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INTERVIEW

Japanese

Lenny code fiction

2023年08月号掲載

Lenny code fiction

Member:片桐 航(Vo/Gt) ソラ(Gt) kazu(Ba) KANDAI(Dr)

Interviewer:山口 智男

-ストレートに表現した最初の曲は「ビボウロク」ですか? "強そうに見える強がりだけじゃ/心は疲れるらしい"という歌詞は、まさにそうだと思うのですが。

片桐:実は、アルバムの最後の「幸せとは」なんです。「ビボウロク」をシングルとしてリリースする前からアルバムに向けて動き出していて、新たな書き方を試した1曲目がその曲だったんですよ。

-「幸せとは」の歌詞の中で、以前の自分だったら書かないというフレーズはありますか?

片桐:"プライドのせいで素直になれない"はまさに以前の自分を歌っているんですけど、5年前だったら書いてなかったと思います。

-片桐さんが「幸せとは」の歌詞を書き直してきたとき、3人はどう思いましたか?

ソラ:片桐 航という人間が物事に対してどう考えているのかとか、こういうときにはどういう感情が生まれるのかとかわかっていたので、そういう感情が出てくることに驚きはありませんでした。ただ、それを歌詞にして世に出すってことに対しては意外性があったので、そういう意味では勇気が必要だったんだなというのは思いました。

-今度作るアルバムではこれまでとは違う歌詞の書き方をしてみるという話は片桐さんから聞いていたんですか?

ソラ:いえ、歌詞に関しては僕らは口出ししないという暗黙のルールがあるし、航も何も言わないので。僕らは彼が書いてきたものに対して、何ができるか考えるだけですね。

-kazuさんとKANDAIさんは、「幸せとは」の歌詞が上がってきたとき、どんなふうに感じましたか?

KANDAI:シンプルにわかりやすいと思いました。

kazu:そうですね。自分が思っていることを、難しい言葉ではなく、シンプルな言葉で書いたことによって、航という人間像と曲を聴く人の距離感が近くなったと思いました。

KANDAI:個人的には、そんなに本も読まないし、言葉に対してこだわりがあるわけではないんですけど、そんな僕でもストレートに入ってくる歌詞が何ヶ所もあったので、僕にそう聴こえるんだったらお客さんにはもっと刺さるんだろうなって素直に思いました。

-そういう歌詞を書くのは難しかったですか?

片桐:「幸せとは」は書き上げるまでに1ヶ月くらいかかりましたね。でも、そのお陰でコツみたいなものは掴めたので、新たな試みではありましたけど、アルバムを通してちゃんと馴染んでいると思います。

-他に歌詞の面でストレートに表現できたと思う曲を挙げるとしたら?

片桐:1曲目の「夢見るさなか」の"ウザいよなぁ"みたいな普通の言葉もこれまで使ってこなかったものだと思いますし、「Sleepless Night」もかなり描写が具体的というか、感情の面だけではなくて、自分の生活感まで出したのは新しかったですね。

-「夢見るさなか」は曲全体がサビみたいな不思議な曲ですね。

片桐:曲を作り始めたときから、メロディがかなり気に入っていたんです。"メインにこのメロディがあればどんな曲になってもいいや"ぐらいの気持ちだったので、アレンジもどんどん変わっていったんですけど、メロディは一切変えてないんです。そこにこの曲の良さがあるんだと思います。歌詞も「幸せとは」の流れでちゃんと書けたので、完成度としてはアルバムの中でもトップというか、表現者としてはかなり満足できる1曲になりましたね。

-この曲を1曲目に持ってくるところも面白い。

kazu:最初は違ったんですよ。マスタリングする直前に、航がやっぱり変えたいと言い出したんです。僕も意外でした。この曲が1曲目っていうのは。

-1曲目は勢いのある曲で、というのは固定観念かもしれないですけど、この曲を1曲目にしたいと考えた片桐さんには意表を突くとか、今回のアルバムはこれまでとは違うということをまず表現したかったとか、それとは違う意図があったわけですね?

片桐:根本的な意図としては、11曲目に「幸せとは」があって、それに繋がるというところで最初に聴かせたかったっていうのもあるんですけど、言ってもらった通り、意表を突きたいという気持ちもどこかにありました。ここからじんわり始まるみたいな幕開け感というか、アルバム・タイトルとジャケ写のイメージも出揃って、最後に全曲を並べてみたとき、もともと考えていた1曲目じゃなくて、やっぱり「夢見るさなか」じゃないと納得いかないとなって、これでいきますって無理矢理そうしました(笑)。

-もともと、1曲目にはどの曲を考えていたんですか?

片桐:6曲目の「アイデンティティの始まり」です。もともと1曲目にするつもりで作ってたからそれでも良かったんですけど、それだと今までのイメージと変わらないと思ったんです。だったら、新しい1歩なんだから、やっぱり「夢見るさなか」しかないって。最後まで悩みましたけどね。

-たしかに「アイデンティティの始まり」もかっこいい。ひょっとして6曲目というのはアナログ盤のB面の1曲目ってことですか?

片桐:それは意識しました。

-「アイデンティティの始まり」は、2番からベースが跳ねるところがかっこいい。

kazu:展開がそこでがらっと変わるので、どれだけ変化できるかって発想でベースのフレーズも思いっきり変えてみました。それまでの8ビートを刻むプレイから音を抜いて跳ねてみたら、四つ打ちになるドラムとも合って面白くなりましたね。

-その他、ダイナミックなドラムのタム使い、ギター・リフのかっこ良さ、凝ったコーラス・ワークなど、聴きどころがたくさんある曲ですよね。さっき話題に出た「Sleepless Night」もアーバンな曲調とラップ風のヴォーカルが新しいと思うんですけど、この曲もさっきおっしゃっていたように趣味で作った曲のひとつなんですか?

片桐:そうです。こういう曲は一時期いっぱい作っていたんですけど、ようやく出せました。シングルにしたいぐらい好きだったんですけど、いきなりシングルにしたら変化が大きすぎるんで、アルバムには絶対入れようと決めてました。アルバムの中の1曲としてはぴったりだと思うんですよ。こういう曲はこれからどんどん増やしたいですね。

-「Sleepless Night」は歌の裏でずっとリード・フレーズを弾いているソラさんのギターも聴きどころですね。

ソラ:ヴォーカルがラップ調なので、誰が上メロを奏でるんだというところで、自分しかいないだろうって思いました。やっぱりメロディって曲には絶対必要だと思うんですよね。

-歌詞の書き方が変わったことに対して、楽器隊に何ができるのかというところでは、どんなふうに考えたんですか?

ソラ:歌詞がどう変わったのか言葉にするとしたら、リアリティや人間味が以前よりも出てきたということだと思うんですけど、1stアルバムやそのあとにリリースしたシングル『脳内』(2019年リリース)までは、結構モダンなハード・ロックをやっていたと思うんですよ。僕の個人的な考え方では、それってちょっとファンタジー寄りなんですよね。だけど、そういうサウンドよりもドライヴ感をちょっと減らしたクラシックな感じのほうが血の通った感じが出せると思ったので、わかりやすいところで言うと、歪みの量やギターの重ねをがっつり減らしました。そのサウンドの変化は大きいと思います。 

-より生々しい音色になった、と。

kazu:僕も同じ考え方です。例えば、悲しいことを歌っているのにベースが弾き倒していたら、世界観の軸がぶれちゃうというか、歌詞が悲しいのにベースに耳が行っちゃったら本末転倒だと思うので、歌詞のテーマからぶれないようにというのは意識しました。それこそ「幸せとは」は、そこを意識して、フレーズもかなり厳選しました。