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LIVE REPORT

Japanese

PEDRO

Skream! マガジン 2022年01月号掲載

2021.12.22 @横浜アリーナ

Writer 宮﨑 大樹 Photo by kenta sotobayashi

PEDROの無期限活動休止前ラスト・ライヴ"横浜アリーナ単独公演「さすらひ」"。それは、いつも通りのSE、そして"PEDROです。よろしくどうぞ"といつも通りの挨拶から1曲目「感傷謳歌」で始まった。しかし、ステージに立つアユニ・Dの様子はいつも通りではない。彼女の瞳は少し潤んでいたし、その顔はどことなく泣き腫らしたあとのようにも見えた。それでも、その視線はしっかりと前を見据え、笑顔で力いっぱい声を出して歌っている。ステージ上部にはアユニ・D(Vo/Ba)、田渕ひさ子(Gt/NUMBER GIRL/toddle)、毛利匠太(Dr)をそれぞれ映す巨大画面が3枚。この場に集まった人には、PEDROのことを"BiSHのアユニ・Dによるソロ・バンド・プロジェクト"と認識する方はもう多くないだろう。PEDROとは、今やこの3人でしかありえない、純然たるロック・バンドなのだ。だからこそ、3人それぞれの表情を切り取る必要がある。

"私は生まれてこのかたずっと猫背で生きてまいりました。でも気づいたんです、猫背を伸ばしてみないと見えない世界があるってことを。みなさんも、もっと伸ばしてみませんか? いろんな世界を観たくありませんか?"とアユニ・Dが投げ掛ける。内向的だった彼女からそんな言葉が出てくるなんて、PEDRO始動時には考えられなかったことで、なんとも感慨深い。感情が高ぶったまま「猫背矯正中」で前のめりに突っ走るアユニ・Dと、そこへ冷静にシンクロしていく田渕ひさ子と毛利匠太のふたり。いいチームワークだ。溢れ出し、渦巻く感情のままにパフォーマンスをしていたアユニ・Dだったが、乾杯の"音頭"と"温度"を掛けた小話風のMCあたりから、少し肩の力が抜け、逆にエンジンは温まってきた様子。「乾杯」、「浪漫」と続けていくうちにバンドのグルーヴもぐんぐん高まっていき、筆を執る筆者も自然と身体が揺れていた。

アユニ・Dと田渕ひさ子は"(客席が)近く感じますね、不思議ですね"と話していたが、観客も同じことを感じていたんじゃないだろうか。拳を上げたり、ハンドクラップを起こしたり、キャパシティ1万オーバーの横浜アリーナにもかかわらず、小さなライヴハウスでPEDROと相対しているような感覚がそこにはあった。それは先週までツアーでライヴハウスを回っていたからかもしれないし、アユニ・Dがひとりひとりに対して歌おうとしていたからかもしれない。いずれにしても、演者と観客の心の距離が近かった。「pistol in my hand」、「SKYFISH GIRL」とダークでオルタナティヴな曲を繋ぎ、PEDROの始まりの1曲「自律神経出張中」から「無問題」、「NIGHT NIGHT」へとキラーチューンを惜しみなく披露する。3人の鳴らす音が、ひとつの塊になってぶつかってくる感覚が堪らない。

ここまでの前半戦は、花火や銀テープ、曲の世界観を増幅させる光と映像の演出など、出し惜しみせず全部乗せするような内容だった。そこから、バックにバンドのロゴが映し出され、よりシンプルな演出が施されながら3rdアルバム『後日改めて伺います』の全曲を披露する後半戦へ突入する。

この『後日改めて伺います』では、アユニ・Dが全曲で作詞作曲を手掛けた。だからこそ音楽的にひとつの作品として一貫性があるし、歌詞にはPEDROを通して成長した彼女の魂が投影されている。プラスの感情もマイナスの感情も詰め込まれ、美醜を併せ持つひとりの人間の内面が露になったアルバムとも言えるだろう。そういった作品ではあるが、この『後日改めて伺います』で音楽を届ける対象は、あくまでPEDROを愛した"あなた"。だからこの後半戦は、より"あなた"へと向けられたセクションだったように思う。その中で、特に印象的だった曲のひとつは「魔法」だった。ゆらゆらと燃える炎、ミラーボールから射す光、その中で揺蕩う歌声が織りなして生み出された世界は、得も言われぬ美しさだ。スケールの大きい演出も相まって、世界中のどんな音楽フェスに出てもオーディエンスを感動させることができるんじゃないかと思わせてくれた。そういう意味でも、ここで活動休止になるのはやはりもったいないと言わざるを得ない。

"今日が来るまで、昨日とかは特にあまりうまく息ができなくて、なんでか涙が止まらなくなってしまったりして。何度も何度も、もう生活するのやめちゃおうかなとか思ったんですけど、今日までちゃんと生きてきて良かったなって思います。何もかも嫌になっちゃいそうなときは、今日のこの時間とか、あなた方の好きなものとか、大切な人の言葉とかを思い出して、忘れないでほしいなって思います。私もそうやって生きていきたいです"(アユニ・D)。

最後のMCでそう語り、「人」と「吸って、吐いて」を届けると、アユニ・Dからの愛、観客からの愛、スタッフからの愛、横浜アリーナは愛しかない空間になった。

魔法のような一夜を締めくくったのは「雪の街」。白色の光に照らされながら、すべてを横浜アリーナに出して置いていくかのようにPEDROの音楽を鳴らし切った。アウトロの余韻が残るなか、スモークに包まれながら田渕ひさ子と毛利匠太は無言でステージを去る。アユニ・Dはひと言"ありがとう"と感謝を伝えてライヴは終演。3人それぞれが"さすらひ"の旅に出たのであった。

PEDROの歴史を振り返るような前半(=過去)、今のアユニ・Dの等身大を描いた後半(=現在)、ではその先(=未来)には何があるのだろうか。きっとそこへの願いを込めたものが"後日改めて伺います"なのだろう。

ライヴ中のMCで、アユニ・DはPEDROの活動について"毎日夢のような時間だったんです。でも全部が私の本当なんだって今は思います"と話していた。きっと、彼女の音楽に共感した人、背中を押された人、関係者に至るまで、PEDROと関わっている時間は多少なりとも夢のような感覚だったんじゃないだろうか。そしてその感情や想いは、"全部が本当"だ。

PEDROの3人に、いつかまたライヴハウスで会えますように。そのときまで、今日のこの思い出は宝物のように心にしまっておこう。


[Setlist]
1. 感傷謳歌
2. 夏
3. 猫背矯正中
4. GALILEO
5. Dickins
6. 乾杯
7. 浪漫
8. 生活革命
9. pistol in my hand
10. SKYFISH GIRL
11. 自律神経出張中
12. 無問題
13. NIGHT NIGHT
14. 安眠
15. ぶきっちょ
16. いっそ僕の知らない世界の道端でのたれ死んでください
17. 死ぬ時も笑ってたいのよ
18. おバカね
19. 万々歳
20. 魔法
21. 人
22. 吸って、吐いて
23. 雪の街

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