Japanese
PEDRO
Skream! マガジン 2021年11月号掲載
2021.09.07 @Zepp DiverCity(TOKYO)
Writer 宮﨑 大樹 Photo by 外林健太
後付けに聞こえるかもしれないけれど、この日の3人のパフォーマンスからは、やはりこれまでとはどこか違った空気を感じ取っていたような気がする。
PEDROが夏から全国をまわった"SENTIMENTAL POOLSIDE TOUR"。その東京 Zepp DiverCity公演は、「東京」で幕を開けた。アユニ・Dの歌声として思い浮かぶのは独特な揺らぎのある心地よさなのだが、今日の彼女のそれは、意志や覚悟の強さ、そしてただならぬ気迫を感じさせるものだった。エッジの効いた田渕ひさ子(NUMBER GIRL/toddle)のギター・ソロからもそんな印象を受けたし、毛利匠太のドラムは、静かに燃える青い炎のごとく、内に熱さを秘めていた。
3ピースで三位一体の音を鳴らし、ひとつのうねりとなった「愛してるベイベー」、バッチバチの照明で高揚感を生んだ「猫背矯正中」、心の叫びを音楽に転化するかのようにヒリヒリとした歌唱を放った「Dickins」――PEDROというロック・バンドが2月の日本武道館以降も着実にバンドのグルーヴを育んできたことは、すでに明らかだった。
一斉にギターとベースをかき鳴らし、ドラム・セットを壊さんとばかりに叩きまくってから"音楽は宇宙である!"(アユニ・D)と言い放って「GALILEO」で突っ走る。間髪入れずに田渕ひさ子がリフを鳴らすと"人生、山あり谷ありせわしない! 転んだっていい! 起き上がればいいじゃないかぁあ!"と、再びアユニ・Dがシャウトし「無問題」へ。思うがまま、感情のままにライヴをしているようにも見えるが、その一方で曲間の繋ぎまで意識した"バンドのライヴ"を作り上げていることも伝わってきて、またひとつPEDROがバンドとして成長を遂げていることに感慨深くなる。
"私は家が好きな人間なんだなって自分でも思っていたんですけど、2週間ちょっとずっと家にひとりでいたら気が滅入ってしまったというか、心が知らぬ間にどんどんダメになっていて。でも、人と会った瞬間、心が生き返ったというか、元気になって。私は今までさんざん音楽に救われてきたとか言っていたんですけど、音楽じゃなくて、人に救われてばっかりだなって改めて感じた最近でしたね。やっぱ人間の力ってすごいなというか、人が今まで生きてきた力とか、生きている力とか、そういうものに私は生かされているなって思いました。今日ここで顔を合わせて生存確認ができて、私は幸せです"(アユニ・D)。
MCでそう語ったアユニ・Dは、"普通の日常の尊さ"を歌った「日常」を届けていく。優しくて、少年のようにピュアな歌声は、聴いているだけで心をほぐされるようだ。ギターの音色も温かく、柔らかで気持ちいい。そんな「日常」から「おちこぼれブルース」へとミドル・テンポの曲を並べると、急旋回してディープなオルタナティヴ・ロックの世界へ。「EDGE OF NINETEEN」、「SKYFISH GIRL」、「pistol in my hand」の流れでロック・スターさながらに感情のまま歌うアユニ・Dと、それを支える――いや、下から突き上げていくようなバンドのエネルギーも凄まじかった。
"僭越ながらわたくしが、今から乾杯の音頭を取らせていただこうと思うのですが、お飲み物をお持ちの方はお飲み物を、お持ちではない方はぜひ拳を上げてくださいませ。みなさまの人生と健康を祝しまして、乾杯!"(アユニ・D)と、各々が飲み物や拳を上げてから「乾杯」を投下。フロアは熱量をグッと高めて、バンドと共に"乾杯"で一体となったところでライヴは後半戦へ。MCで今回のツアーにまつわる夏の思い出を語ってから"今日があなたにとって最高の夏の思い出になりますように"と願いを込めて「夏」を届ける。爽やかでもあり、刹那的でちょっぴり切なくもあるこの曲は、夏の終わりを感じさせるこの時期にピッタリだ。「浪漫」から「空っぽ人間」と温度感のある2曲を続け、「空っぽ人間」のラストで田渕ひさ子が泣きのギター・ソロを奏でる。そのままリバーブの効いたアルペジオでメロディを紡いで始まった「生活革命」では、なんとも言えない美しい音世界を作り上げていった。
"楽しい時間はあっという間に過ぎていきます。まだまだ続いてほしいけど......人生そう上手くはいかないんですけど、最後、もっともっと行けますか!?"とアユニ・Dが煽って「自律神経出張中」からラスト・スパートへ。その言葉通りに名残惜しそうでもあり、同時に、ここですべてを出し尽くそうとする気概も見せたPEDROが本編を締めくくったのは「感傷謳歌」だ。"良いことは生きていないと起こらない/やってやろうじゃないか"。そう歌うアユニ・Dの歌声は、この先どんなことがあっても生きてやる、やってやる、そういった強い決意を孕んでいるように思えた。
この日のアンコールは、心が揺さぶられるほどに情感たっぷりの歌唱をした「うた」から、最後は「NIGHT NIGHT」でぶち上げて終幕。そして、田渕ひさ子と毛利匠太がステージをあとにするなか、アユニ・Dだけがひとりステージに残った。
"PEDROは活動休止します"。
そこで彼女から語られた言葉は、この場にいたすべての人に重くのしかかった。
PEDROは、年末に開催される"横浜アリーナ単独公演「さすらひ」"をもって無期限活動休止になる。このツアーを終えてすぐに動き出す"SAYONARA BABY PLANET TOUR"、そして年末の"さすらひ"。活動休止をもったいないと心底思える今夜のライヴだったのだが、たくさんの感情を抱きながら、そのときまでの軌跡をこの目に焼きつけていきたい。
[Setlist]
1. 東京
2. 愛してるベイベー
3. 猫背矯正中
4. Dickins
5. GALILEO
6. 無問題
7. 日常
8. おちこぼれブルース
9. EDGE OF NINETEEN
10. SKYFISH GIRL11. pistol in my hand
12. 乾杯
13. 夏
14. 浪漫
15. 空っぽ人間
16. 生活革命
17. 自律神経出張中
18. 感傷謳歌
En1. うた
En2. NIGHT NIGHT
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