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INTERVIEW

Japanese

0.8秒と衝撃。

2014年09月号掲載

0.8秒と衝撃。

Member:塔山 忠臣 (最高少年。) J.M. (唄とラウド。)

Interviewer:天野 史彬

-確かに、今までのハチゲキは活動の中で、意識的であれ無意識的であれ、どこか自分たちで周りに壁を作ってしまうこともあったと思うんです。それが恐らく、塔山さんの言う"弱さ"だったんだと思うんですけど、このアルバムではその壁は取っ払われてますよね。むしろ積極的に土俵に立って勝ちに行こうとしてる。

塔山:うん。

-で、このTrack.1「ARISHIMA MACHINE GUN///」の中では、すごく攻撃的なことも歌われていますよね。特に、この塔山さんの叫び。"お前四つ打ちやナンダカンダ、ファーストフードにしたのお前らやないか、少年声でキモい恋愛。これだけは言える。日本にお前らみたいなバンドしかおれへんかったら、俺、バンドやってナイんじゃ~"っていう、ここ、特に直接的だと思うんです。新しく土俵に立っていこうとする中で、周りのバンドやシーンに対する怒りって、どのくらいモチベーションとしてあったんですか?

塔山:あぁ~......たぶん、腹立ってたんでしょうね(笑)。でも、その歌詞のまんまっていうよりかは、象徴ですよ、それはね。別に、それを歌詞にして出さなくてもいいんですけど、うちは好きだから出してるだけで。ただ、忘れてる奴は嫌だなって思うんですよ。別にしっとりしたことやっててもいいんですけど、忘れて、しかも飲み込まれてるやん、みたいな奴も、同じ業界におったらわかるじゃないですか。あれはやったらあかん、これはやったらあかんっていうことだけをしっかり守ってる奴らもおって。まぁ別にそんなこと、お客さんからしたらどうでもいいことなんですよ。でも、だからこそ、作ってる人らはモラルをちゃんと持っといた方がカッコいいと思うんですよね。"やってる"のと"やらされてる"のは違いますからね。ちょっと、今は"やらされてる"奴らが多いなっていうのは思いますね。だから、ポップな楽曲の中に、こういうメッセージを入れたかったんですよね。

-ここでは"四つ打ち"っていうワードが出てきますよね。これは昨今の国内ロック・シーンを語る上で、批判的な意味合いでもよく使われる言葉なんですけど、ただ、別に四つ打ち自体が悪いわけでは決してなくて。それは塔山さんが言うように、あくまで象徴だと思うんですよ。本当の問題はそこにあるわけじゃない。

塔山:そうそう、別に四つ打ちだっていいんですよ。なんなら、このフレーズが終わった後の間奏は、あえて四つ打ちにしてますからね。別に四つ打ちを馬鹿にしてるわけでもなんでもなくて。俺が攻撃してるのは別に特定の人やバンドではなくて、象徴なんですよね。やっぱり、不満は持っときたいじゃないですか。そうじゃなきゃ面白くないし。

-じゃあ、その象徴の奥にある具体性について聞きたいんですけど、今のハチゲキに何に怒り、何を聴き手に伝えようとしてるんだと思いますか?

塔山:やっぱり、"俺はこう思う"っていうことを持っておきたいっていうことだと思います。わかりにくいかもしれないけど、俺はすごい正義も嫌いだし、すごい悪も嫌いなんです。悪だけじゃなくて正義も嫌い。例えば、目の前にいじめてる奴といじめられてる奴がいるとするじゃないですか。そしたら、俺は腕力に自信があるから、まずいじめてる奴を殴りますよね。で、いじめられてた奴が"ありがとうございます!"って俺のところに来たら、"なに、いじめられてんねん!"って、そいつのことも殴ると思うんですよ。パッと雰囲気を見て、こっちが良くてこっちが悪くて、とか、どうでもいいんですよ。"俺はこう思う"っていうのを持っておきたいんですよね。それは決して、ゴミを捨てたい場所に捨てるとか、そんな感じのわがままではなくて。"あの人がこう言ってるから"とか"あの人がこうやってるから"とか、今はそういうのを真似てる雰囲気の奴らばっかりやなと思って。それが気持ち悪いんですよね。そういうのに対して、唯一わかりやすく文句を言えるのがロックなんちゃうかなって思いますね。

-たしかに、今は社会的に見ても、誰かが決めたような"正しさ"に沿っていこうとする傾向はありますよね。でも本当は、"正義と悪"とか、"正と不正"とか、そういう安直な二元論では回収できない部分にこそ物事の本質はあるし、それをずっと鳴らしてきたのがロックなんですよね。

塔山:だから俺は誰かを思う優しい歌も歌いたいし、だけどムカつくっていう感情も持っときたい。ただその中で、絶対に"俺はこう思う"っていうことだけは失くしたくないんです。それだけは曲の中で言っていきたい。それを別に理解して欲しいとも思わないし、理解されたからといって、仲間だとも思わない。あくまで自分の型の正解を見つけたいというか。でも、そのお互いがいいなって思う感情の中で繋がれるのがライヴじゃないですか。そうやって自分の周りに人を増やしていきたいんですよ。それがビジネスで言えば"売れていく"っていう形になればいいのかなって思うし。

-わかり合ったふりをしたり安易に共感し合うんじゃなくて、それぞれがそれぞれの自分の想いを抱えたまま繋がり合えるのが理想ですよね。ハチゲキって、ずっと自我の強いバンドだったと思うんですよ。ただ自我って、周りがあって初めて成り立つものなんですよね。幸せも孤独も、自分ひとりで完結された世界では成立しないものだと思うんです。

塔山:そうですね。今までは、無意識に自分たちだけで完結してしまうエッセンスが濃くなってたんだと思います。俺とJ.M.が仲悪くなっていた時期は特にね。周りを敵対視するのはいいんですけど、少数派でも、意外と自分の考えかたに味方してくれる人はおるんやなっていうことを、受け入れてるようで受け入れてない部分があったんでしょうね。自分で自分に囲いを作ってしまってた部分はあったのかもしれない。

-でも、今のハチゲキには周りがすごく見えてるんですよね。それは塔山さんとJ.M.さんの関係性もそうだし、スタッフとの関係性もそうだし、リスナーとの関係性もそうだし。周りが見えてるからこそ、今、ハチゲキが伝えようとしているメッセージも明確になっているんだと思います。

塔山:うん、やっぱり"結束"とか"ラヴ&ピース"とかじゃない、"自分で考えること"を伝えたいんですよね。もちろん、みんな持ってるんですけどね。みんな持ってるんだけど、忘れがちになる。そこを刺激していきたい。もちろん売れる/売れへんはありますけど、刺激し続けたい。そのために作ってますからね。それを広めてもっと大きくしていくためにも、スタッフやメンバーも俺が刺激していかなきゃいけないし、バンドをちゃんと社会の中で回っていけるようなものにしていかなきゃいけない。シーンにライドしてボコボコにしていきたいっていう思いが、今はありますからね。パンチ届けへんところで文句言っててもつまらないので。それだと、ふわっと生きてる奴らが調子乗るじゃないですか。そういう奴らにパンチ届く場所でやる。もう傷つくのも怖くない。それこそ"歯型"じゃないですけど、相手を噛める距離まで近づきたいんですよね。その意志の表れだと思います、この作品は。