Japanese
PEDRO
2023年10月号掲載
Interviewer:宮﨑 大樹
今年2023年6月29日にBiSHが解散し、その翌日に新代田FEVERでのシークレット・ライヴ"午睡から覚めたこどものように"で再始動を果たした、アユニ・D率いるバンド・プロジェクト PEDRO。再始動後にはシングル『飛んでゆけ』(2023年8月)をリリースし、現在全国ツアー"PEDRO TOUR 2023「後日改めて伺いました」"を実施中、さらに日本武道館ワンマン2デイズを控えるなど精力的に活動している。そんなアユニ・DとPEDROの現在地点に迫る。
もっともっと人の人生にPEDROの音楽が交わって、PEDROの音楽が生き物になって 日々の煌めきになれるものになりたい
-この取材に来るときに「飛んでゆけ」のMVをYouTubeで観ながら来たんですけど、おすすめ動画に"THE BIRTH OF PEDRO"(※PEDRO始動のドキュメンタリー映像)が出てきたんですよ。
えー! ヤバい! 懐かしすぎる。
-久しぶりに観てみたんですけど、思い返せばPEDROって渡辺淳之介(BiSHマネージャー)さんに"BiSHは長く続かないと思うからベースをやらないか"と言われたところから始まっていましたよね。そのときは、まさかそれが現実になるとは想像できなかったんじゃないですか?
まったく無自覚ですね。まだ10代でしたし。
-それからこの1年半の間にPEDROの活動休止、BiSHの解散発表、そしてBiSH解散当日とその翌日のPEDRO再始動を迎えることになりました。
BiSH解散までの1年半はPEDROを活動休止して、ありがたいことにお休みの日がなかったんです。常に何かBiSHで動いていて、メンバーとは毎日会っていましたね。めまぐるしい日々だったんですけど、その中でもPEDROチームのみなさんが時間を作ってくださって、制作したり家でベースと触れ合ったりしていたんです。BiSHに専念して活動休止と言いつつ、水面下でPEDROはずっと動いていたから、私の中では休んでいるという意識はまったくなくて。常に頑張らなきゃいけない焦りがあって、それで自分の首を絞めていたときもあったんですけど、PEDROチームがずっと向き合って動いてくださったおかげで新曲もすぐに出せたし、解散の次の日にライヴをさせてもらうこともできました。面白いことを実現させてもらえたので、ありがたい1年半でしたね。
-制作もしていたし、ファンクラブなども動いていたし、活動休止というよりはライヴだけがない感覚だったんですかね?
そうですね。お客さんの前に立っていないというだけでした。
-PEDROのスイッチは入ったままだったと。BiSH解散の翌日がPEDROの再始動ライヴでしたけど、そこの切り替えはどうでした?
切り替えも何もないというか(笑)。(再始動ライヴが)ずーっと頭の中にはあって、良くも悪くも東京ドームでのライヴ("Bye-Bye Show for Never")中も翌日のことが頭をよぎる瞬間もあって。バンドとしてのライヴをしていなかったので、ベースの技術ロスでテンパっていました。ひとつずつの物事にしっかり向き合える力がなかったので、東京ドームのセトリが......東京ドームの立ち位置が......PEDROのあの曲のコードが......みたいにテンパっていて。でも、そういうありがたい環境を作ってもらえたから、"やるっきゃない!"という感じでした。
-そんななかで迎えた新代田FEVERは反省点もあったようですけど、ファンとしては待望の復活の場になりました。
人生で初めて解散という経験をして、ほぼ眠れず朝を迎えたらもうPEDROが始まって。来てくれたお客さんはほぼ全員東京ドームに来てくれていたので、お客さんもほとんど寝ずにいろんな感情を持ってFEVERに来てくださっていたんです。なので、良くも悪くもカオスなライヴだったなと。お互いに限界の先を超えているみたいな。何をやっても盛り上がるし、何をやっても悲しくなるし、何をやっても楽しくなるようなライヴは初めてでしたね。あの日があったからこそ、もっと精進しなきゃと前向きに捉えられました。あれが穏便に終わっていたら、たぶん今の自分はいないです。
-BiSHの解散とPEDROの再始動で、アユニさんの生活は一変とまではいかないかもしれないですけど、少しは物理的な時間が生まれたのかなと思うんです。そういうときに、新しいインプットだったり、新しいアウトプットだったりもできるようになったんじゃないですか?
それしかないです。今までは曲を用意してもらえて、振付も衣装も、スケジュールとかも全部決めてもらえる恵まれた環境の中で約7年間やらせてもらっていて。すごくありがたかったんですけど、目の前に置かれたものに向き合うだけで日々が過ごせていたんです。BiSH解散後は、ようやく自分軸の暮らしが始まった感覚があります。二足の草鞋を履いているときは"ベースの練習をしなきゃ"とか、"レコーディングがあるから練習しなきゃ"みたいな感覚だったんですけど、今はもう24時間で寝ている時間以外はずっとPEDROのことを考えられている実感があって。"仕事だからこうしなきゃ"とか、"プライベートだからこうしなきゃ"って今までは考えていたんですけど、そもそもそんなものは存在しないなと最近気づきました。人間という生物自体が習慣でできていると思っているので、音楽も生活も、趣味、特技、食べること、寝ることとかも全部そうなんですけど、すべてがしっかり結びついている、全部繋がっているとようやく気づいたんです。だから日々のすべてがインプットで、日々のすべてがアウトプットみたいな感覚が今は大きいんですよ。
-なるほど。
極端なことを言うと、例えば区役所に行くとして、朝起きて区役所に行くまでの経験、気づいたことも全部PEDROでアウトプットしたいなって。今までは映画とかを観てインプットして、それをベースや歌に落とし込まなきゃと思っていたんですけど、今は24時間インプットで、24時間アウトプットみたいな暮らしになりました。私にとっては暮らし自体が音楽に繋がっているみたいな感覚ですね。
-生活と音楽が融合したんですね。
そうですね。今まで無意識、無自覚だったものにちゃんと着目できるようになったと思います。
-そういった生活面の変化もありましたし、再始動にあたって個人事務所"浪漫惑星"を設立しましたよね。これによって仕事の幅や裁量が増えたところもあるんですか?
具体的にどこかが広がったかというと、そんなことはまったくないんですけど、自分としての感覚ではやっぱりすごく広がりましたね。今まではGoogle カレンダーにどなた様かが予定を入れてくださって、それに沿う人生を送るみたいな、私の人生はカレンダーに操られていると思っていたんです(笑)。だけど今はスケジュールを作り上げることにも関与させてもらえていますし、今まで知らなかった仕組みとかも知るようになりました。なんでこのインタビューがあるのかとか、PEDROは今こう思われているけど、これを伝えたいからこの仕事があるとか、そういう意識的な仕組みもそうですし、ビジネス的な仕組みもしっかりお話をするようになったので、ようやく大人の階段を上れた感じがします。なので"お仕事楽しい! やりたくてやってる! 最高!"みたいな感じです(笑)。もっと社会貢献したい気持ちになるくらい、お仕事に関しては意識が膨大になりました。
-社会貢献という言葉がアユニさんから出てくる日が来るとは(笑)。事務所だけでなく、BiSHのアユニ・Dのバンドという肩書がなくなって、アユニ・Dのバンドになったことも意識の変化に繋がりそうです。
それはありますね。"自分の人生の舵取りは自分でやるんだ"って。PEDROの最初は社長から"やらないか?"って――社長の"やらないか?"は"やれ"だと思ってやりましたけど、今は"PEDROは俺のものだ!"みたいな(笑)。まぁ、ひとりでできることなんてたかが知れているんですけど、今は昔よりも軸を掴もうとしている最中ですね。
-そういうところで、楽曲やアーティスト活動を通して発信したいことも変わりましたか?
変わりましたね。昔からわかっていたことでもあるんですけど、ライヴに足を運んでくださるお客さんの存在とか、手紙を書いてくださるお客さんとか、SNSのメッセージの言葉とかを見て、"PEDROの音楽って自分が思っている以上に人の暮らしに交わっているんだ"、"人の人生に交わることができているんだな"と最近改めて思って。それで"私が生み出すべきものはなんだろう"、"私の生きる使命はなんだろう"みたいなことを考えたときに、もっともっと人の人生にPEDROの音楽が交わって、PEDROの音楽が生き物になって、日々の煌めきになれるものになりたい、という想いはすごく大きくなりました。それを変な言い方にしたら"社会貢献"とかになりますけど、人をもっと感動させたいというところに導かれますね。アイドルの子ってよく"人を笑顔にさせたい"、"元気にさせたい"とか言うじゃないですか? それが本当に真理なんだなって気づきました。
-それが今のアユニ・Dの根幹になりますか?
そうですね。
-PEDROが再始動してからそこに至るまでは、ストレートな道のりでしたか?
迷路。大迷路です(笑)。今年の夏は"人生大革命"って大声で叫んでいいほどの大迷路ですね。
-今回のツアーも最近の制作も波があったというか、反省点が多かったそうで。
人間の調整期間、人体実験期間みたいな感じで。まぁ今もなんですけど、徐々に徐々に心身ともに軽やかになってきました。
-大迷路の中で光が見えたきっかけはなんだったんですか?
赤窄(諒/A&R)さんの存在ですね。迷路の奥に迷い込みすぎておかしくなっちゃったときに、しっかりまっすぐ向き合って手を差し伸べてくださる人物ってそうそういなくて。で、その存在が赤窄さんなんです。1回しっかりお話してからまた自分の世界が変わったというか、大革命がありましたね。自分でつけた私の足枷を赤窄さんが外してくださった。
-スランプだったときの状態はどんな感じだったんですか?
他人軸の人生をずっと歩んで来ちゃっていて。人が"これがいい"と言っていたからこれにする、人が用意してくれたからそれをやるみたいに、自分のことを何も知らない状態で20数年間生きてきてしまっていたんです。そこから簡潔な言い方をすると"自分探し"を始めたときだったので、"こうなりたい"とか"何者かになりたい"みたいな気持ちが強くなりすぎておかしくなっちゃって。今はもうその執着から解放されて、"何者とかじゃないんだ。私は私でいいんだ"ってようやく思えたんですけど、それまでは例えば誰かが"水を1日2L飲まないとダメ"と言ったら絶対そうする、みたいな感じでしたね。そのときはおかしかったです。ちょっと前の自分はヤバかったな、しんどかったですね。
-でもそういう状態から抜け出せたと。
そうですね。人は唯一無二だから、その人に合った暮らしがそれぞれあるから、自分のことをまずはわかっていこうと思えたきっかけでした。
-PEDROの音楽ってそのときそのときのアユニさんのありのままが出てきていたと思っていて、それがファンの心を掴んでいたところもあると思うんです。だからありのままというのが大事なんでしょうね。そしてバンドの変化としては、ドラムにゆーまお(ヒトリエ)さんが加入したことが大きいと思います。ゆーまおさんが参加して、PEDROというバンドにはどんな変化がありましたか?
ゆーまおさんは物理的にも精神面的にも心強いんです。ドラムに関しては探究心が溢れている方で、今でもめちゃくちゃテクいのに、ライヴをするたびに本人的に気づきと学びがあるみたいで、それをお話ししてくれるんですよ。レコーディングでは1テイクごとにちょっとニュアンスを変えるだけでまったく別の曲に聴こえたりして、技術面では本当に圧巻です。あとは知識が豊富な方なので、いろんな話ができるから、一緒にいると豊かになれる存在ですね。もともと私は中学生の頃からヒトリエが大好きだったので、そこはもうハッピーでしかなくて。ゆーまおさんが"PEDROって思ったより温かいね、意外と平和だね"みたいなことを言ってくださったんですけど、それはゆーまおさんの存在が大きくて。ゆーまおさんが今回サポート・ドラムを引き受けてくださっているから、平和になっているというのはあります。精神的にはバンマスだと思っているんです。すごい兄さん、背中が大きすぎる兄さんって感じ。
-宇宙一尊敬しているギタリストの田渕(ひさ子/ex- NUMBER GIRL/toddle)さんと、中学生の頃から聴いていたバンドのドラマーの音が一緒に鳴っている、そしてそこで演奏しているって最高でしょうね。
本当に生き甲斐でしかないですね。どうあがいたって生き甲斐でしかない。幸せです。
-それは寝ているとき以外はPEDROのことを考えますね。
そうなんですよね(笑)。ウキウキするんですよ。
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