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FEATURE

Japanese

PEDRO

2021年02月号掲載

PEDRO

Writer 宮﨑 大樹


初映像作品&2ndシングルを同時リリース。日本武道館までの軌跡を振り返り、最新作に迫る


PEDROを追っていると、まるで映画を観ているような気分になる。

"北海道にいたなんの変哲もない女の子"(本人談)が、東京で行われるオーディションのことを知り、思い切って応募。これに見事合格して"楽器を持たないパンクバンド"BiSHの新メンバーとして上京したのは2016年のことだった。

そこから先輩メンバーの歌とダンスに必死で食らいついていく怒濤の日々を送り、やってきたのが2018年2月10日。アユニ・Dは、所属事務所"WACK"代表の渡辺淳之介らに呼び出され、"ベースをやらない?"と提案を受ける。PEDRO誕生の瞬間だった。BiSHに入ったことで人生が一変したアユニ・Dだが、この日PEDROが始動したことで、よりパーソナルな部分、人間性も含めた彼女の変化のストーリーが、ここから始まっていくことになる。

バンドマンとしての道を歩み始めたアユニ・Dが、PEDROとしての初作品でやってみたのは、等身大という言葉で括るには物足りない、彼女の内なる部分を曝け出して"しまう"ことだった。自身の変化を求めて芸能の世界に飛び込んだ彼女の中には、北海道にいたころからの鬱々とした感情が、未だに蠢いていた様子。その感情の生々しさは残しつつ、独特すぎる言葉のセンスで濃い目の味つけを施した作品『zoozoosea』(2018年)のゲリラ・リリースで、PEDROは鮮烈なデビューを飾った。

super zoozoosea

ゲリラ・リリースの話題が冷めやらぬなか、新代田FEVERで行った1stライヴ"happy jam jam psycho"。そこで、サポート・メンバーとして共演することになった田渕ひさ子(NUMBER GIRL/toddle)との出会いが、アユニ・Dにとっての幸運な出来事になる。ベースの初心者が日本を代表するギタリストのひとりと同じステージに立つ、という大事件の当事者になったアユニ・D。このことがきっかけで、彼女は改めて音楽と向き合い、心の内なる世界は広く、深く、彩り豊かなものに変わっていく。

アユニ・Dの変化は、PEDROの新作を聴くたびに感じられた。『zoozoosea』では、ジャンルへの意識よりも曲の中毒性を意識していたが、レーベル移籍後の1stフル・アルバム『THUMB SUCKER』(2019年リリース)では、アユニ・Dが前作をきっかけにいろいろな音楽を聴くようになり、好きになったというガレージ・ロック、オルタナティヴ・ロックを軸とした作品へ。『THUMB SUCKER』以降も作品の変化はとどまることはなく、最新アルバム『浪漫』(2020年8月リリース)では世界がさらに深化。PEDROは、今や"BiSHのアユニ・Dのソロ・プロジェクト"ではなく、独立したひとつのバンド、アートだと思わせるに至った。

こうしたサウンド面だけでなく、アユニ・Dが書く歌詞の変化にも驚かされる。初期作品で印象的だった、自己を削り出して綴る極彩色の言葉は、聴き手に届けることを意識したストレートな表現に変化。負の感情を綴るしかなかった歌詞には、"人生は不条理で溢れてるけど、意外とロマンチックなんだよ"と想いを込めるようにまでなった。田渕ひさ子、毛利匠太(Dr)、PEDROチームと作品を作り、ツアーを回る幸せな日々が彼女を変えたのだ。

そんな"アユニ・Dの成長記録"とも言えるPEDROは、今年2021年2月に始動から3年を迎える。2018年9月25日に新代田FEVERで初ライヴを経験した楽器初心者の少女は、今年2月13日に"日本武道館単独公演「生活と記憶」"で、日本武道館のステージに立つことになった。日本武道館は、多くのミュージシャンにとって憧れの舞台であることは言うまでもないが、アユニ・Dは、BiSHでもまだ立っていないその日本武道館のステージに立つことになる(意外ではあるが、田渕ひさ子も日本武道館で単独公演を行うのは初めてだそうだ)。とはいえ、きっと彼女はそういった歴史や背景にいい意味でとらわれず、PEDROはPEDROとして、ただひたむきに全力で、3人の現在地点の音楽を届けてくれることだろう。

この日本武道館単独公演を前にして、PEDRO初のライヴ映像作品『LIFE IS HARD TOUR FINAL』が世に送り出されることになった。本作は、2020年9月24日に行われた"LIFE IS HARD TOUR"ファイナル、LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)公演を収録したもの。この時代ゆえに人数制限もあり、限られた人しか会場に行くことが叶わなかったライヴということもあり、本公演を映像作品化する意義は非常に大きい。衝動的に楽器をかき鳴らし、ガレージ感のあるバンド・サウンドと歪ませたヴォーカルがPEDROらしい質感の「WORLD IS PAIN」でスタートダッシュを決めてから、ラストの「NIGHT NIGHT」までの約100分間は、観ているうちにグングンと心拍数が上がりアドレナリンが出っ放し。曲の世界観をブーストさせている山田健人の映像演出を、腰を据えて観ることができるのも映像作品ならではだろう。筆者は本公演に足を運んでいたが、後方の席からではハッキリと読み取ることができなかったアユニ・Dの表情や感情の変化が、本作ではしっかりと捉えられている。ライヴが進むにつれて自己を解放していく様、時折見せるロック・スターのような顔つき、1本1本のライヴの中でもアユニ・Dはフロントマンとして成長している。目まぐるしく切り替わり、躍動感のあるカメラワークでは、怪獣が鳴くような鋭角ギターを鳴らす田渕ひさ子の手元や、毛利匠太のパワフルなドラム・プレイにもフォーカス。これらには、PEDROをアユニ・Dのソロ・プロジェクトではなく、ひとつのバンドとして捉え、伝えていこうとする意志が表れている気がした。曲、パフォーマンス、演出と、どの角度から見てもカッコいいライヴをしていくなかで、普段の3人のほっこりとした雰囲気を感じさせるMCも良かった。

さらに、映像作品と同日に、2ndシングル『東京』もリリースされる。松隈ケンタ作曲、アユニ・D作詞の表題曲は、「浪漫」と地続きの温度感のあるサウンドで、よりいっそうグルーヴ感を増したように思える。心地よく歪んだ田渕ひさ子のギターと、それを支えるリズム隊のバランスもいい。図らずも、冒頭にPEDROは映画のようだと表現したが、この曲は、もしも"PEDRO"が映画だったら、その第1章でエンドロールに流れる曲に相応しいと感じた。北海道から出てきて暮らしている東京という街を軸に、アユニ・Dが人生を振り返ってひとり語りをしているような歌詞は、彼女のこれからとこれまでを包み隠さず、背伸びせずに表現したような印象だ。サビ終わりに"生きていこう"ではなく"生き抜いていこう"と歌うあたりは、なんだかとてもアユニ・Dらしい。"東京"を題材とした曲としては『zoozoosea』に「甘くないトーキョー」があるのだが、当時と今とでは、"東京"への想いやイメージが変わった部分もあるのだろう。これからも東京で生きていきたい、そんな前向きな意志が感じられる1曲だ。歌詞には入っていないが、サビ終わりに"フゥ!"なんて声を上げてしまうあたりに、今のアユニ・DとPEDROの状態の良さも窺えた。

カップリングには、田渕ひさ子がPEDROでは初めて作曲を手掛けた「日常」を収録。「東京」とはまた違うタイプの優しさ、田渕ひさ子の人間性、内から滲み出る音楽、というのが第一印象だった。これは憶測に過ぎないが、田渕ひさ子は「日常」をいわゆる曲提供としては捉えず、PEDROの一員としてバンドやアユニ・Dを想って制作していったのではないだろうか。この曲からは、田渕ひさ子からPEDROへの深い愛情を感じることができた。曲の持つ力や、仮歌に影響されたのかもしれないが、透明感があり包み込むようなアユニ・Dの歌唱には心が洗われたし、ヴォーカリストとしての新境地も感じさせた。歌詞については、こちらの曲でもアユニ・Dが担当。彼女は、PEDROでの活動を経て、日常が心から好きになり、大切にするようになったのだろう。絶大の信頼を置き、愛を注ぐ田渕ひさ子が手掛けた曲に書いた歌詞というだけあって、言葉の節々からは少し肩の力を抜いた、自然体のアユニ・Dを感じさせた。

今回、映像作品を視聴し、2ndシングルを聴いたことで、日本武道館への期待がますます高まった。即完した日本武道館単独公演。幸運にもチケットを手に入れられた方も、残念ながら会場に足を運べない方も、これらの作品で日本武道館に向けて気持ちを高めてもらいたい。

この文章を執筆している時点で、PEDROは日本武道館を目前に控えた"SOX & TRUCKS & ROCK & ROLL TOUR"を敢行している。その初日に、1stライヴが行われた新代田FEVERに帰ってきたPEDROは、アンコールで同公演の再現ライヴをしてみせた。この3年間でグルーヴ感が向上したバンド、そして成長と状態の良さを感じさせたアユニ・D。本ツアーでさらに調子を上げていった先の日本武道館で、PEDROはどんなパフォーマンスを魅せてくれるのだろうか。そして、日本武道館のその先に、PEDROにはどんな展開が待っているのだろうか。まるで映画のようなPEDROの物語は、きっとこれからも続き、広がりをみせていくのだろう。


VIDEO MEASSAGE


▼リリース情報
PEDRO
2ndシングル
『東京』
pedro_tokyo.jpg
2021.02.10 ON SALE

【通常盤】
UPCH-80550/¥1,000(税別)
amazon TOWER RECORDS HMV

[CD]
1. 東京
2. 日常

「日常」先行配信はこちら

LIVE Blu-ray / DVD
『LIFE IS HARD TOUR FINAL』
PEDRO_LIHT_VIDEO_hyou1.jpg
2021.02.10 ON SALE

【初回生産限定盤 豪華BOX仕様】(Blu-ray+2CD+Photobook)
UPXH-29045/¥10,000(税別)
【通常盤】(DVD)
UPBH-20272/¥4,500(税別)

"2020.09.24 LINE CUBE SHIBUYA LIFE IS HARD TOUR FINAL"
1. WORLD IS PAIN
2. 猫背矯正中
3. 愛してるベイベー
4. 来ないでワールドエンド
5. 後ろ指差すやつに中指立てる
6. GALILEO
7. pistol in my hand
8. ボケナス青春
9. さよならだけが人生だ
10. 無問題
11. 感傷謳歌
12. へなちょこ
13. ironic baby
14. Dickins
15. おちこぼれブルース
16. 生活革命
17. SKYFISH GIRL
18. 乾杯
19. 自律神経出張中
20. 空っぽ人間
-ENCORE-
21. 浪漫
22. NIGHT NIGHT

[Blu-ray限定コンテンツ]
Document of LIFE IS HARD TOUR

[LIVE CD2枚組]
2020.09.24 LINE CUBE SHIBUYA LIFE IS HARD TOUR FINAL

サブスク限定先行配信はこちら
[収録曲]
1. 来ないでワールドエンド
2. pistol in my hand
3. へなちょこ
4. 生活革命
5. SKYFISH GIRL
6. 自律神経出張中
7. 浪漫

LIVE INFORMATION
"日本武道館単独公演「生活と記憶」"

2月13日(土)日本武道館 ※SOLD OUT
OPEN 16:00 / START 17:00
詳細はこちら

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