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INTERVIEW

Japanese

ビッケブランカ

2022年09月号掲載

ビッケブランカ

Interviewer:吉羽 さおり

自分のどの部分を評価してくれるかで、オーダーが明確に変わるので、僕は飽きずにやっていられる


-そしてさらにドラマ・タイアップ曲が続いて、東海テレビ/フジテレビ系土ドラ"個人差あります"の挿入歌となったのが、「魔法のアト」。こちらは書き下ろし曲ですね。

これはドラマ自体に僕も出ているんです。ドラマの中で、"チェルキー"というシンガー・ソングライター役をやらせてもらっているんですけど、設定としてはその"チェルキー"が葛藤を歌った曲なんですよね。それを挿入歌として使ってもらって、ビッケブランカとしてリリースをするというものになるんです。

-実際に自分に役柄があって、曲を書いていくというのはいつものパターンとはちょっと違う感じですか。

意外とそうでもなくて。これがまた特殊で、意外とそのままの自分だったりするんですよね。"チェルキー"が歌うと思って歌ってないんです。ビッケブランカとして選んだ言葉、メロディとメッセージがあって、それがたまたま"チェルキー"にも、ドラマにも合ったという感じで。

-サウンドはピアノ1本でというのは、当初からのイメージですか。

ストリングスだけ入れてみようかと1回試したんですけど、実際入れ出すと、ベースも欲しいし、ベースを入れるとドラムも欲しいしとなっていくと、結局本質とは変わっちゃうから。この曲は、ピアノすらいらないんじゃないかくらいの感じですね。歌と声と歌詞というADELEくらいの感じで、それしかないものにしようと思ってミックスもしています。

-美しい曲ですね。歌が際立つからこそ、抱えている矛盾とか、葛藤が浮かび上がるものになっている。

歌、デカすぎなかったですか。

-それはなかったですね。もしや曲が進むにつれていろんな音が入ってくるのか? と、最初に聴いたときには耳をそばだてる感じはありましたが。

でも最後まで入ってこない(笑)。2番でちょっとコーラスが入るくらいで。

-楽器からエレクトロ的な音響などいろんな音を使ってきて、そこからここまでミニマムに削ぎ落としていくことは、それはそれでまた試行錯誤があるものですか。

メロディとか歌詞に関しても変わったことはしていなくて、ブレスの一個一個、リップ・ノイズまで聞こえるくらいの録音の仕方をしている感じで、見せ方が変わったくらいかなと。それだけでこれだけ印象が変わることを示せたなら良かったなと思います。これに普通にバンド、ストリングスを入れてやったら「まっしろ」(2018年10月配信リリース)みたいな曲にもなるわけで。そうじゃないふうに完成させるというチャレンジのひとつですよね。

-それにしても、いろんなことが同時進行していたんですね。様々な作品へ向けての曲作りもそうですし、ツアーのことも考えながらの状況で。そういうなかでも、シンガー・ソングライターという自分に近い役を演じることについて、最初はどう思いましたか。

嬉しかったですね。全然芝居ができないし、自分の芝居を見るのはサムいので、サムくないようになりたいからレベルを上げていきたいというのもあって。帰る場所として音楽を作る人間というところがしっかりあるからこそ、寄り道もできるんですけど、そういう機会を貰えるのは嬉しいですね。

-先ほど「魔法のアト」はビッケブランカとして選んだ言葉やメロディという話がありましたが、台本を読んだり、監督たちとも話をしたりしながら作っていった部分はあるんですか。

そうですね。でも内容に関しては特に話があったわけではなくて、テンポ感とかくらいかな。"竜の道 二つの顔の復讐者"という「ミラージュ」(2020年リリースの4thシングル表題曲)がオープニング曲だったドラマと同じプロデューサーの方(水野綾子)なんですけど、「北斗七星」(『BEST ALBUM SUPERVILLAIN』収録曲)をすごく気に入ってくれていたんです。そういう縁もあってお話を貰ったから、これは期待に答えたいなと思ったし、「北斗七星」みたいなバラードっておっしゃったから、それの最たるものを作った感じですね。

-みなさんいろんな曲をきっかけにしてビッケさんを知って、さらに期待を込めていろんなオーダーをしてくれるという感じですね。その際たる形が、もう1曲の「Treasure」でしょうか。

これもドラマ"家電侍"への書き下ろしですね。監督たちと話をしていたときに、インパクトのある変わった声でも、僕は別にいいですよって監督がプロデューサーに言ったんですよ。いいっすねってなって。それで見事にそれをやってのけて、という(笑)。テーマとしては家族愛を明確に示してくれていて、僕も家族愛は深いほうだと思うので、それをただまっすぐに歌おうと。そこはふざけずにちゃんと伝えるし、メロディもこだわる。で、これができるっていう。

-主題歌でビッケブランカとして歌うけれど、声は思い切り変えちゃうという。

そうそう(笑)。5年間で4枚もフル・アルバムを出したから、1曲くらいこういうのも良くない? って。しかもそれを面白がってくれる懐の深い監督だし、心意気がありますよね。そもそもドラマが江戸時代に家電が来たらという設定だったりもするから、そういうアンバランスなものをミックスする許容度が深い監督だったと思うんです。

-改めて「Treasure」を、加工なしで聴いたらどうなるだろうって、すごく聴いてみたいんですよね。それくらいグッドメロディで。

実はね、いいんですよ(笑)。これをライヴでは、めっちゃいい歌のまま弾き語りするかもしれないし、というのびしろを持ったままリリースされていくんだなと思います。

-ドラマ主題歌で、ビッケブランカにお願いをして、これだけエフェクティヴに声を変えた曲でもOKになるというのはなかなかないですね。

そうですね。それこそ「魔法のアト」の場合は、「北斗七星」のメロディとバラードと声を評価して話をくださったから、そういう曲ができあがるし、逆に"家電侍"の監督やプロデューサーは、あなたのアイディアが面白いよねって評価をしてくれているから、それに応えると。自分のどの部分を評価してくれるかで、オーダーが明確に変わるので、僕は飽きずにやっていられると感じるんです。もし、これが全部バラードだったらもう絶対にやってないと思うんですよ(笑)。みんなが「まっしろ」がいいから、「まっしろ」みたいな曲を書いてくださいって言って4曲書いていたら無理でしたね。

-今年に入ってからもまさに怒濤の制作ですね。ベスト・アルバムがあり、5周年のツアーのことも考えながら、こうして新曲を作り続けていて。

元来、僕は頑張り屋さんじゃなくて。なまけ者なんですよ。自分に甘いし。だから、大変ですよね(笑)。

-そういうことでは、主題歌を作ってほしい、こんな曲で作品を盛りあげてほしいなどといろんなお話が来たり、いろんな切り口を試すことができる時間があったりすることは、自分を動かす動力にもなっている感じですね。

それが幸いしていますね。これが、何もタイアップもなくただ4曲書けと言われたら、目的がわからないってなってしまうと思うんですよ。幸いにも、面白いと言ってくれたり、書いてよって言ってくれたりする人がいるという、恵まれた環境で良かったなと思いますね。

-全国ツアー("THE TOUR「Vicke Blanka」")も目前に迫ってきましたが、ツアー最終日の東京ガーデンシアターの公演は、"Vicke Blanka presents RAINBOW ROAD -軌-"と題したスペシャルなものになるそうですね。

地方に行って、こんなに全国に待っていてくれる人がいるということを改めて実感して。みんなが、ここに行けば間違いないっていう場所を、こちらから提示しないといけないと思ってたんです。"RAINBOW ROAD"の今回は"軌"の章です。今までアルバムを5年間で4枚出してきましたけど、全部テーマ・カラーが違って。ビッケブランカとしての色はなく、7色な感じで活動をしてきたから、レインボーがいいなというのはありました。これは、これからも続けていくもので、主催イベントとして本拠地を作るという感じですね。

-全国ツアーでの内容とはまた違ったものになっているということですね。5周年の集大成となる全国ツアーの先について、なんとなくでも思い描いているものはありますか。

"RAINBOW ROAD"ってイベントもできるので、しかも毎年1度ないし2度そんな場所を開催して、本拠地としてやれることが根づいていけば、また豊かな音楽活動になっていくんじゃないかなという予感がしていますね。今までは目の前のことを追い掛けて、走り続けてきて。本当に人参をぶら下げた馬みたいに走ってきたんですけど、そろそろ継続することの良さというのを体感したいし、それをみんなで共有したいなと思ってます。