Japanese
PEDRO
2024年11月号掲載
Interviewer:宮﨑 大樹
PEDROのニュー・ミニ・アルバム『意地と光』を聴いて、これは傑作だと感じた。それで筆者は鼻息を荒くしてアユニ・Dとのインタビューに臨んだのが、彼女は"手応え的には今までと変わらないかも"と話し、いたって冷静なようだ。作品の完成に浮足立つこともなく、音楽人として、1人の人間としてのレベルアップを目指す彼女の中では、アーティストとして結果を出すことへの静かな炎が燃えているのかもしれない。
-PEDROが始まってから前作(2023年リリースのオリジナル・フル・アルバム『赴くままに、胃の向くままに』)のリリースまで、アユニさんってずっと迷路の中にいる印象だったんです。作品をリリースするたびに、そのときそのときの正解を出していたとは思うんですけど、出口を出たと思ったら、また新しい迷路の入り口でしかなかった。
たしかに。生きている間はずっと迷路の中を歩いているというか。これが正解だと思ったら、まだそこが行き止まりだったりすることがずっとあって。でも、その時々の自分のベストではあるのは間違いないです。
-でも、今回完成した『意地と光』は感覚が違うんじゃないですか?
今まではこれが正解だと思いながらリリースしていたんですけど、今作はこれが正解だという張り切りというよりは、願望なんですかね。"こうであってほしい"という想いがあるのは変わらないけど、盲信しすぎていないというか。時間が過ぎたらまた自分がどうなるか分からないし、これが正解なのかは分からないけど、ただこれを抱いていると安心するのは確かで。心理的な過剰性みたいなものはないですけど、安心はします。
-こうありたいという姿はありつつ、今の自分も認めるみたいな。それで背伸びしなくなったようにも感じました。
そうですね。背伸びはしているかもしれないんですけど、何者かになろうとはしていないと思います。
-それと、自己肯定感が少し出てきたんじゃないかなと思って。
本当ですか? ずっと卑屈ですよ。卑屈だし、劣等感にも毎晩悩みますし。
-そんな自分を少し認められたような感じは?
あぁ。決して開き直っているわけではないんですけど、もはやそれを武器にしちゃおうと思うようになったかもしれないですね。恥ずかしがってそれを隠して、カッコつけた文字を羅列するよりは、今の自分が持っている武器をどれだけ磨いていけるかみたいな方向に着目するようになりました。この1年間の試行錯誤で、自分ができることを把握してきたんです。自分ってここまでしかできないんだ、しょうもなかったなって。
-それが客観的にある種の自己肯定感に感じて、そこがトレンドと重なるというか、PEDROの音楽と時代を繋げている部分に思えたんです。
ありがとうございます。社会に馴染もうとは意識しています(笑)。音楽面的には別かもしれないですけど、人間性的にもっと社会に馴染むというか、人を好きになろうと思って生きていくようにようやくなったので、それがそういう部分に反映されているのかもしれないですね。今まではどれだけ生意気に、自己中心的に生きてきたか――それが自分の中での塗り替えられない反省としてあるんです。自分はすごいやつだと勘違いして生きてきていたので、自分の力がしょうもないんだって改めて思ったときに、人は1人では生きていけないなと、あらゆる面で感じました。
-その"好きになろうと思う人"の範囲が身近になったのも、変化としてあるんじゃないですか?
そうですね。昔は世の中の全員に好かれたいと思っていたんですけど、でもそんなに上手くいかなくて。だから今の自分を大事にしてくれている、こんなヘンテコな自分を見守ってくれている方々に何倍も恩返ししようというラヴな気持ちですね。
-"近くの人を幸せにしたい"という感情が核になっていながらも、今作のサウンドやメロディは、むしろより外へ広げていきたい意識を感じたのが面白くて。
バンドとして売れたい、音楽として広まりたいというのは、好かれたい以前にあるものですからね。なので、今の自分にできるものでどれだけキャッチーさを出せるかは意識しました。その裏で「アンチ生活」みたいな曲では、どれだけドープな曲を作れるかみたいなのは試しましたね。
-『意地と光』には、その名の通り"意地"と"光"という2つの面がありますよね。それぞれの言葉がアユニさんから出てきた背景はなんだったんですか?
"意地"は自分の中にある劣等感だったり、負けず嫌いな性格だったり、そういったものから生まれてくる情熱を"意地"という言葉で表しました。
-その感情の要因は、独り立ちして活動していくなかで感じた悔しさとか?
誰かと比べて悔しがるということはあんまりなくて。ただ、過去の自分、BiSHのときの自分と比べると、思いっきり他人頼りだった自分のほうが明らかに評価されていて。自分だけの力を試したときに本当に程遠くて悔しかったです。
-では"光"という言葉が出てきた背景は?
"光"は、人がくれた優しい言葉たちとか優しい思い出、あとは未来への希望とか、もっともっとみんなで幸せになりたいなとか。そういった煌めく気持ちを"光"と表しました。
-その"意地"と"光"が、今のアユニさんを構成する大事な要素だと。
そうですね。その2つが情熱になっていて、音楽をやっている意味はそれだなと思っています。この制作期間でそれに気付いたんです。
-それって、言ってしまえば情緒不安定なのかもしれないですけど、そういう二面性こそが人間だし、今のアユニさんの核心で。だからこそ今のアユニさんにしか書けない作品になったと思います。完成した手応えも今までと違ったんじゃないですか?
いや、そんなことはないですね(笑)。できあがったからこそ、自分が想像していた数億倍カッコいい、これが今のベストだという気持ちもありつつ、私は本当に流動的な人間なので、今日新譜を作るとなったらまた違うことを書けるな、もっといい曲を作れるなとか、もっとこういうことをやってみたいな、とかがありますね。なので、わりと手応え的には今までと変わらないかもしれないです。達成感と、自分を曝け出すちょっとの恥ずかしさと、未来に何を作れるかのワクワク、みたいな。
-制作期間はどんな感じだったんですか?
前作はPEDROチーム以外の外部のサウンド・プロデューサーだったり、バンドマンだったりにプロデュースをお願いしていたんですけど、今回は大半の曲がPEDROの3人で作り上げた曲なので、やりとりは今までよりも頻繁にしていたかなと思いますね。曲を作り始めたのも、ゆーまお(ヒトリエ/Dr)さんが前のツアー("PEDRO TOUR 2024「慈」")中に"アユニちゃん、一緒に曲を作ろうよ"と言ってくれたのがきっかけで。それで"あ、いいんだ"って思いました。
-"いいんだ"?
自分ができないことを素直に言って、助けてもらっていいんだって。安心と信頼が誕生して、そこから3人でやりとりして作るというのが今までと違いましたね。
-だからこそ、この3ピースでしか作れない曲になっている。
そうですね。ゆーまおさんは再始動のときからPEDROをやってくださっているんですけど、最初の頃は私が上手く心を開けなかったので、"この子は何がしたいんだろう"、"この子はどういう音楽を作りたいんだろう"という手探りの状態だったと思うんです。だけど、ツアーを一緒に回って、制作期間で一緒に探求していくなかで、"アユニちゃんはこういうのをやったらもっと良くなるんじゃないか"とか、"アユニちゃんがやりたいのってこういうことなんじゃないか"とか考えてくださったんですね。それがライヴでも制作でも、すごく助かりました。
-作詞の面ではどうでした?
作詞活動は、良かったです。BiSHの頃からの習性なんですけど、移動時間は基本的に何か考えていて、作詞したり文字を書いたりすることが多いんですよ。それは変わらずありつつも、今までは夜から朝にかけて文章を書くというのをしてこなかったんですけど、「アンチ生活」とか「hope」は、睡眠を忘れて文字を書いていましたね。それは今までと違ったかもしれないです。
-その深夜の時間帯はどんな時間なんですか? 言葉を絞り出すのか、どんどん浮かんでくるのか。
もう"手が追い付かねぇ~!"って。進研ゼミみたいな感じでできました。1日にいろいろあって、いろいろな人に会って、いろいろな言葉を貰って、夜にお家で1人になったときに、その全部が繋がってそのまま衝動的に書くんです。
-前作とはだいぶ状況が違いますね。
前作は難産すぎました(笑)。前作も好きだし大事なんですけど、この作詞期間は音楽が好きだという気持ちを特に確信したきっかけでもありましたね。
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