーム U.S.A."(※2008年公開)っていう、もう観ん方がいいっていうぐらい救いようのない作品なんですよ。ハネケは何のためにこの作品を作ったんだろう? って、僕は少しも理解できなかった。そういう分野の奇才なんですよね。で、それを観て反面教師にしてるというか、逆に、俺は世の中に生まれたら絶対に良い影響があるものしか作らない。マイナスのものを排除してるんです。前向きって言い方は軽い感じになっちゃいますけど。プラス......プラス思考の意味じゃなく、プラスなもの。何か良い言葉ないですかね?
-うーん、端的に言うのは難しいけど、何か心に良い影響を与えるもの?
そう、とりあえず良いこと。あたたかい気持ちもそうだし、ブチ上がるのもそうだし、安らぐのもそうだし。最終的にちょっとでもマイナスなものを人の心に残したくないんです。マイナスな方向には完全に足を踏み入れないことにしたから、そういうふうになるのかなと思います。
-例えば音楽のルーツを探していくなかで、70、80年代のアメリカのキラキラした空気感から影響を受けた部分はありましたか?
メッセージの込め方とかサウンドの深め方は、あんまり音楽から学んでない気がします。自分が変わることで、出るものが変わるっていう傾向がありますね。さっきも話した、タイスケにいた23、24歳のときが、僕の人間性が作られた過渡期だったんです。自分の嫌な部分と向き合い切った時期なんですよ。例えば、"僕は絶対にプラスのものしか生み出したくないんだ"と思ったら、"じゃあなんでプラスのことしか生みたくないんだ?"っていうのを突き詰め続けたんです。それで原因を探っていくときに、なんていうか......不自由がないから。
-不自由がない?
言い方があれなんですけど、僕、裕福な家庭に生まれたんですよ。なんかすみません(笑)。例えば妹がピアノをやるってなったら、ピアノをバーンって買っちゃうみたいな、そういう家で育ってて。でも、甘やかされてないですよ? 大学に行ったら、"お前、バイトせえ"みたいな感じだったし。だけど不自由なく育ってきて。これも、昔は気づいてなかったんですけど。いろんな人と出会って音楽的なルーツを作っていくときに、自分がなんで根無し草になるかっていうと、自分から出てくるメッセージがないからだっていう話になったんです。例えば(忌野)清志郎さんみたいに、生きるうえでのつらさを込めた歌ってグッとくるじゃないですか。でも、僕はそういう曲に説得力が出ないんですよね。のうのうと、ただ楽しく生きてきたから。そんな人がつらいって歌ってても、説得力がないじゃないですか。でも、メッセージ性がないっていうのはマイナスだけど、そのぶん何をしてても気楽でいれたんです。そういうメンタリティで育ってきて。それが自然と音楽に落とし込まれてて、そうじゃない部分、プラスじゃないものは自分とマッチしないんですよね。
-メッセージ性がないって気づいたときに、歌詞に何を書こうかなって迷いますよね?
そうなんです。それが「Slave of Love」だったんですよ。恋はしてるんです。好きな子と別のクラスで切ないみたいなのは、普通に経験してきたことで。でも、ちょっと特異なのが、僕は中学1年生のときに転校したんですけど、そこで、恋愛の成長が止まっちゃったんですよね。小学生のときに好きだった子が未だに好きっていう状況になっちゃうんですよ。新しい子と恋愛もするんですけど、25歳ぐらいまで、その子に固執してたんです。2ヶ月に1回ぐらいその子に再会する夢を見てて。小学生として出会う夢もあるし、同窓会で出会う夢もあるし。毎回夢で"やっと会えた"と思うけど、そのたびに起きて、"また夢かー"ってなる。それがどんだけつらいか。そのぐらいちょっと変な体質で。
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